#03-01 飛行船の上のシンセサイザー弾き/難波弘之 | BIG BLUE SKY -around the world-

#03-01 飛行船の上のシンセサイザー弾き/難波弘之

BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0101_飛行船
[飛行船の上のシンセサイザー弾き/難波弘之] (1982)


Side-A
1. 鵬
2. 飛行船モルト号
3. ホスピタル
4. トロピカル万国博
Side-B
1. 空中の音楽
2. メッセージ
3. 百家争鳴
4. ソラー・ラヴ
5. 永遠へのパスポート


キーボード・プレーヤー難波弘之 氏の 3作目は、氏自作の SF 小説を基にしたトータル・アルバムだ。
以前に、「ロック・キーボード奏法の全ては Keith Emerson と Jon Lord から学んだ」 と書いたことが有るが、私にとって難波氏は二人に並ぶ唯一の存在である。

難波氏は、中学一年から SF 同人誌 "宇宙塵" に参加し、中学三年の時に SF 小説 "青銅色の死" で安倍能成文学賞一席入選の快挙を成し遂げて、早くから頭角を現していた。大学在学中に、稀代のボーカリスト金子マリを擁する "バックス・バニー" に参加して、その後はプロ・ミュージシャンの道を歩んでいる。

難波氏の演奏を初めて聴いたのは、金子マリ&バックス・バニー 1st アルバム ('76) だった。ファンキー・ソウルを志向するバンドの中で、プログレッシブ・ロックをルーツとする難波氏のプレイが、バックス・バニー・サウンドを特徴付けて、他のバンドと一線を画したものにしていた。直ぐに難波氏のファンになり、氏作曲のインスト曲 "韋駄天バニー" の演奏をコピーして、楽器屋の miniKORG700S で弾いたものだった。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0102_mari&baxbunny
[Mari & Bux Bunny] (1976)  "あるとき" 収録,未 CD 化作品


バックス・バニーを脱退した難波氏は、ソロ活動を始めると同時に、ロッキン f ,キーボード・マガジン等の音楽誌に過激とも言える内容の記事を書くようになる。プログレッシブ・ロック,ハード・ロックを指向して、Keith Emerson,Jon Lord のプレイ・スタイルを絶賛し、ハモンド・オルガンを愛する氏の記事を読んで、ロック少年は難波氏こそ自分達のオピニオン・リーダーだと心強く思ったものだった。益々、難波氏のファンになって行った。

難波氏は、2作目 "Party Tonight" ('81) の A 面に収録された組曲 "パーマー・エルドリッチの三つの聖痕" で、キーボード・トリオによるプログレッシブ・ロックを展開した。そして B 面には難波氏自作の SF 短編に基づくタイトル曲 "Party Tonight" が収録され、ジャケットとライナーに描かれた佐藤道明氏のイラストと共に、SF 小説・画・音楽のトータル作品を成していた。
(この種の作品としては、英国のキーボード・プレーヤー Dave Greenslade が、画家 Patrick Woodroffe と組んだ作品 "The Pentateuch Of The Cosmogony" ('79) が有名である)
"Party Tonight" は、当時のシーンにあって画期的な作品であり、プログレ少年は狂喜して、難波氏こそ新世代のヒーローだと確信したのだった。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0103_partytonight
[Party Tonight/難波弘之] (1981)


満を持した 3作目 "飛行船の上のシンセサイザー弾き" は、田辺モット (B),そうる透 (Ds) とのキーボード・トリオ "Sense Of Wonder" + ゲスト・プレーヤーで演奏される、全編プログレッシブ・ロックの作品となった。"飛行船モルト号" 冒頭でのメロディー (CCD♭A♭FG) と SUS4コード (C-F-G,B♭-E♭-F)、 "百家争鳴" 出だしのネームの分からないコード (C-F-B) の連打 ...  アルバムを毎日毎日繰り返し繰り返し聴いて、難波氏の楽曲・演奏から多くを学んだ。
六本木ピットインで定期的に行われていた "Sense Of Wonder" のライブにも、毎回足を運んだものだった。難波氏は、ロック・スピリット溢れるパフォーマンスで聴衆を圧倒した。当時、キーボード・トリオで活動していた私は、自身の演奏上の課題を解決するためのヒントを求めていた。そのために、難波氏からライブ・パフォーマンスにおける演奏・編曲上のポイントを学ぼうとしたのだが、そんなことよりも、ロック・スピリットの大切さを再認識させられた。この時期、私が次の段階へと進むことが出来たのは、難波氏のお蔭だ。


BIG BLUE SKY    ~旅の空の下で~-0104_飛行船小説版
[小説版 飛行船の上のシンセサイザー弾き/難波弘之] (1982)


メジャー・レーベルから作品を発表し続けるためには、一定のセールスを上げ続けることが必要となる。難波氏は、NHK 教育テレビでロック講座 (趣味講座ベストサウンド) の講師を務めたり、FM 誌にプログレッシブ・ロックの記事を書いたりと、精力的にセールス・プロモーションを行っていた。シーンを生き抜くためには、野心と渇望と努力が必要なことを、氏は教えてくれた。"真幻魔大戦" ('84),"ブルジョワジーの秘かな愉しみ" ('85),"N氏の天球儀" ('86) は、プログレッシブ・ロックの金字塔となっている。

ここ十年ばかり、Club Citta' 川崎でのイタリアン・ロックや日本のバンド KENSO のライブの時に、観客として来ている難波氏を見かけることが有る。そのような時、私はいつも声に出さずに氏に礼を言うのだった。

(Hiroyuki Namba official site: http://www.vega-net.ne.jp/namba/ )


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