小学生のとき、ものすごくものすごく好きな男の子がいた。


その人は坊主頭で、ニコッと笑った顔がすごく可愛くて、そしてものすごくものすごく、性格が良くて明るい人だった。

そう、甲本ヒロトにそっくりな人だった。

 

人と話すのが苦手な私にも自然に話しかけてくれて、おどけてみせて、笑わせてくれる。

いつも元気な人だった。そして、人を気遣える人だった。人が落ち込んでたらすぐに気づいて、眉毛をクイッと上げて目を見開いて、ちょっと口を突き出して、「どしたの?」って聞いてくれる。そして、冗談を言って、笑わせてくれる。



あの人はクラスの男子たちと暴れるのも大好きだった。ステージの上でピョンピョン飛び跳ねているヒロトを見ると、あの人のことを思い出す。



あの人は、歌うのも好きだった。だいたい、なにかしら口ずさんでいた。あの人の歌声が好きだった。

一度、あの人が私に、いきものがかりの『YELL』を歌って聴かせてくれたことがある。そしたら胸に響いて響いて、私は教室で大号泣してしまった。


あの人はビックリしながら、「えー、そんな良かったの、俺の歌」って笑った。

だから、歌ってるヒロトを見ると、あの人を思い出して苦しい。もしヒロトが『YELL』を歌ったら、ちょっとヤバイかもしれない。



あの人とは、中学も同じだった。卒業文集には、「今は音楽に興味があるから、やってみたい」と書かれていた。


だから、中学を卒業したら上京してロックンローラーになろうとしていたヒロトを見ると、あの人を思い出してすごく胸が苦しくなる。



あの人は、好きな女の子にもすごく誠実だった。無理やり迫ることはしなかった。別に結ばれなくてもいい、ただ好きでいられればいいという感じだった。

だから『ラブレター』を聴くと、あの人とヒロトが重なって、毎回泣いてしまう。




もう嫌だ、お願い。これ以上あの人のこと思い出したくない。
そう思ってるのに、それでもヒロトを見てしまうし声を聴いてしまう。

最近では、ふとした瞬間にあの人とヒロトが重なると、手が震えて、息が浅くなる。
でもやっぱり見ちゃうし、曲も聴いちゃうんだよな…。



今まで、ノエル・ギャラガーが世界で一番あの人に似てる人だと思ってた。面倒見のいいとことか、三人兄弟の真ん中なとことか、笑顔が可愛いとことか…。

でもこれ、あれだね、もっと似ている人を見つけてしまったね。幸か不幸か。