タイトル:アルジャーノンに花束を

著者:ダニエル・キイス

訳者:小尾芙佐

出版社:早川書房






☆あらすじを自分流に(ネタバレあり)


 32歳になっても幼児なみの知能しかなく、「賢い自分」を夢見ているチャーリイ・ゴードンは、知能向上の実験を行う大学教授たちの実験台となる。先に特別手術を受け知能を手に入れた白ネズミのアルジャーノンに次いで、チャーリイが人間としてその手術を受ける第一人者になったのだ。知能が変化していく過程を研究するため、教授たちはチャーリイに「経過報告」を書かせる。約8ヶ月間にわたって書かれたチャーリイの経過報告そのものが物語になっているという、ある種の日記文学だ。


 手術により、チャーリイの知能は徐々に高くなり、チャーリイはかつて夢見ていた「賢い自分」となる(知能の向上に比例して、経過報告の拙い文章が洗練されてゆく様は見事だ)。


 しかしチャーリイは知能向上に伴い、障がい者ということを理由に母に虐待されていた過去や、それまで友達だと思っていた者たちが自分を嘲笑していた事実を知ってしまう。さらに、急激に高められた知能に感情が追いついていない状態であるため、情緒不安定になり、周りの人間との関わりにも苦しむようになる。チャーリイは、大学の知的障がい成人センターの教師アリス・キニアンと交際するものの、彼女とも上手く付き合うことはできなかった。


 そして、チャーリイはその高い知能を駆使し、1本の論文を書き上げる。研究や論文の作成を経て得たものは、人工的に高められた知能は、その後急速に下がっていくという残酷な結果だった。チャーリイの出した結果の通り、アルジャーノンの知能は下がり、そして死を迎えた。同じ手術を受けた自分もアルジャーノンと同様の結末を迎えるのだと悟ったチャーリイは、なんとか知能を維持したいと考える。しかし、そんなチャーリイの思いも虚しく、やがてチャーリイの知能は下がってゆく。記憶力や運動能力、言語能力の低下に伴い、チャーリイの経過報告は初期の拙い文章へと戻ってゆく。そしてついに、彼は自分の家の場所や、アリスと愛し合ったことを忘れ、知能が高かった頃に自分が書いた経過報告の内容も理解できなくなってしまう。チャーリイが最後に書いた経過報告は、こんな言葉で締めくくられた。


「どーかついでがあったらうらにわのアルジャーノンのおはかに花束をそなえてやてください。」


 この一文には、やがてアルジャーノンと同じ結末をたどる(要するに亡くなる)自分の代わりにアルジャーノンを悼んでほしいという、チャーリイの切ない優しさが込められている。





☆この本を読んで連想したもの

・人の人生そのもの(幼児期→青年期→老年期)

・自分の受験(総合型受験の際に大学に提出した論文を読み返したが、自分の書いたものと思えなかった。物語後半で再び知能が下がってしまったチャーリイが、知能が高かった頃の自分が書いた報告書を読んでも理解できなかった場面で、自分とチャーリイを重ね合わせた)

・ルパン対複製人間のマモー(自身を高いレベルにしようと模索し、結局死を迎えた。後半のチャーリイを通して、マモーのクローンの著しい衰退を思い出した)

・ビートルズやオアシス(一気に音楽の頂点に駆け上がったが、ビートルズはわずか8年で解散し、オアシスもギャラガー兄弟がゴタゴタ喧嘩しているうちに儚く解散してしまった。突然 華が咲いてすぐに散っていくような様は、チャーリイに似ていると思った)





☆その他、雑な感想

・後半を読んでいるとき、頭の中でオアシスの『ドント・ルック・バック・イン・アンガー』がBGMとして流れていた。読み終えて、話の内容を思い出そうとしたときもこの曲が頭で流れた。この本と曲の相性は良いように思う。歌詞もメロディも物語に合っている。それは、私がオアシスを好きだからかもしれないが。
 


・最後に全てを忘れてしまったチャーリイがアリスと会う場面では泣きそうになった。チャーリイのことを思ってもつらいが、アリスの立場で考えるとさらにつらい。アリスはチャーリイの最後の経過報告を読んで、何を思ったのだろう。

・知らない方が幸せなこともある。それはこの本を読むということにも同じことが言える。読めば世界が広がるけれど、読まなければこんなに苦しい気持ちにならずに済んだ。