こんにちは、あすなろまどかです。
今年の5月まで、「ジキルハイド」という1話完結型の小説を投稿していました。
その際、ブロ友さんから、
「ジキルハイドの登場人物、境リコのスピンオフ作品が読んでみたい」
という意見をいただきました。
ずいぶん時間が空いてしまいましたが、いつも丁寧なコメントをくださるその方の期待に応えたいと思い、書きました。
「ジキルハイド」のスピンオフ作品、「境リコ」は、第1話から第7話まであり、話が繋がっています。
今回は、第1話です。
小説「ジキルハイド」の第1話はコチラ↓
小説「ジキルハイド」の最終話はコチラ↓
第1話 殺し屋
「殺し屋?」
「そうなんだよ。なんでも、すごく腕の立つ奴らしい」
果物屋の男は答えた。
境リコは少し考えて、尋ねた。
「そいつの特徴は分かってるの?」
「いや、それがよく分かってねえんだ。どこかから拳銃で人を撃ち殺したあと、姿を見せずに颯爽と消えちまうらしくてな。拳銃を持って逃げている人物を見たという報告はいくつかあるんだが、証言した奴らが言うことがみんな違うんだよ。ひとりは派手な服を着た女だって言うし、ひとりは真っ黒なマントに身を包んだ性別不明の奴だって言う。毎度毎度、色んな格好をしてるから、その正体が分からないらしいよ」
「そうなの…」
リコは考え込んだ。
彼女、境リコは殺し屋である。リコにはプライドがあった。それゆえ、自分より上かもしれない殺し屋の存在が出てきたことに、焦りを感じていた。リコはその正体不明の殺し屋とやらに、どうにかして、一度直接、会ってみようと考えた。
「分かったわ、ありがと。もし手がかりになりそうなことがあれば、すぐに連絡するわね」
「おう。助かるよ」
リコを殺し屋だと微塵も思わない男は、愛想よく答えた。殺し屋の女リコは、果物屋の男に軽く手を振り、店を後にした。
これは、ジキル・ハイドと多くの行動をともにした女、境リコが、彼と出会う前の二十代前半の頃に体験した物語である。
若かりし日のリコは、さまざまな場所に愛車で赴き、暇つぶしに拳銃の腕試しをしたり、ナンパしてきた男を殺したりすることを日課としていた。
その日、果物屋を後にしたリコは、いつものように軽自動車を走らせていた。今日はどんな場所で銃を乱射しよう、今日はどんなみっともない男が私に声をかけてくるだろう、と楽しみに胸を躍らせながら。
そのときだった。突然、前輪が外れたのは。
バランスを崩した車は当然のごとく横転し、リコはとっさに自身の身を守った。やがてボロボロになった愛車がなんとか止まると、リコはゆっくりと身を起こし、車の中から這い出た。
と、リコの耳に、少女のかん高い笑い声が響いた。
「あはははは。おばさん、だっさ! でも死ななかったのは、すごいね」
リコはすっかり腹を立て、こう怒鳴り返した。
「どこなの、小娘? コソコソせずに出てきなさい!」
ジキルと知り合った頃のリコであれば、冷静になって少女に皮肉を返したりもできただろう。しかし、その頃のリコは若かった。侮辱されれば、怒鳴らずにはいられなかった。
「あーあ、そんなにカッカしちゃって。更年期ってやつ?」
またも響く少女の声に、とうとうリコの頭には血がのぼった。
「あんた、私が一体幾いくつに見えてるわけ!? 私は二十四よ。まだ若いのよ!」
「ごめん、ごめん。あたしから見れば、二十四も五十四も、みっともないおばさんだからさ」
そう言いながら、少女は近くの茂みから姿を現した。からだじゅうに緑の葉っぱがついている。その小さな手には、立派な拳銃が握られていた。
「あたし、ミミ。殺し屋よ」
リコは、あ然として目を見開いた。
〜第2話へ続く〜