こんにちは、あすなろまどかです。
今回は、小説「クリムルーレの花」第7章(最終章)です。
前回の第6章はコチラ↓
ラチルドとケットが正式に式を挙げ、タットたち5人はクリムルーレ家となったのだ。
ある日、タット=クリムルーレとフィーダ=クリムルーレは、ベル・フラワーフィールド(美しい花畑)にやってきた。
ふたりで花畑をぶらぶらと歩いていると、不意にタットが「あ。」と声を漏らした。
「どうしたの?」
フィーダが聞くと、タットは苦笑いしながら、ドロドロの青い何かを拾い上げてみせた。
「シェイのポスターの一片だよ。」
フィーダも、決まり悪そうに苦笑いをした。それから、ふたりは愉快に笑い合った。
「シェイの半分を置いていったの、そんなに前のことじゃないのよね。何だか変な感じ。」
「僕もだよ。」
それから、沈黙がやってきた。穏やかで、のどかな沈黙だった。荒れに荒れていた、何日か前のそれとはまるで違う沈黙だと、タットとフィーダは思った。
高い空のどこかでヒバリがチチチと鳴き、それを合図にしたかのように、優しい春風がふたりに吹きつけた。愛する人と同じ風に当たっているという共通の幸福が、ふたりを静かに包んだ。
「フィーダ。」
タットの声にフィーダが振り向くと、真っ赤なアネモネが彼女の視界にとび込んだ。
フィーダは驚いて、目を丸くした。タットは頬をアネモネと同じ色に染め、もう1度、彼女の名を呼んだ。
「愛してる。いつまでも、いつまでも。」
フィーダは海色の目を潤ませ、差し出された赤いアネモネを受け取った。情熱の血のようなその色は、太陽の光を受けてきらきらと輝き、生命の力強さを感じさせるようだった。
「ありがとう。」
フィーダはこたえた。そして、恥ずかしそうに後ろを向くと、ゆっくりと振り返り、まっすぐにタットを見つめた。
「私も、いつまでもいつまでも、愛してるわ。馬鹿なタット。」
タットは笑った。フィーダも笑った。どちらからともなく、ふたりは手を繋いだ。
花畑に立つこの美しい男女は、もしも誰かが目にしていたら、神の婚礼と勘違いしたに違いない。
〜The End〜