こんにちは、あすなろまどかです。


 今回は、小説兼エッセイ「あすなろの木」の第四話、「英雄になれなかった男」です(今回も、フィクションとノンフィクションが混ざっております。)。


 さくらももこさん(先生)の「もものかんづめ」を読んだ直後に書いたものなので、なんだかだいぶ影響を受けてしまったような気がするのですが、まあ気にしないでくださいw

 

 一応このエッセイ、次回で終わる予定です。まだどっちにするか、全然分かんないですけどね。一度終えたとしても、第二期(第二弾?)として再開するかもしれませんし。

 

 あ、登場人物は「あすなろの木  第一話 大名行列」の最初に記されていますので、そちらをご覧ください。

 

 それでは、どうぞ!

 

 

 

第四話 英雄(ヒーロー)になれなかった男

 

 私がその電車に乗り込んだとき、既にそれは多くの人間を呑み込んだばかりであった。これから約三十分間、押しつぶされるストレスと戦いながら学校へ行かなくてはならないのだと思うと、気が滅入った。

 大体にして、なぜわざわざ学校へ行く必要があるのだろうか。んなもん家で勉強できるし、行っても花子ぐらいしか友だちいないし…。

 そんなことを心の中でグチりながらも、心変わりが早い私は、これから起こるかもしれないチカンやテロにワクワクしてきていた。

 それから起こったことは、チカンやテロほどの重大な事件ではなくとも、とても面白い事件だった。酔っ払ったオッサンが、座席の上でグウと寝込み、足を投げ出して、オマケにヨダレまで垂らしていたのだ。タラコ唇と汗ばんだ汚いYシャツを繋いでいるその神聖な橋は、周りの乗客を震え上がらせるには充分なエッセンスであった。隣のキレイなお姉さんは、これでもかと体を反らして顔をしかめている。その異常さと、お姉さんの曲がりくねった眉に、腹の底から笑いが込み上げてきた。

 さすがキレイなお姉さん、顔が歪んでもキレイだなー、と少し憧れていると、

「次はー、紅葉町ー、紅葉町ー。」

 車内アナウンスが流れ、電車はスピードを落としていった。

 ハア、もうここらで降りちゃおっかな。通学路からは大幅に外れるけど、そうすれば外で思いっきり笑うことができるし、授業をサボることもできる。

 と、電車が完全に止まり、ドアが開いた瞬間、例のオッサンがフガッ!と言って目を開けた。その瞬間に私のガマンは限界に達し、まるで波をせき止めておいたダムがブッ壊れたせいで一気に流れ出たように、「くっはっははは!」と乾いた笑い声を漏らしてしまった。

 あわてて口をふさぐと、オッサンは般若のような顔で私を睨みつけながら、千鳥足でホームに出ていくところだった。

 すると、睨むのに必死で前方への注意を怠っていたオッサンが、電車とホームの間に足を引っかけ、勢いよくすっ転んだ。私はまた、「ブッ」と吹き出してしまった口を押さえた。

 オッサンは最後のひと睨みを私に見せつけると、転げ出るようにその場を離れていった。

 ドアさえもオッサンに呆れて「プシュー」とため息を吐きながら、もうひとつのドアとピッタリくっついた。

 ああ、オッサンのせいで降りそこねた。まいっか、マジメに授業を受けに行くとしよう。

 オッサンのおかげで学校へ行こうと思い直すことができたわけだが、よく考えると、私が降りようと思った本当の理由は、おかしなオッサンとともに私を突如襲ってきた笑いの波をしずめるためであり、学校をサボろうと思ったのはそのついでだったのだ。ということは、まあオッサンがいなければ学校へ行こうと思い直すことができなかったというのは事実だが、オッサンがいなければそもそも学校をサボろうとも思っていなかったわけであって、私の中で少し英雄へと成長しかけていたオッサンは再びランクを下げられ、結局プラスマイナスな存在に落ち着いてしまったのであった。




 これで、第四話はおしまいです。

 なーんかオチが微妙な感じになってしまったけど、これ以上のものが思いつきませんでしたw

 

 ありがとうございました。それでは、さようなら!