「なぜ、なんで・・・・」
「また、もう一度、再び会う時の為に・・・・」
「殺せ!見つけ出せ!!なんとしてでも忌み子を見つけ出して殺すんだ!!
あいつが災いをもたらした!!」
「何があっても殺せ、見つけ出せ!」
「見逃すな、どんなことをしてもだ!!」
村人総手の山狩りは執拗を極めていた。
それぞれに鉈や毒を塗った弓を持ち、大声でお互いに声を掛け合いながら歩いていた。
(あいつらっ!なんでっ!!)
木の陰に隠れたり、よじ登って枝に立って執拗に追いかける者達を見下していた。
(このままじゃあっ!!)
「いたぞ~!!あそこだ!!」
弓を引き絞ると毒矢が飛び交った。
猿の声が響き渡った。
「猿だと、あいつじゃない!!」
(誰が当たるか、お前達の的外れな弓矢になんぞ!!)
怒りというよりも憎悪の目を向けて、一気に枝から枝へと飛び降りた。
地面へと降りると、木々を隠れ蓑としてさらに山深くへと駆け抜けていった。
「皆殺しにしろ、一人も生かすな!!」
「見逃すな、殺せ、殺し尽くせ!!」
「根絶やしにしろ、狩り尽くせ!!」
甲冑を身につけた武家らしきものが叫びつつ、目についた村人たちを誰彼構わず殺していく。
老若男女問わず、抵抗するしないに構わず、人影を見たら斬りかかっていく。
(なんで、なんで!!)
(あいつら!なんで誰彼構わず殺すんだ!!)
バキッ!
「っ!」
音がした方に振り返ると、足軽らしきものが殺意を込めて刀を振り降ろそうとしていた。
鉈で受け止めると、そのまま受け流して喉元をかき切った。
鮮血が上がり、周囲を赤黒く染め上げていった。
「・・・・さくや姉!」
殺して奪った刀を握り締めると、その場から勢いよく飛び出した。
(ちくしょう、こいつら・・・・なんだって村人を殺そうとするんだ)
(見たことのない奴らばかりだ、殺してやる!)
(殺そうとするな、さくや姉のところに行きたいだけだ!!)
何人もの人間を手にかけて、殺そうとする者の命を奪い、鮮血で身体を染め上げながら方々を走った。
「いたぞ~!忌み子だ!!」
「呪いの子だ、あいつのせいで!!」
「・・・・なんでもすべて儂のせいにするな、お前達だって熊を殺した!!
鹿や野良、仲良くしてれた猿たちまで殺しておいて何を言う!!」
憎悪が憎悪の連鎖を呼んだ。
激しい憎しみの炎が周囲を彩り、何者も触れることを許さないどす黒い気配へと変わるのに、それほど時間はかからなかった。
(殺してやる、殺してやる!!
みんなを、村人を、熊や鹿、野良たちを殺して奪い尽くそうとする奴らなんて殺してやる!!)
拭うこともせず、涙を流しながら目を赤く染め上げて出会うもの全てを殺していった。
「・・・・ばばあっ!!」
血だまりの中に倒れ込み、息も絶え絶えにしている老女の姿を見つけると、幾人もの人間を斬り殺してぼろぼろになった刀を放り投げた。
「・・・・おや、坊かぃ、なんて顔をしているさ」
「ばばあっ、なんで、なんで、こんなことを・・・・!!」
涙と悲しみにくしゃくしゃにしながら、両手で抱き上げた。
「悲しむ、んじゃあ、ないよ、憎しみを持つんじゃあ、ないよ・・・あんたは・・・違うんだから・・・」
最後の力を振り絞ったのか、手でそっと頬に触れた。
「あなたはね、決して忌み子なんか、じゃあ、ない・・・・呪いの子、なんかじゃあ、ない。
あんたはね、とても偉い存在の子なんだ・・・それを、忘れちゃあ、いけないよ・・・」
「あいつらが、村人を殺した奴らが、婆を殺そうとしたのか!!」
(許さない、絶対に殺してやる、殺しつくしてやる!!)
憎悪が形を成そうとしていた。
黄昏よりもなお暗き闇、漆黒よりもなお深きどす黒い闇が顕現しようとしていた。
「馬鹿なことを、しようとするんじゃあ、ないよ!!」
鋭い気勢が放たれた。
死にかけている老婆か放ったとは思えぬほど、その声は凄みに満ちていた。
「あんたは、そっち側に、落ちちゃあ、いけないよ・・・忘れたのかぃ、・・・・がしたことを」
「婆様、なんで・・・」
(なんでそのことを!!)
「あんたのことは、山神様から託されて、聞いている・・・だから、正気を失っちゃあいけないよ、良くお聞き・・・これからこの小屋を焼くんだ、もう、長くはないからね」
「・・・・わかった」
「それからさくや様、あのお方をお探し、あの方は、あんたがずっと探していた方だよ、正気を失わずにいた、理由だよ・・・」
「・・・・さくや姉が、あの・・・」
「そうさ、あんたはずっと・・・・もうおいき・・・もう、戻ってきたらいけないよ・・・」
静かに笑いかけると、死出の旅路へと歩き出した。
「・・・・婆様、またな、世話になった・・・・」
「あ、あああっ、ああっ・・・」
「ここにいたのね・・・・」
凛とした姿で歩くその姿は、村人の誰もが慕い、嫁にと願った巫女の姿そのものだった。
「婆様に会った?
そう・・・お願い、殺して・・・・」
「・・・さくや姉っ!」
「わかっているでしょう、もう長くないの・・・・だからね、その前に・・・」
握り締めている、血まみれの刀を持つ手にそっと手を触れた。
「お願い・・・」
「・・・っ!」
その身を固く抱きしめると、躊躇うことなく腹を突き刺した。
「なぜ、なんで・・・・」
「・・・・」
優しい笑顔と共に息絶えた。
答えは、得られることはなかった。
「何を思い出しておる?」
「なんでもないさ、それで閻羅王、今度こそ重罪として裁かれるだろうな」
罪人に裁きを下す閻羅十王が勢揃いしていた。
一人一人が御簾の奥に隠れていて、その姿と顔は見えないが、極めて難しい表情を浮かべているのは気配で分かった。
「最も大切な人を、追い求めていた人をこの手にかけたんだ、その罪状は拭い去れるものではあるまい?
さっさと消滅刑あたりにしてくれると良いものだ」
「それがですなぁ、影鷹殿」
最後の審判を下す大広間に1人立ち尽くす者に対して、御簾の奥より厳かな声が響き渡った。
「御身の叶うことはありませぬ、幽閉の罪にてとりなしをせよとのお声がありましてな」
「・・・・誰だ、そんな馬鹿なことを言い出したのは」
殺意すら滲ませて問い質した。
「それは御身が与り知らぬ方でございますよ、よって御身はこれよりしばし幽閉の罪として裁かれます」
「・・・・さっさと消滅させればいいだろう」
「ならぬ!!」
異音同音に声が響き渡った。