「本当に大切な者は何があっても必ず傍に置け。
なによりも大切で失いたくない者は・・・・どんなに傍に居たくても遠ざけて守り抜け。
・・・綾乃葉、なにがあっても護り抜け、近寄らせるな」
「・・・わかりました」
「・・・・ここか」
風雨が強く吹き抜けていく。
さならが暴風雨ともいえる状況だが、腰に剣を佩いた存在は歩みを止めることなく進んでいく。
「・・・随分とまた派手なものだ」
散乱した夥しい死体の数々を見て、顔色も変えずに呟いた。
死体と言えば死体だが、かつて人間だった者達が腹を裂かれ、手足を引き抜かれ食い千切られ、頭蓋骨を砕かれて脳髄を抉り取られるなどして散乱していた。
「喰われて享楽に興じられて嬲りものにあった者達の末路か」
嫌悪とも憎悪とも言えない言葉を吐くと、さらに歩みを進めた。
「・・・・ここか」
幾つもの新たな死体を量産すると、観音開きの小さな堂の扉を開いた。
「神炎!」
蠅のような小さな悪霊たちが一斉に飛び出した。
それに対して、炎の柱が竜巻のように舞いながら迎え討った。
「たくっ、まさかこんなことになっているとはね・・・」
灰すら残さず燃え尽きていく悪霊たちに一瞥することなく、堂の中に入った。
「・・・そういうことか」
二つの死体が転がっていた。
その手首にはお互いに強く紐で結ばれていた。
心中したらしく、首には刃物の刺し傷があった。
血は完全に乾いていて、血だまりは腐っていた。
「と、なると・・・・やはりな」
観音開きの小さな堂の扉が外側から閉じられた。
一気に火が立ち上った。
「まあ悪くはないのだが、相手が悪かったな」
扉を蹴り破ると、一気に飛び出した。
「・・・やれやれ」
ため息のような言葉を呟くと、腰に佩いている刀を居合抜きの要領で抜いた。
上段に振り上げて振り抜くと、回転して逆袈裟斬りに振り抜いた。
「・・・・結局これか」
白骨に僅かな肉がこびり付いた死体が微かに笑っていた。
着物を身につけ、虚ろな目で見ていた。
「・・・・邪魔だ」
横真一文字に振り抜くと、雷の輝きが満ちた。
轟音と共に落雷が落ちると、それまで満ちていた者達が消えた。
「一つの心中ものが怨霊どもを引き寄せたか、なんともねぇ・・・」
『お侍様、なんで、なんで許されなかったんだ・・・・』
『そうです、なんで、なんで私達は・・・』
手首を固く結んだ紐は肉を食い破り、夥しい血を流していた。
「力を持った者とその下僕との恋なんて許されるものではなかったのだろう、だからこそお前達は逃げたのではないのか」
『そうですが、しかし!』
「もうよかろう、死してまで呪詛に苦しむことはない、いま解放してやる」
『呪詛・・・そんな』
『母様、父様・・・・私達を人柱にしたの・・・』
絶望とも悲しみともいえる言葉をそれぞれに口にした。
「そうではないさ、お前達の苦しみと悲しみが奇せずして人柱となり、ここに悪霊共をおびき寄せた。
それによって私が送りこまれただけだ」
『お侍様・・・・』
『もう、送って頂けますか・・・』
「ああ、送ってやるさ・・・」
そっと軽く目を閉じると、何事かを呟いた。
「本当に大切な者は何があっても必ず傍に置け。
なによりも大切で失いたくない者は・・・・どんなに傍に居たくても遠ざけて守り抜け。
・・・綾乃葉、なにがあっても護り抜け、近寄らせるな」
「・・・わかりました」