博徒 | アラフォー霊能者 滝沢洋一の備忘録

アラフォー霊能者 滝沢洋一の備忘録

リラクゼーションサロン『竜の棲む家』オーナーセラピスト兼霊能者です。
鑑定歴は二十年以上、年間数百人以上の方を鑑定して予約サイトCoubicでは5.0の口コミ評価を200以上頂いています。

「影よ、参るぞ!」

またか・・・嬉々として抜けるこの人の姿をみていると、悪戯を楽しむ童と同じだ。

これで御上だと言うのだから呆れる。

「何を怪訝な顔をしている」

「風切、お前本当にこれで良いのか?」

「・・・・御上がされることに異を申することはできぬ、息抜きだ」

この男との付き合いもそろそろ長い。

未だに何を考えているのかわからない。

呆然として隙だらけのように見えて、何人もの博徒を平然と斬り殺している。

隙を見つけて動こうとしたことがあるが、その度に殺意を向けられて止めた。

一体何がこの男を支えているのだ?

訳が分からぬ事ばかりだ。

「何を難しい顔をしている、影よ」

嬉々として壁を抜け、屋根より飛び降りて博徒の姿に身衣を変える。

その姿に御上としての威厳はない。

これほどわからぬものはまずないだろう。

「風切と手合わせをすることはするな、どちらかを失う事はしたくないからな」

良く言う・・・・。

刺客である私と手合わせをして、負けぬどころか引かぬ主など見たことがない。

「御上は手を磨かれているからな」

「・・・・そうだな」

この男は心を読むかのように的確に言葉を紡ぐ。

それが嫌ではない己に気が付いた時には愕然としたが、お互い刺客同士どこかで気が合うのだろう。

隙を見せればやられる。

そんな緊張感が心地良いと思うことになるとは・・・。

「今宵はどちらに?」

「色街にしようか、それとも襤褸街にするか悩むがな、博徒に会いたい」

「・・・・正気ですか」

思わず本音が出た。

奴らは金がある者だとみれば平然と相手を殺して金品を巻き上げる。

死体は晒して『何事もなかった』ようにしている。

「・・・・検非違使としては突き詰めることはせぬべきと進言致します」

「なんだ、顔が知られているのか?」

そのようなことは・・・といいかけて、やめた。

風切が何事か言いたそうな目をしている。

こういう時のこの男に逆らうと良い事はない、短い付き合いの中でそれを知った。

「でしたら貧困路地の賭場が良いでしょう、あそこの者達は義理堅い。

金に糸目をつけぬと『わかる』者には金品を巻き上げることは致しませぬ」

「ほう、それは面白そうだな、案内せよ!」

他に聞かれぬように小声で言うと、嬉々とした顔で歩き出した。

 

まったく、これだからわからぬ・・・院や主は何故このような方に頭を下げるのだ。

人を人と思わぬ貴族たちはこのような方に頭を下げ、御上として訴状する。

言を上げたところで聞くことはないと言うのが何故わからぬのだ?

「さあ、賭けろ賭けろ!双六がどっちだ!!

大か、小か!!」

「大!」

「小!」

聞き慣れただみ声が賭場に響く。

見な、固唾をのんで成り行きを見守っている。

それぞれのありったけの金がかかっているのだ、無理もない。

「おい、わけぇの、賭けないのか?」

腕を組んで目をつむっている御上に対して、賭場の者が意志の確認をした。

賭けぬのなら中と言うのが筋だが、その方はじっとしていた。

「小!」

「おう、賭けたな、逃げるかと思ったぜ!!」

歯の欠けた汚い顔でにやけた。

賭場の成立が行かなくなったら困るのは博徒たちの方だ。

特に身なりが小奇麗な者ほど『お得意の者』として彼らは大切にする。

「小!」

「やりおったわ!」

「おう、勝ったぞ!」

それぞれが悲喜こもごもの声を上げた。

勝ち過ぎれば困るが、負けが過ぎて検非違使に言いこむ(注:犯罪の申告をすること)のは困る。

匙加減が難しい所だが、彼らは義理高い。

飲ませ食わせて歓待して客が落とす金の方を目当てにしている。

「なあ、駆け込み過ぎないか」

「顔役、すまぬな」

そっと懐に手を入れさせた。

金子のやり取りはご法度だが、情報の交換はこういう所では何よりも大事だ。

「いらねぇよ、旦那・・・女でも抱かせようが?」

「・・・・いらぬよ、それよりも」

「酒、だろ」

にかっと笑って去って行った。

意味することが分かる者との話は早くて楽だ。

「・・・なにをしていた」

「駆け込みすぎるなと忠告を受けた、女は引き際を間違えるなだ」

「・・・ほう」

眼が鋭くなった。

こうなった時、こいつは気を付けないといけない。

「・・・・抜くなよ?」

「御上をどうする気だ?」

「こんなところで騒ぎを起こすな、あとで厄介になる」

意味するところが分かったのだろう、目に浮かぶ剣呑な意思が消えた。

「どうする気だ?」

「適当なところで引き上げさせろ、それだけでいい」

 

 

「ああ、面白かったな~ああいうのは宮中にいるよりも楽しい」

ある程度で引けるように手を回しておいたことが良かったらしい。

此方の意志を汲んで、さっと引き上げてくれたことは良かった。

「して、影はどうしてあそこで引き揚げろと?」

剣呑な目になったが、この方のこの目は困るものではない。

訳を教えろというだけだ。

「・・・・女に気を付けろ、そう言われましてな」

意味が分かったのだろう、途端に狼狽した顔になった。

「・・・・急ぎ、戻るとしよう」

まったく・・・この方の察しの良い所には困ったものだ。

貴人ということは賭場の誰もが察しているが、まさか御上とは誰も思うまい。

検非違使として彼らに何を振舞うべきか?

考えることが増えたな。

「早く行くぞ、知られては困る!」

今にも駆け出しそうな勢いのこの方に、知らず知らず笑みを浮かべていた。