出来事への固着は、じつのところ人類進化のプログラムの一端である。サバイバルできる穴居人をデザインしようとする場合、宇宙について沈思する能力は優先される基準ではあるまい。大切なのは、サーベルタイガーの姿を左の肩ごしにとらえ、すばやく反応できる能力である。皮肉なのは、今日、われわれの組織および社会の生き残りにとっての中心的脅威は、不意の出来事からではなく、徐々にゆっくり進行するプロセスからくることだ。例えば環境破壊、公的教育システムの腐朽、物的資本の衰退、設計ないし製品品質の低下・・・・これらはどれもゆっくりした漸進的過程である。

「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p32 ピーター・M・センゲ




人は経験からじかに学ぶのが一番身に着く。たしかに、食べることも歩くこともコミュニケーションも、直接の試行錯誤を通じて人は学ぶ。ある行動をとり、その結果を見て、次に新しい行動をとるのである。しかし、行動がもたらす帰結を観察できないとすればどうなるか?われわれの行動の帰結が、遠い将来に、あるいは自分を含む広大なシステムの遠い場所にあるとすれば?人はそれぞれ「学習地平」をもっている。これは時間・空間における視野の幅で、その枠内でわれわれは自分の働きを評価するのだ。しかし行動の帰結が自分の学習地平を超えたところにある場合、直接経験から学ぶことは不可能になる。

「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p34 ピーター・M・センゲ




生体組織は一体性を持つ。その性格は全体のありようしだいだ。同じことは企業組織にも言える。経営管理をめぐる難題を理解するには、その問題を生むシステム全体を眺める必要がある。この点に光を当てるのはイスラムのもう一つの寓話だ。3人の盲人が一頭の象に出会って、それぞれが声を上げる。「象は大きくてざらざらしたやつだ、幅が広くて絨毯みたいだ」と最初の男が象の耳をつかみながら言う。二番目の盲人は象の鼻をつかみながら、「真実をつかんでいるのは私だ。象はまっすぐで空洞の管だ」。三番目の盲人は前足を抱えながら言う。「象は力強くどっしりしていて、柱のようだ」と。イスラムの寓話はしめくくりにこう語っている。「彼らのようなやり方では、象を知ることは決して出来まい」「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p88 ピーター・M・センゲ




例えば管理職は、自分の期待がどれほど部下の実績に影響を及ぼしているか見過ごしがちだ。ある人物に高い潜在能力を認める、その人物に特別に注意をh来、能力を開発する。そしてその能力が開花すると、自分の最初の評価は正しかったのだと感じ、さらに支援する。逆に低い能力しかもっていないとみなされた人物は、なおざりにされてやる気をなくくし、無関心な業務態度をとるため、心の中で気にかけなかったことを正当化する。この現象は、心理学者ロバート・マートンが最初に「自己実現の予言」と名づけたものである。

・・・これは「ピグマリオン効果」としても知られる。ギリシャローマ神話の登場人物ピグマリオンから取っている。ピグマリオンは自作の彫刻の美しさをあまりにも強く確信したため、その彫像が人間になったという神話である。

「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p105 ピーター・M・センゲ




最初は池の片隅にたった一枚のスイレンの葉があるだけだ。ところが毎日葉の枚数は2倍に増える。池の水面が覆い尽くされるには30日かかるが、28日までは誰一人気付かない。29日目になって池の水面が半分おおわれてはじめて村人は心配し始める。しかしすでに打つ手はほとんどなく、翌日最も恐れていたことが現実となる。

「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p108 ピーター・M・センゲ




成長を無理強いせず、成長を制限している要因を取り除くことと成長限界

構造の理解と活用

成長限界の構造は組織のさまざまな段階に見られる。例えば、あるハイテク企業は新製品を次々と出すことができたため急速に成長する。新製品の売り上げが伸び、収益がアップし、研究開発の予算が増加し、技術者および研究者の数も増える。ところがついに技術系の人数が急増して組織が複雑化し、管理が困難になる。多くの場合、上級技術者が管理責任をおうことになり、エンジニアリングに費やす時間が少なくなる。こうして、最も経験豊富な技術者をエンジニアリングから話してマネジメントにあてることにより、製品開発に要する時間が長くなり、新製品導入ペースがダウンするのである。

「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p120 ピーター・M・センゲ




学習障害

時間的に隔たりのある原因と結果の因果関係は、学ぶことが困難である

「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p140 ピーター・M・センゲ




目的意識とは、一種の方向性、あちらの方向に行くと決めることが。一方ビジョンとは、一つの目的地であり、望ましい未来の映像だ。目的式は抽象であり、ビジョンは具象だといってもいい。「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p177 ピーター・M・センゲ




結局、ビジョンとは本質的に固有のものであり、相対的なものではない。本来の価値を求めて欲するものであり、他人との関係で自分がどこにいるかという問題ではないのだ。「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p179 ピーター・M・センゲ




ミスは大切な出来事である。そこにはたくさんの利益が隠れているのに、まだ利用できていないということだ。「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p185 ピーター・M・センゲ


クリエイティブ・テンション(理想と現実の間の適切なチャレンジレベル設定)をマスターできれば、現実に対する心構え全体が根こそぎシフトするだろう。いまの現実の姿は的ではなく、味方になる。はっきりしたビジョンと同じように大事なのは、現実に関する正確で洞察力のある見方なのだ。だが現状を理解する上で、たいていわれわれは、さまざまな歪みを通して見ることになれてしまっている。「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p186 ピーター・M・センゲ




心理学者が言うように、人間は物事を選択的に見るのである。

「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p192 ピーター・M・センゲ




実際、彼は自分のビジョンを表現するのが非常にうまく、まわりの人を威嚇してしまう。その結果、かれのビジョンは公に異議を唱えられることがめったになくなる。彼のそばでは、誰もが自分の意見やビジョンは表さない。「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p274 ピーター・M・センゲ




真に責任をもって行動するとき、学習する速さは最大になる。逆に、自分の置かれている状況を思い通りにできなという無力感を抱いていたり、だれかに指図されていると思うとき学習意欲はそがれる。人は、自分の運命を左右するのは自分だとわかってはじめて進んで学習するのである。このため、組織の中枢からずっと下位の部門へと、ラーニングオーガニゼーションはできるかぎり権利を委譲して、ますます「分権化」していくと予想される。「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p287 ピーター・M・センゲ




分権化に取り組んでいる組織では2つの課題が目につく。ひとつは、経営者が意思決定の権限を各事業単位にゆずるときの心的葛藤をどう扱うか。もう一つは、分権管理をいかにうまく機能させるかだ。「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p289 ピーター・M・センゲ




ラーニング・オーガニゼーションが(失敗に)寛大なのは「失敗すること自体が十分罰に値する」からなのである。「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p306 ピーター・M・センゲ




オブライエンはこう付け加えている。「年に12件も決断すれば、私にとって重要な年だったということだ。直接報告させる人間の人選や、方向性を定めたりはする。だが数多く判断するのに時間をついやしたりはしない。私の仕事は、組織が将来直面する重要な課題を見極めたり、だれかの判断に協力したり、総括的な義務である組織のデザインをおこなうことなのだ」「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p310 ピーター・M・センゲ




リーダーの目的物語は、個人的なものであると同時に普遍的なものでもある。それはその人のライフワークを定義する。彼の努力は物語によってより高尚になるが、自身の成功や失敗にとらわれ過ぎぬように常に謙遜を持って語られる。また彼のビジョンは、物語によってより深い意味を与えられる。長い旅路の途中で彼の個人的な夢やゴールが目標(ランドマーク)として目立つように、より広い情景が描き出される。・・・・彼の組織の目的と存在意義は「われわれはどこから来てどこへ行くのか」という命題の中で考えられることになる。この場合の「われわれ」とは、組織そのものをこえて、もっと広い意味で人類をさす。「最強組織の法則・・・新時代のチームワークとは何か」 p373 ピーター・M・センゲ