昔から読みたいと思っていたローマ人の物語を読み始めています。

全34冊のうち、7冊目まで来ています。

おもしろかった文をご紹介。


天才とは、その人だけに見える新事実を、見ることのできる人ではない。誰もが見ていながらも重要性に気付かなかった旧事実に、気づく人のことである。

塩野 七生 ローマ人の物語 4 ハンニバル戦記 中 p127

いかに巧妙に考案された戦略戦術でも、それを実施する人間の性格に合っていなければ成功には結びつかない。人はみな、自分自身の肌合いにもっとも自然であることを、もっとも巧みにやれるのである。

塩野 七生 ローマ人の物語 4 ハンニバル戦記 中 p130

・・・ハンニバルは答えた。「多くのことは、それ自体では不可能事に見える。だが、視点を変えるだけで、可能事になりうる。」

塩野 七生 ローマ人の物語 4 ハンニバル戦記 中 p164


高齢者だから、頑固なのではない。並みの人ならば肉体の衰えが精神の動脈硬化現象につながるかもしれないが、優れた業績をあげた高齢者にあらわれる、頑固さは違う。それは、優れた業績をあげたことによって、彼らが成功者になったことによる。年齢が、頑固にするのではない。成功が、頑固にする。そして、成功者であるが故の頑固者は、状況が変革を必要とするようになっても、成功によって得た自信が、別の道を選ばせることを邪魔するのである。ゆえに抜本的な改革は、優れた才能はもちろんながらも、過去の成功には加担しなかったものによってしかなされない。しばしばそれが若い世代によって成し遂げられるのは、若いがゆえに、過去の成功に加担していなかったからである。

塩野 七生 ローマ人の物語 5 ハンニバル戦記 下 p22


優れたリーダーとは、優秀な才能によって人々を率いていくだけの人間ではない。率いられていく人々に、自分たちがいなくては、と思われることに成功した人でもある。持続する人間関係は、必ず相互関係である。一方的関係では、持続は望めない。

塩野 七生 ローマ人の物語 5 ハンニバル戦記 下 p53


ローマは、これでギリシア問題も解決したと思ったのである。お灸も、十分にすえた。ギリシアの諸都市問題も、マケドニアの脅威に怯えることはなくなった。しかし、介入とはそれが政治的であれ、経済的であれ、また軍事的であろうと何であれ、相手とかかわりをもったということである。しして、かかわりとは、継続を不可避にするという、性質をもつものでもあった。

塩野 七生 ローマ人の物語 5 ハンニバル戦記 下 p110


スキピオ・エミリアヌスは、眼の下に広がるカルタゴの都市から長い間目を離さなかった。建国から700年もの歳月を経て、その間ながく繁栄をきわめていた都市が落城し、がれきの山と化しつつあるのを眺めていた。・・・人間に限らず年も、国家も、そして帝国も、いずれは滅亡を運命づけられていることに想いをはせずにはいられなかったのである。

塩野 七生 ローマ人の物語 6 勝者の混迷 上 p16

・・・収穫物は多数の奴隷を使う大規模農園の収穫物に価格競争で敗れ、売れないか値をたたかれるかして苦境に陥っている。その苦境を乗り越えようと借金をする。だがそれも、所詮は無駄なあがきにすぎない。問題はローマの農民の勤労意欲になったのではなくて、ローマの農業の構造の変化にあったからである。

塩野 七生 ローマ人の物語 6 勝者の混迷 上 p47

失業者とはただ単に、職を失ったがゆえに生活の手段を失った人々ではない。社会での自らの存在理由を失った人々なのだ。・・・多くの普通人は、自らの尊厳を、仕事をすることで維持していく。ゆえに、人間が人間らしく生きていくために必要な自分自身に対しての誇りは、福祉では絶対の回復できない。職を取り戻してやることでしか回復できないのである。

塩野 七生 ローマ人の物語 6 勝者の混迷 上 p48

狭い視野しか持たない人が、政治上の理由でなされることでも私利私欲によると思い込んでしまうのは、今にはじまったことではないのである。

塩野 七生 ローマ人の物語 6 勝者の混迷 上 p62

同じ権利を持たないものに、同じ義務を求めることはできない。もしも同等の義務を負わせたいならば、同等の権利も与えねばならなかった。

塩野 七生 ローマ人の物語 6 勝者の混迷 上 p75

人類史上初めて法治国家の理念を打ち立てたローマ人は、法というものは永劫不変なものではなく、不都合になれば変えるべきものであると考えていた。その変え方も、法の改正というやり方ではしない。従来ある法を改めるとなると、どうしたって及び腰になるからだ。及び腰になっては、法を改めるときを逸する。それでローマ人は、従来ある法の改正ではなく、原状に適合した新しい法を成立させ、旧法の中でそれに触れる部分は自然解消するというやり方をおとっていた。

塩野 七生 ローマ人の物語 6 勝者の混迷 上 p96