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3/27 コラム

【FRBウォッチ】金融政策指針は終えんへ-「利上げ傾斜」削除の真意
3月26日(ブルームバーグ):米連邦公開市場委員会(FOMC)は21 日に発表した声明から、「利上げへの傾斜」を示す文言を削除。「将来の金融政策の調整はインフレと経済の見通しの変化に左右される」と、中立的な表現に換えた。「利上げ傾斜」の削除は、金融政策の方向性の変化を意図するものではなく、金融政策の方向性を示す指針(ガイダンス)の実質的な終えんを意味する。

FOMC声明のガイダンスは、デフレ防止のため、フェデラルファンド(FF)金利を1%まで引き下げ、その時間軸効果を上げるため、「緩和政策を相当の期間続けることができる」と表明したことに始まる。2003年8月12日のFOMC声明がその起点となる。ガイダンスは政策の方向性を明確にできるというメリットがある一方で、政策の自由度を奪うというデメリットを併せ持つ。

このため、ガイダンス導入時はFOMCメンバーの中でも反対者が多く、参加者19人のうち7人が導入反対の意思を表明したほどだった。グリーンスパン議長(当時)は「相当の期間」という時間軸を取り除いた後も、ガイダンスを継続。第2段階は「金融緩和の解除に際して、辛抱強くなれる」と、利上げへの転換を示唆した。ガイダンスはこの時点でようやく、FOMCのコンセンサスを得ることができた。

ガイダンスは負の遺産

  バーナンキ議長は2006年2月1日就任する。この時点で、グリーンスパン前議長から受け継いだFOMCのガイダンスは「引き締めが若干必要になるかもしれない」というもので、「利上げへの傾斜」を示していた。

  ガイダンスは「相当の期間」という時間軸を超え、「辛抱強く利上げへの転換時期を探り」、「慎重なペースでの緩和解除」へと導いた。バーナンキ議長が就任したときには、金融政策が中立圏から引き締め圏への突入を視野に入れていたわけだ。

  一方、米国経済は拡大期から住宅市場の変調に伴う減速期に移行する時期に当たり、利上げ打ち止めを模索する難しい局面に差し掛かっていた。「引き締め」へのガイダンスは、不要どころか、逆効果を及ぼしかねない、極めてやっかいな存在になっていた。グリーンスパン前議長による負の遺産の一つである。バーナンキ議長は就任直後で、市場からの信認を得るには日が浅かった。「引き締め」ガイダンスの削除は新議長にとっては、任が重かったと言えよう。

      バーナンキ議長の試練

  こうして昨年4月27日の議会公聴会は、バーナンキ議長にとって、初の試練となる。新議長は上下両院合同経済委員会で、「インフレリスクが残ったとしても、FOMCが何の行動も取らない会合が1回、あるいはそれ以上あるかもしれない」と表明。利上げ停止を示唆した。この発言で、新議長はインフレに甘い「ハト派」の烙印を押されてしまった。

  この議会証言のコメントを分解すると、「インフレリスク」と、政策ガイダンスの「利上げ停止」になる。先週3月21日のFOMC声明も同様に、「インフレリスク」と、「引き締め傾斜」ガイダンスの削除に分割できる。基本的に11 カ月前の議会証言と同様の構成である。バーナンキ議長は11カ月にわたる鍛錬を経て、「引き締めガイダンス」の解除という所期の目標を達成できたのである。

  その11カ月を振り返ってみると、同議長はまず「ハト派」の汚名をそそぐため、「タカ派」の決意を強調。昨年5月と6月には2回の追加利上げを実行。さらに、「インフレは歓迎できない」と、強い口調で、インフレとの対峙(たいじ)姿勢を繰り返す。金利を据え置いた8月以降もガイダンスに「利上げの可能性」を残し、臨戦態勢を継続してきた。

             タカ派の仮面

  この間、インフレ指数はピークを経過する。さらに、経済成長は潜在成長率を下回ってきた。もはや、利上げの確率などほぼゼロになっていた。ガイダンスの「引き締め傾斜」は、タカ派を装う仮面の役目を担っていた。バーナンキ議長は昨年4月の議会証言のトラウマに悩ませられていたのだろう。

  先週のFOMCで唐突に「利上げ傾斜」ガイダンスが削除されたにもかかわらず、マーケットは株高、債券利回り低下で歓迎した。これは、バーナンキ議長が就任後1年以上経過して、信認を得ていたこともあるが、市場が利下げを織り込む展開になってきたことが大きい。バーナンキ議長はインフレ・タカ派の仮面をかぶる必要がなくなってきたとも言えよう。

  バンク・オブ・アメリカの投資戦略グループでチーフエコノミストを務めるリン・リーザー氏は、今回のFOMC声明について、「FOMCは声明で、針をほんの少し中央にずらした。成長とインフレの狭間で、依然としてインフレリスクが大きいとの示唆に変わりはないが、これまでに比べてタカ派的な色合いの薄い声明だった」と指摘する。

        声明の柱は「将来見通し」

  現行のFOMC声明は、①経済・物価の現状認識、②経済と物価の見通し、 ③経済・物価に関するリスク、④金融政策ガイダンス-に分割できる。バーナンキ議長は「金融政策はデータに基づく将来見通しの変化に対応する」と述べており、重要なのは「経済・物価見通し」である。

  この視点から、今回の声明を見ると、経済の現状認識では、「最近の経済指標はまだら模様となっており、住宅セクターの調整は継続している」と指摘。1月31日の前回声明にあった「最近の経済指標には、経済成長の幾分かの強まりが示されており、住宅市場では安定化への暫定的な兆しが見られる」から、下方修正された。

  その上で、今回の声明は「しかしながら、この先の経済は数四半期にわたり、緩やかなペースで拡大する可能性が高いようだ」と、前回と同様の見通しを提示した。統計はまだら模様になってきたが、1、2月の記録的な寒波もあり、これまでのデータだけでは、将来見通しの変更は必要ないということだ。

        「インフレリスク」は最大の関心事

  インフレの現状認識について、今回声明は「最近のコアインフレの数値は幾分か上昇してきている」と指摘。「コアインフレの数値はこの数カ月で緩やかに改善されている」としていた前回声明に比べ、心持ち悪化している。これは、消費者物価指数のコア項目が昨年12月の前年比2.6%上昇から、ことし1、2月に2カ月続けて同2.7%上昇へと水準を上げてきたことを、淡々と表記したまでだ。

  一方、金融政策の判断基準となるインフレ見通しについて、今回声明は「インフレ圧力は時間をかけて落ち着く可能性が高いものの、高水準にある資源利用がインフレ圧力を維持する可能性がある」と、前回と同様の趣旨にとどめた。

  そして、今回声明は、FOMCの政策目標である「最大限の雇用確保」と「物価安定」に対するリスクについて、「インフレが期待通りに鈍化しないリスクが引き続き政策面で最重要の関心事項である」と強調。インフレリスクを前面に押し出した。1月の前回声明にあった「一部インフレリスクは残る」と基本的な判断は同一だが、表現はむしろ強くなった。

          リスク判断は政策指針に直結せず

  その上で、今回の声明はガイダンスとして、「『将来の政策調整』は、これから明らかになる情報に基づくインフレと経済の見通しの変化に左右される」と指摘。「『追加的な金融引き締め』が必要になる可能性がある」としていた前回までの「引き締め」バイアスを削除した。

  バーナンキ議長は、インフレリスクを前回と同様、もしくはやや強める一方で、ガイダンスの「利上げ傾斜」を削除するという、表面的には矛盾する行動をとっている。このことは、景気・物価に対するリスク判断を将来政策のガイダンスとはしない、というバーナンキ議長の本来の政策へと転換する意思表明にほかならない。

  ここに、声明による「ガイダンス」の提示は実質的に終えんを迎えた。「将来の政策調整は見通しの変化に左右される」など、言わずもがなであろう。バーナンキ議長は、ガイダンスをいきなり廃止することに伴うマーケットの混乱を警戒して、形式だけ整えたのだろう。いずれ、名実ともに新たな対話方式に移行するはずだ。