3/14 記事 為替
2007/03/14(水)14:54
円キャリー取引を上回る可能性を秘めた家計の外貨運用
3月14日付の日本経済新聞は、いわゆる円キャリー取引の総額が20兆円程度あるとの試算結果を紹介しました。報道によると、ドイツ銀行グループは、邦銀による海外向け短期貸し出しの状況などから、円キャリー取引の残高が1500億ドルから2千億ドル、日本円にして約18兆円から24兆円程度になると試算しているようです。
円キャリー取引は、金利が低い日本にて日本円を借り入れ、金利の高い国の通貨に交換し、外貨建ての株式や債券に投資をすることで利益を得る行為を指した言葉です。円キャリー取引は、日本円を外貨に交換する行為を含むため、円キャリー取引が拡大すればするほど円安が進むと考えられています。
2月下旬に世界で連鎖的に起きた株安の局面で、円相場が急上昇したのは、株価急落で欧米のヘッジファンドが円キャリー取引を止めたため、という指摘もあります。
為替取引は、株式や債券と異なり、売買する者が直接取引する方法(相対取引)が主流となっているため、正確な取引高が把握されていません。しかし、銀行などの取引状況などから、為替取引の取引高は、市場関係者の間で、世界全体で一日あたり70兆円程度と言われています。仮に円キャリー取引の規模が、試算結果のように20兆円程度あるならば、70兆円の規模を持つ為替市場が、円キャリー取引の状況で大きく動いても不思議ではないといえそうです。
円キャリー取引の今後については、見方が分かれています。日本銀行はゼロ金利政策を解除し、徐々に金利水準を引き上げようとしているため、日本の低金利を前提とした円キャリー取引は縮小するという意見もあります。一方で、日本と諸外国との間の金利差は依然として大きいことから、円キャリー取引は今後も拡大を続けるという見方もあります。どちらの見方が正しいのかは、これから起こりうる状況が全てを説明してくれるのでしょうが、現時点においては、市場関係者も含め、おそらく多くの方は、円キャリー取引の今後を見定めることに苦労しているように思えます。
円キャリー取引の今後の動向はともかく、個人的には、日本円を金利の高い国の通貨に交換する行為、つまり円売り外貨買いの動きは、そう簡単には止まらないような気がします。なぜなら、欧米のヘッジファンドはともかく、日本の家計、つまり一般の人々の外貨運用ニーズは底堅いからです。
3月14日付のWEB版FujiSankeiビジネスアイは、2月末からの急激な円高進行でネット銀行の外貨預金残高は急増していると報じています。ソニー銀行では、3月上旬時点で、外貨預金残高が2月末時点に比べ1割以上も伸びています。また昨年12月末に外貨預金を始めたイーバンク銀行でも、外貨預金の新規の預け入れが急増しており、ソニー銀行と同様に3月初旬時に外貨預金の残高は2倍以上伸びたとのコメントが紹介されています。
日本銀行の資金循環によると、昨年9月末時点で日本の家計が保有する外貨預金残高は約4.5兆円、外貨MMFなどの対外証券投資残高は約6.8兆円あります。日本の家計の金融資産残高は、総額で約1500兆円ですから、両者を足し合わせても全体に占める割合は0.8%に過ぎません。今後も日本の家計の外貨運用ニーズは高まるのであれば、金融資産全体に占める割合も高まることでしょう。仮に外貨預金と対外証券投資の割合が現時点の0.8%から3%程度に高まれば、円キャリー取引の規模(20数兆円)を超え30兆円を超えることになり、為替市場にも大きな影響を及ぼすといえます。日本の家計による株式取引の割合が7%であることを考えると、外貨運用の割合が3%程度になることは、決しておかしなことではないように思えます。
村田雅志(むらた・まさし)
●●●●●●●●●●今日のクイズ●●●●●●●●●●
日本の家計が保有する外貨預金と対外証券投資は
金融資産全体の何%?
●●●●●●●●●●クイズの答え●●●●●●●●●●
約0.8%
(2006年9月末時点)