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【米経済コラム】サブプライム問題は氷山の一角-G・スパーリング
3月14日(ブルームバーグ):2007年が始まってほんのしばらくの間、新築住宅販売増と住宅在庫減少のニュースが、住宅市場に強気な見方に信憑(しんぴょう)性を与えた。
2月に入ると、住宅ローン申請件数や住宅着工件数に暗いデータ相次ぎ、さらにサブプライム住宅ローンの問題が表面化して強気ムードはいたって短命に終わった。問題の核心は、サブプライム問題が全体から切り離された局地的なものか、景気に対しより大きな影響をもたらすものなのかだ。
サブプライム問題は局地的だとの意見のグループは、サブプライム変動金利型住宅ローン(ARM)市場の規模を考えると、同市場にとっては大規模な危機も、マクロ経済に影響を及ぼすものではないと主張する。
バイズ米連邦準備制度理事会(FRB)理事によれば、サブプライムARMは10兆ドル(約1160兆円)規模の住宅ローン市場の7-8%を占めるにすぎない。全米抵当貸付銀行協会(MBA)のチーフエコノミスト、ダグ・ダンカン氏は、サブプライムARMの借り手は住宅保有者の6%にすぎないとしている。この論理に従えば、サブプライムARMの借り手の20%がデフォルト(債務不履行)に陥ったとしても、米住宅ローン全体の1%をわずかに超えるだけだ。
固定金利型を合わせたサブプライム住宅ローンの割合は13%なので、この数字はサブプライム市場の規模を幾分過小に計算しているが、これら影響限定論者の主要な弱点は視点の狭さだ。問題はサブプライム問題が健全な住宅市場に打撃を与えるかどうかではない。今考えるべきなのは、サブプライム問題が既にぐらついている住宅市場の回復を遅らせるのではないかということと、 2005、06年の甘い基準での融資がもたらす問題の先触れではないかという点だ。
供給過剰
07年は、売り出される住宅の過剰という状況で幕を開けた。供給過剰は価格下落につながり、現金化できる住宅資産の減少や住宅投資の後退を招く恐れがある。住宅在庫は高水準にあるばかりでなく、新築住宅は歴史的な高ペースで完成し続け、在庫は増えるばかりだ。
しかし、さらに大きな懸念材料は、サブプライム住宅ローンの問題は高リスク住宅ローン急増のなかで氷山の一角にすぎないかもしれないという点だ。
信用力の低い借り手を対象としたサブプライム住宅ローン以外にも、近年は信用力がある借り手への高リスクARMが増えていた。当初2年の低金利や頭金なし、所得や資産に関する書類なし、インタレストオンリー(元本返済の繰り延べ)などの非従来型の融資の増加が、返済不能者の急増という事態をもたらす恐れがある。
「非従来型」ローン
バーナンキFRB議長は06年5月の講演で、05年に執行された住宅ローンの30-40%が非従来型に入ると指摘していた。この数字を考えると、サブプライム問題は05-06年にかけて貸し手が融資基準を緩めてきた物語の中の1章にすぎないことが分かる。住宅金融業者は金利上昇のなかで住宅ローンの販売を維持するため、こぞって甘い融資を繰り返してきた。
住宅ローン市場のリスクは、サブプライムという枠のはるか外まで広がっているのだ。
三重苦
ここで考えるべきなのは、1兆5000億ドル相当のARMの金利は2007年に変更される可能性があるが、このうちどれだけが支払い不能に陥るかということだ。個人の負債水準が高く、貯蓄率は1930年代以来初のマイナスとなっている環境のなかで、支払い不能リスクをどの程度懸念すべきだろうか。サブプライムローンに加え、非従来型の住宅ローンを理由とした差し押さえがどの程度の規模になれば、貸し手は融資基準を引き締めるだろうか。そのときに労働市場も悪化しており、米家計が住宅価格下落、住宅ローン支払い負担増大、所得の不安低下という三重苦に直面するとしたら、事態はどの程度悪化するだろうか。
お先真っ暗だと言うつもりはないが、問題がサブプライム市場に限定されているとしてその規模の小ささを強調するだけでは、住宅問題について明解な判断はできない。(ジーン・スパーリング)
(ジーン・スパーリング氏はクリントン政権下で国家経済会議担当の大統領補佐官を務め、現在はブルームバーグ・ニュースのコラムニスト。このコラムの内容は同氏自身の見解です)
原題:Subprime Market -- Isolated or a Tipping Point?: Gene Sperling(抜粋) {NXTW NSN JEVKLF1A74E9 <GO>}
更新日時 : 2007/03/14 14:37 JST