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3/1 ブルームバーグ コラム

利上げの後遺症で日銀内に不協和音-水野審議委員が「福井総裁会見」批判
3月1日(ブルームバーグ):「金融政策の決定に対するフォワード・ルッキング(先見的)な考え方が日銀の中でぐらついているのではないか、という懸念が出てきたのではないか。そこが出発点だと思う」。28日に仙台市で会見した水野温氏審議委員。追加利上げをめぐり、市場との対話が混乱した原因を問われ、昨年12月19日の金融政策決定会合後の福井俊彦総裁の会見を名指しした。苦心の末に利上げにこぎつけた日銀だが、その後遺症も大きいようだ。

個人消費や消費者物価の低迷を理由に昨年12月、1月と利上げを見送りながら、これらの指標がさして改善しなかったにもかかわらず、日銀が2月に圧倒的多数で利上げに踏み切ったことに対し、市場では「理解不能、説明困難、説得不足で、政策の予測可能性が明らかに低下した」(みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミスト)という声がいまだに根強い。

こうした批判に対する水野委員の答えが、冒頭の発言と次の発言だ。「消費者物価、個人消費について、いくばくか不安があるという(福井総裁の)発言を受けて、混乱が生じてしまった。キーワードはフォワード・ルッキングな政策を続けていくということであり、経済の好循環は変化していないということだったが、あえて言わなくても良いことを言ってしまった可能性もある」――。

最初のボタンの掛け違い

福井総裁は12月会合の現状維持の背景説明として「個人消費や消費者物価の面で弱めの指標が出ていることも事実」と発言。これによって、個人消費や消費者物価が明確に改善しないと利上げできない、という見方を市場に植えつけてしまったのは失敗だった、という声が日銀内で根強いのは事実。総裁がそのような説明をしたことに違和感を示す審議委員は、水野委員以外にも複数いる。

ただ、そうした不満を表に出すかどうかは別の問題だ。水野委員があえてそれを口にしたのは、市場との対話が失敗した元凶として、水野委員を批判する声が日銀内で高まっていることと無関係ではないだろう。1月会合前に行われた日銀幹部と報道、市場関係者とのオフレコ懇談をめぐり、日銀内では犯人探しが行われており、そうした動きに水野委員が反発したとしても不思議はない。

そもそも、市場との対話における最初のボタンの掛け違いは、日銀が昨年 10月末に公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)にさかのぼる。リサーチ部門主導で強気な見通しを打ち出したものの、その後、天候不順などの影響があったとはいえ、個人消費は落ち込み、消費者物価指数も思ったほど上がらなかった。日銀は結果として見通しを誤ったことを認め、今年1月の展望リポートの中間評価では、個人消費と消費者物価の下方修正に追い込まれた。

混乱助長した日銀執行部とメディア

それにもかかわらず、福井総裁は昨年11月28日の名古屋の会見でも、年内利上げを排除しない姿勢をみせていた。そうしたなか飛び出したのが、西村清彦審議委員の「小さなサプライズは仕方ない」(12月6日)発言。これに市場は驚き、利上げを織り込みにかかったが、慌てたのが日銀執行部。水面下の情報発信で利上げ期待を冷やしにかかったことで、メディアは一斉に「利上げなし公算」と報道。その12月会合後に行われたのが、問題の福井総裁会見だった。

年が明けて1月会合の前。12月会合の前には力ずくで利上げ期待を抑え込んだ日銀執行部が、今度は利上げ、現状維持の両にらみの姿勢に転換したことで、これを利上げ示唆と思い込んだ複数のメディアが先走り、「利上げ公算」と報道。市場の利上げ期待を煽ったが、最後は政府からとみられるリークを受けて、「利上げなし公算」報道に急旋回。取り残された市場は大混乱に陥った。

6対3の賛成多数で現状維持が決まった1月会合。その後、福井総裁が名指しした個人消費と消費者物価で、明確な改善を示す材料がなかったにもかかわらず、2月会合では、岩田一政副総裁を除く8人の賛成による雪崩現象で利上げを決定。市場からは、日銀がかねて過去の指標と軽視している国内総生産(GDP)で利上げを決めたのか、という批判や疑問の声が沸き上がった。

繰り返された正式決定前のリーク

JPモルガン証券の菅野雅明調査部長は「1月に利上げに反対しておきながら、2月に賛成に回った5人の『指標を丹念に点検して利上げ支持を決めた』という説明は、額面通りには受け入れられない。要は『2月の空気が流れを決めた』ということだろう。何が政策委員会の空気の流れを変えたのか、部外者には分かりようもない。場合によっては、当事者である政策委員もよく分からないのかもしれない」と指摘する。市場にとって分かりにくいのは当然だろう。

右往左往した今回の利上げが残した禍根はこれ以外にもある。利上げの決定が行われる直前、NHKなどが「日銀総裁が利上げを提案」と報道。政策変更が行われた過去の会合ではほぼ毎回、正式発表前に結果がリークされているが、今回も例外ではなかった。菅野氏は「これは許されることなのだろうか。あるいは、毎度のことなので皆あきらめているのだろうか」と疑問を投げかける。

「このようなリークを通じて、一部の市場参加者が利益を得るような環境では、国際的な金融市場が育つ道理がない。安倍晋三首相と福井総裁がお互いに強いリーダーシップを発揮してリークを防止してもらいたい」(菅野氏)。片や支持率の低下で、片や村上ファンド問題で、求心力の低下がささやかれる安倍首相と福井総裁。利上げをめぐる混乱が両者に残した課題は決して小さくない。