2/26 司法ジャーナル 【寄稿】
2007年02月26日号【寄稿】
閑話休題、伝説の地面師の鮮やかな騙しの手口を紹介する M・S
先週は真珠宮ビル事件の発端から見直してみようと思いましたが読者の方から記述の誤りを指摘されたりまた細切れに書くと過去記事が会員以外に読めないので途中から読む人にはわかりにくくなるのでこの点の検討をする必要があるのと読売ウイークリーに司法ジャーナルの鷲見氏のコメントが引用されていたのを見てこの種の事件のイロハから解説する必要があると思うので、今回は少し地面師事件の昔話をしようと思います。
登記所が登記事務で国家賠償をした事件としては東京法務局港出張所の事件が有名だと思います。
昭和40年代に事件と記憶していますが登記所の過失が認められ8000万ほどの国家賠償となった気がします。
(記憶で書いているので不正確ですが)
さて事件は新橋の100坪ほどの土地で地鎮祭を執り行っているときに始まりました。
地鎮祭の現場に黒塗りの車でやってきた初老の紳士が丁寧に「何をなさってるのですかと」現場の責任者に尋ねたと思ってください。
「本社ビルを建てるんですよ」と責任者が答えました。
紳士は丁寧に施主の名前などをたずねて帰っていきました。
さてその数日後施主の会社に東京地方裁判所から工事を禁止する仮処分命令が来てそして追いかけるように本社建設予定地の登記抹消請求の訴状が届きました。
訴えたのは初老の紳士の所有する会社でその土地はその会社のものだったのです。
結論から先に言えば保証書を利用してその新橋の土地は地面師から本社ビルを建てようとした被害会社に売られたものなので当然土地は初老の紳士の会社が取り戻しました。
被害額は1億5000万円弱だった気がします。
犯人はといえば捕まりませんでした。それどころかまったく気配さえ残さず消えてしまったのです。
ある意味見事です。
手口はこうだったろうということを想像したに過ぎませんが登記所、警察が推理したやり口は以下の通りです。
◆まず印鑑を偽造する。
1.当時は商業登記の閲覧は登記簿そのものを見せておりプラスチックのバインダーには印鑑証明の印鑑紙そのものがつづられていて一般申請人が見ようとすれば見られた時代でした。
そこで地面師Xはまず手ごろな土地をさがします。それほど多額でなくそれでも身体を賭けるに十分な価値の物件です。
ありました新橋に100坪くらい更地が売り出せばすぐ客はつきます。
Xは登記所に行きその土地が長く放置されていて所有会社は土地のある場所から少し離れていて担保にも入っておらず所有会社もおっとりとしていてることを見極めました。
さて、Xは登記所に行ってその会社の登記簿を閲覧するときに何らかの方法で印鑑証明の印鑑ビラを持ち出したかあるいはそこで写真製版するに十分な作業をしたと思われます。
そうです今はスキャナーだプリントゴッコで印鑑証明などを偽造しますがこの当時は写真で印鑑を写してそれを原版化して印鑑を偽造する手口がありました。
とまれ、精密にプロの印刷技術者がやるんですから初老の紳士の会社の実印と瓜二つの印鑑が出来上がりました。
◆次に本店移転の登記をする。そこに事務所をつくる(もちろん偽の事務所です。)
2.紳士の会社の本店の移転登記をするのは簡単です。なぜなら会社実印と寸分たがわぬ印鑑があるから役員変更などする必要なく本店移転登記をできます。
そして同時に事務所も設営します。
事務員も居れば社員も居ますし初老の紳士と同じ年恰好の社長も居ます。
◆ただちに不動産を相場より少し安く売りに出す。
3.あまり安く売りに出すと疑われるのでほんの少し安く売りに出します。一週間ほどで客はついたらしいです。土地がいい土地だったんですね。
買主も近所の会社でしたが事務所もそれらしく紳士的で上品な社長が応対するのでさらに売り急いでるので安めに売ってくれると感じたので(感じさせた)
すぐ契約し決済も一月後ということで何の疑いもしませんでしたしまた引越しの際権利書を紛失したので保証書で登記するという説明までされました。
なるほどうまい説明です。
◆そして、
保証書の手続きは契約時にやってそして登記所からの通知の葉書も当然登記簿上の住所に送られることになりそしてその通り葉書は偽住所の偽社長の手元に届きました。
4.そして無事に残金の支払いと保証書登記の通知葉書が交換され無事?に土地の登記は買主の会社に移転されました。
そして、あっという間にその偽事務所は閉鎖され指紋ひとつ残さず偽社長以下全員いなくなりました。
ぜんぜん行方もわかりません。
本当の会社は当然商業登記がいじられてるとは思わずにいますからなんてことなく営業しておりこの土地取引に何の関与もしていません。
でもさすがに地鎮祭を始めたときに近所の人が売ったんですかと本当の所有会社に聞いたのでなんのことかと社長が自分の土地を見に行った場面がこの話の最初に戻るということです。
なんという芸術的な地面師でしょうか。当時はニュージーランド大使館を売ってあげると複数の客から多額の手付金を騙し取ったりする感心する地面師がいました。
いい時代でした。(すみません、錯乱しました。)
この事件には地面師の手口の基本がほとんど網羅されています。でもヤクザの影はありません。
この原点とも言うべき地面師の手口がどう悪用されていくかということが地面師の歴史でしょう。
どうやって金を巻き上げるかです。
高度成長と社会の変化は裏社会も変質せしめ土地をめぐる詐欺や競売妨害はますます発展することになりました。
その極限が真珠宮ビル事件です。後藤組という大組織の暴力団組長が自ら指揮したということでも特筆すべき事件です。
やはり、歴史を軸にこの事件を見ないと見誤ります。
工夫してまた解説します。