1/25 司法ジャーナル 【検察ウォッチ50年】
2007年01月22日号【検察ウォッチ50年】
調査活動費疑惑は「竹下内閣以降『政治と検察の間に緊張がなくなった』ことから『検察官の中に不正を行う不心得者』が出た」ということだ!
●若原裁判長は
大阪高裁の若原正樹裁判長が15日、元大阪高検公安部長三井環(たまき)被告(62)の控訴審判決を出したことは別項で取り上げ たが、同裁判長は被告側の主張の1部について次のような判断をしたことが波紋を広げている。
若原裁判長は、判決の中で三井被告の主張に対し「被告が高知、高松両地検で次席検事だった頃に直接体験した限度で、調活費の不正流用があった」と認め、「検察庁幹部の私的な飲食費や遊興費などに調活費が流用されたとする疑惑が表面化した99年度以降、調活費が大幅に減額していることを挙げ、「調活費の本来の目的、必要性には疑問が生じる」と指摘したが、「被告が調活費の実態を生々しく語ることで、検察庁が威信を失墜させることになりかねないと憂慮していたと推認されるが、(大阪地検特捜部は)犯罪の嫌疑があれば粛々と捜査を進めるほかない」と判示した。
●北海道新聞は
北海道新聞は17日付社説で「検察の「裏金」*疑惑をもう否定できぬ」という見出しで若原判決を取り上げた。
「警察の裏金問題で明らかになった報償費などの不正流用に類した行為が、検察庁でもあったのか。
(中略)
「不正はない」と疑惑を否定してきた法務・検察当局は実態を解明し、国民に説明する必要があるだろう。
調査活動費は公安情報の提供者への謝礼などに充てられる。しかし、具体的な使途は闇の中だ。ほとんどは、国家の安全確保などのため機密性が高い「特例払い」の対象とされ、領収書提出を免除されているからだ。
被告は、高知地検や高松地検の次席検事時代に調査活動費の不正流用に直接かかわったという。
両地検で年間約400万円が予算化され、全額流用したと証言した。架空の情報提供者や領収書を作る手口は、警察の裏金づくりと似ている。
被告側の証言では、領収書を本物らしく見せるため、さまざまなペンや印鑑を使っていた。
裏金としてプールされた調査活動費は幹部の私的な飲食、遊興費に充てられ、具体的には出張してきた検事の接待や部下との飲食、餞別(せんべつ)、ゴルフ、マージャンなどに使われたという。
判決は「調査活動費が適正に消化されていたことを納得させる証拠はない」として、「実態を知り得る立場にあった被告」の証言を重視した。
さらに「被告が直接体験した限度」と条件をつけながら、「不正流用の事実があったと言わざるをえない」と断定した。
検察の調査活動費については「幹部の私的な遊興費に使われている」との内部告発文が1999年に報道機関に送付された。その後、支出は98年度の約5億5000万円から、02年度以降の約8000万円へと急減した。
急減の理由を法務省は「公安情報の入手方法が外部情報への謝金から、コンピューターネットワークの導入へと変わったため」と説明している。
だが内部告発後に減少していることから、判決は「調査活動費の本来的必要性には疑問が生じる」と指摘した。
三井被告は02年4月、テレビの録画取材に実名で不正流用問題を告発しようとした日の朝、逮捕された。
調査活動費をめぐり、市民団体が仙台高検に情報公開を求めた民事訴訟で、三井被告のほかに仙台高検管内の元副検事も不正流用の実態を証言した。この判決で、○三年に仙台地裁は一部の不正流用を認めている。
これほどの事実が明らかになっているのに、法務・検察当局が不正流用の疑惑を否定し続けるのはおかしい。」
●大阪府議会も
若原判決の影響は大阪府庁にも及んだ。
大阪府議会は15日、流用への関与を指摘されていた元福岡高検検事長の加納駿亮(かのう・しゅんすけ)弁護士(64)が府の裏金問題調査委員に就任した経緯を府から聴くことを決めた。22日の特別委員会でただすという。
加納氏は01年4月、高知と神戸の検事正在任時に調活費を不正流用したとして刑事告発されたが、同年11月に嫌疑なしで不起訴処分になった。
元大阪高検公安部長三井被告は実名で調活費問題を告発する直前の02年4月に逮捕された。
大阪府は昨年12月、裏金問題の再発防止策などの提言をする外部調査委員会を設置。府の顧問弁護士の加納氏が委員に就任した。
●鷲見一雄が斬る
「検察庁の調査活動費は1956年度に初めて予算化された。鳩山内閣、法務省は岸本義廣が事務次官の時代だ。
私は57年から法務・検察高官のところに出入りするようになっていたが、検察最年長の但木検事総長は69年4月の任官だから、調活費の初期の頃のことなど知る現役検事はいない。原田明夫元検事総長、松尾邦弘前検事総長も検事になっていなかった。
公安事件の調査や情報収集などの調査活動に要する経費として、具体的には情報提供者への謝礼や内偵調査に使われてきた。これは戦前、司法省が笹川良一、児玉誉士夫氏らに援助していた形を変えた復活ともいえた。
私の見ていたところ、長い間、適性に使われてきたようだが、公安事件が減少傾向に転じたのに調活費は毎年予算が増額され、98年には5億5300万円に達した。支払先が減少しているのに予算が増えたのだから当然、調活費は余る。
いつごろからか誰の発案なのかは把握していないが、余った予算を裏金としてプール、最高検、高検、各地検の事務局長が管理し、検察首脳たちの機密費として使われるようになったとされる。
衆・参両院の決算委員会は全く機能していなかったということだ。」
●99年、マスコミに
勿論、適正に使われたものもあったろうが、不正流用といわれても仕方がない使い方をした向きもあった。
だから、99年に「幹部の私的な遊興費に使われている」との内部告発文が報道機関に送付されるようになった。私もコメントを求められた1人だから鮮明に記憶している。私は「ようやく出たな」と思った。
法務省は01年から具体的な使途を記した書類の作成を義務づけ、02年からは使途をチェックする監察担当検事を最高検に置いたが、過去の使途については「適正に使われてきた」として調査せず、お茶を濁した。そんなことができたのもケジメをつけさせるべき法相が「国民の代表として検察をチェックする役割」を放棄したからだ。
仙台市民オンブズマンが仙台高検の調査活動費の関係文書開示を求めた訴訟で、仙台高裁が04年9月、請求を棄却しながらも、少なくとも83~93年の調査活動費について「不正流用の疑いが残る」と指摘したり、大阪高裁が三井被告の主張を認めたのは当然なのである。
加納元検事長は府の裏金問題調査委員を辞退せざるをえないであろう。
調活費の不正流用は「政治と検察の馴れ合い」の「しからしめた所産」であるが、前田宏検事総長から原田検事総長までの時代、切ってのスキャンダル。批判がなければ腐敗するのはどこの世界でも共通するということだ。