〔クロスマーケット〕日銀の年内利上げへ警戒感高まる、円高加速の要因との声も
〔クロスマーケット〕日銀の年内利上げへ警戒感高まる、円高加速の要因との声も
06/12/08 19:56
<東京市場・8日>
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日経平均 |国債先物3月限 | 国債283回債 |ドル/円(19:54) |
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16417.82円 | 133.94円 | 1.690% | 115.57/60円 |
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-55.54円 | -0.22 | +0.020% | 115.24/27円 |
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注:日経平均、国債先物、現物の価格は大引けの値。
下段は前日終値比。為替は前日NY終値。
池田 祐美記者
[東京 8日 ロイター] 東京市場で日銀の年内利上げに対する警戒感が強まってい
る。エコノミストの中には早期利上げは、足元の経済指標の結果と整合的でないとの声も
あるが、市場の織り込み度合いは上昇中だ。ただ、円キャリートレードの巻き戻しの動き
に加え、利上げ観測が円高を加速させる要因になる可能性があるとの指摘も出てきた。
<経済指標の下振れで日銀に逆風>
7─9月期の国内総生産(GDP)2次速報値が大幅に下方改定されたことに加え、1
0月の機械受注も市場予想を下回った。実質GDPでは設備投資と個人消費が下方修正さ
れ、名目GDPも前期比マイナス0.0%へ下方修正され、政府が掲げる2006年度プ
ラス2%成長達成が、ほぼ絶望的な状況となった。「日銀が目指す追加利上げにとって強
い逆風」(みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏)との声も漏れてく
る。
設備投資の先行指標である機械受注が下振れしたことで、市場では「設備投資がけん引
した景気回復に黄信号が点灯している」(三井住友銀行・市場営業推進部ストラテジスト
の宇野大介氏)との見方も出ている。
<市場の信認絡み、利上げ時期で日銀は難しい判断>
日銀の金融政策に関しては「12月に追加利上げを行うのは難しくなったのではないか
。利上げすれば株式市場から強い不満が出そうな感じ」(みずほインベスターズ証券・調
査部部長の一尾仁司氏)との見方が出る一方で、「年内利上げを意識した市場の勢いは、
止まらないだろう」(バークレイズ銀行・資金証券部ディレクターの箙将行氏)との見方
も根強い。
他方、8日の短期金融市場では、金利上昇圧力が高まってきている。来年2月が期日の
日銀オペの案分レートは、約8年ぶりに0.5%台へ上昇した。
また、ユーロ円金先市場では、GDPや機械受注の弱い数字が出ても「利上げ警戒感が
あって、金先が買われる地合いではなかった」(外資系証券)との見方が出ていた。
利上げ時期をめぐる市場予測は依然分かれているものの「ここまで来ると、12月の金
融政策決定会合で利上げを見送った場合の方が、かえってサプライズになってしまうので
はないか」(箙氏)との見方もある。
一方で、第一生命経済研究所・主席エコノミストの嶌峰義清氏は「年内0.25%の利
上げを行っても実質的なインパクトは小さいが、このような経済指標が出ている中で利上
げを行えば、市場は日銀に対する不信感を抱くことになるだろう」と警告する。どちらに
ころんでも日銀は、難しい判断を迫られていると言えるだろう。
<政府との景気認識に違い、日銀短観が年内利上げの決め手に>
12月5日に行われた福井日銀総裁と安倍首相の会談では、政府と日銀の間で景況感、
特に消費の認識の違いが浮き彫りになったことも、市場心理に微妙に影響している。
「日銀内ではタカ派の審議委員に勢いがついており、政府との対決も辞さない姿勢にあ
る」(クレディ・スイス証券・チーフエコノミストの白川浩道氏)とみられているものの
、利上げ後に景気減速が鮮明となれば、政策の失敗という批判を受けるリスクが大きい。
ニッセイ基礎研究所・シニアエコノミストの矢嶋康次氏は「ゼロ金利解除からの一連の
動きを振り返ると、福井総裁は、反対が強くとも日銀の判断で利上げは行い、結果責任を
取る考えだ」と指摘。「景気認識に温度差があり、政府サイドからの反対は重々承知しな
がらも、総裁としては先行きには自信があり、統計次第で年内も含め、早期利上げを行う
ことを(安倍首相と会談して)ある意味で宣言したと考えているだろう」と分析する。
ABNアムロ証券・チーフ債券ストラテジストの市川達夫氏は「日銀サイドからは年後
半の景気減速を想定して、足元の指標が弱くても金利正常化のために利上げを行う姿勢を
示している」と指摘する。
市場では、年内利上げ実施にとって「決め手は12月日銀短観」(モルガン・スタンレ
ー証券・エグゼクティブ・ディレクターの佐藤健裕氏)となるとの見方が多い。
<円キャリー巻き戻しの勢いが、利上げで加速の可能性>
7日に欧州中銀(ECB)が0.25%の追加利上げを実施し、政策金利を年3.5%
とした。一方、米連邦準備理事会(FRB)は来年1─3月期にも利下げに転じるとの観
測が市場では広がっている。
日本の債券市場や株式市場では、日銀の追加利上げをある程度は織り込んでいるが、来
年7月には参院選を控えているため、連続的な追加利上げへの思惑は強くないため、年内
0.25%の利上げを実施しても影響は限定的とみられている。
ニッセイ基礎研究所の矢嶋氏は、1)日銀の連続利上げ観測が醸成されないこと、2)
国内の先行き景気に対して不透明感が払しょくされないこと、米国の長期金利の低下──
などが、「長期金利の上昇余地を大きく限定するだろう」と予想する。
株式市場でも「物色のテーマはM&A(企業の買収合併)に移っている」(みずほイン
ベスターズ証券の一尾氏)状況だ。
こうした中で日銀が追加利上げに動けば、為替相場が「大きくドル安・円高に傾くリス
クが高い」(ニッセイ基礎研究所の矢嶋氏)との警戒感が出ている。企業業績が「円安・
米中の需要頼み」(三井住友銀行の宇野氏)となっている中で、当面は円高リスクが焦点
となりそうだ。