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11/28 ブルームバーグ コラム

【FRBウオッチ】ドル基軸体制終焉への序章、「借金大国」に陰り
11月27日(ブルームバーグ):米国では毎年、感謝祭明けの金曜日にクリスマス商戦が本格化する。この日は、小売店がその年の決算を黒字化できる日という意味を込めて、「ブラックフライデー」と呼ばれる。米国の消費者の購買意欲は非常に強く、小売店も競争激化から、今年は午前零時に店を開くところが増えた。消費者は木曜日の感謝祭の夜から店の前に並ぶことになり、ブラックフライデーならぬ、「レッドアイサーズデー」(Red-eye Thursday)という新語まで生まれる騒ぎになった。

玩具の小売大手、トイザラスのストークCEOは「店の外で開店を待つ顧客の列は近年見たこともないような大きな規模に膨れ上がっていた」と話していた。今年は、住宅不況で、一部では個人消費の盛り上がりに不安もあったが、雇用市場が強く、所得も増加しているため、クリスマス商戦は上々の滑り出しになったようだ。

全米小売業協会(NRF)26日の発表によると、感謝祭を含む週末の消費者1人当たり支出額は360.15ドル(約4万1840円)と、前年同期の302.81 ドルを19%上回った。

「借金大国」は世界の救世主か

ブルームバーグが85人の民間エコノミストを対象に聴き取り調査(11月 10日集計)したところによると、第4四半期の個人消費は実質ベースで前期比年率3.0%増となった。来年はやや減速するが、年間平均で2.7%増と、2%台の後半をキープする。

住宅不況に伴う下振れリスクが残るものの、良好な雇用環境の下で、個人消費が持ちこたえるため、住宅市場の落ち込みは克服可能とみられている。もし、この楽観的な予測が正しいとすれば、残された問題は、個人消費が再び加速に向かうことかもしれない。そうなれば、アメリカの抱える、経常収支赤字に象徴される不均衡の膨張が続くことになる。

バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、FRB理事を務めていた昨年3月に、「世界経済が抱える問題の根源には、日本やアジアを中心とする貯蓄の過剰がある」と指摘した。同議長によると、米国がこうした過剰な貯蓄を借り入れて、消費に回すことで、世界経済は円滑に推移しているという。バーナンキ議長は、米経常赤字に対する長期的な対策として貯蓄過剰国に内需の拡大を要請。そうすれば、世界的な不均衡は必然的に是正されると主張した。

バーナンキ議長の発言が正しいとすれば、好調なクリスマス商戦は世界経済にとって少なくとも短期的には朗報だ。しかし、バーナンキ議長は、米国については借金をして、消費するまでの部分しか話していない。つまり、借りたお金は必ず返す必要があるという部分が欠落していた。バーナンキ議長が後半を話さなかったのは、米国が基軸通貨国のため、輪転機を回してドル紙幣を印刷すれば済むとでも考えたのだろうか?

しかし、印刷したドル紙幣の価値が下がれば、貸し手が損をして、次からは貸し渋ることになるだろう。もっとも、日本のように低金利国では、運用難から、ドル安のリスクにもかかわらず、米国債投資を余儀なくされている面もある。バーナンキ議長が、「貯蓄余剰」を問題視して、借金大国賛歌を口ずさんでいられるのもそのためだ。

揺れるドル基軸体制

もっとも、いくら運用難といっても、減価を承知でドルに資金を投入し続ける投資家はいないだろう。実際、産油国の間では資金をドル建てからユーロなど他の通貨に移す動きもみられる。ドルは1971年の金との交換停止後、金に代えて石油価格の表示通貨(ペトロダラー)として優位を保ってきただけに、この産油国の動きが本格化すると、基軸通貨としてのドルの地位に黄色信号が灯ることになる。

アラブ首長国連邦(UAE)中央銀行のスルタン・ビン・ナセル・スワイディ総裁は17日、フランクフルトで、「ユーロがユーロ圏外の通商で、主要な役割を担うまでに成長することに間違いはない。ユーロは10年以内に基軸通貨になるだろう。2015年までにはドルを追い抜くとみている」と予言した。

米国が基軸通貨国の地位を確保し続けるためには、対外不均衡を是正し、借金大国からの脱却を図る必要がある。FOMCは2004年6月からことし6月にかけて2年間にわたり金利を引き上げてきたのも、もとはといえば、過剰消費を抑え、身の丈にあった消費に軟着陸を図ることが狙いだった。

米国での議論は住宅不況の影響で、もっぱら個人消費が落ち込みを免れるかどうかに集中しているが、経済の構造改革を進めるためには、痛みの伴う個人消費の調整が必要だろう。コーンFRB副議長は10月4日の講演で、「金利の方向性や現在の政策の意味合いについての不透明感が相当に大きいという私の感覚を、ほとんどの市場参加者が共有していないことに驚きを感じる」と語り、「金利市場での予想ボラティリティ(変動性)の低さ」を指摘した。

政権の政策の枠内での独立

先物金利はコーン副議長が、市場の反応に違和感を表明した10月初めの時点で07年1月の利下げを40%まで織り込んでいた。その後、コーン副議長らのインフレ警戒発言で、1月の利下げ観測は後退したが、11月24日現在、来年3月の利下げを51%織り込んでいる。コーン副議長はFF金利を5.25%まで引き上げたが、市場金利が低下したため、金融引き締め効果がしり抜けになっていることに苛立ちを強めているようだ。

市場参加者が住宅不況による景気の強い減速を警戒している一方、金融当局者は、市場金利の低下により個人消費を中心に調整が不十分に終わることを懸念しているようにみえる。こうした苛立ちを募らせながら、金融当局者はFF金利の引き上げに踏み切れないのはなぜか?

それは、政権と一体化した金融政策のなせるわざかもしれない。FRBの基本方針を示した「連邦準備制度の目的と機能」(The Federal Reserve System, Purposes & Functions, FRB刊)は連邦準備制度の独立性について、「時の政権の経済政策の枠内での独立」と明記している。つまり、時の政権の基本方針と相容れない政策は打てないわけだ。グリーンスパン前議長がクリントン民主党政権下では増税を、ブッシュ大統領の下では、減税を支持したのは、日和見したのではなく、時の政権の経済政策の枠内で行動したからに他ならない。

利上げ効果の減退にあせり

ましてや、バーナンキ議長は、今年2月に就任する直前まで、ブッシュ大統領の経済諮問委員長を務めていた。ブッシュ大統領の国策である「対テロ戦争」と「減税」による経済成長加速路線に相容れない痛みの伴う金融引き締めには消極的にならざるを得ない。したがって、インフレリスクが懸念材料と唱えながらも、6月をもって利上げを打ち止めにしたのである。

インフレについて、心地よい水準とされる個人消費支出(PCE)コア価格指数を2%に抑え込むめどが2008年まで付かない中で、利上げを停止してしまった。7月に公表されたFOMC予測のベースラインはPCEコア指数の見通しについて、07年末時点で、2-2.25%となお2%突破を想定している。コーン副議長が、市場参加者が当局の感触を共有していないと苛立ちをあらわにしたが、これは、インフレリスクを強く意識しながら、追加引き締め策を打てない自らの立場に対するあせりを反映しているようにもみえる。

そうでなければ、マーケットメカニズムを信奉する米金融当局者としては、市場参加者の総意である相場動向に反論するなど、はなはだしい思い上がりということになってしまう。米中央銀行の当局者の間から、コーン副議長に続くように、市場動向に不満を表明する声が漏れてくる。本来、市場との対話とは、金融当局の政策を一方的に押し付けるものではないはずだ。

家計・政府とも借金膨張

2002年月のジャクソンホールのシンポジウムで、グリーンスパン議長(当時)は「金融当局者は数百万人の投資家の判断に勝つことはできない」と謙虚に語っていた。「金融政策当局の経済見通しは常に間違うリスクを内包している」(同前議長)いるわけであり、市場参加者の見通しと双方向の対話を通じて常に調整していくべき性格のものだろう。

ブッシュ政権の経済政策の枠内で自由を抑制され、市場との双方向の対話も不十分な現行金融政策では、過剰消費体質→対外不均衡の拡大→借金膨張→ドル基軸体制のきしみ―という長期的なリスクを克服することは難しいかもしれない。米国の家計の債務残高は今年6月末現在で、12兆3735億ドルと、1999 年末の6兆3984億ドルのほぼ2倍に拡大した。

         イラク戦争泥沼化のリスク

  ブッシュ政権による対イラク戦争の泥沼化も、ドル基軸体制の維持にとって大きなマイナス材料だ。連邦政府の債務残高は2001年6月末の3兆3029億ドルを近年のボトムに、今年3月末には4兆8347億ドルと、46%も急増している。今年6月末には4兆8057億ドルと、好況を背景にした税収増により縮小したものの、トレンドの転換には程遠い。好況のピークでこの程度の改善にとどまっており、景気減速に伴い再度、悪化に向かう可能性が高い。

  クリスマス商戦突入を報道したブラックフライデー明け25日の「ワシントン・ポスト」は、一面左トップに、開店とともに、バーゲン品を目掛けて突進する消費者のすさまじい形相を見事に切り取った写真付き記事を掲載。一方、一面右には、イラク戦争開始以来1日で最大規模の死者を出したバグダットのシーア派教徒居住区に対するスンニ派武装勢力による攻撃の後、葬列に加わる遺族の深い悲しみを捉えた写真とともに長文の記事を掲げた。

  ワシントン・ポストは、米国が抱える問題を象徴する2つの事象を意図的に1面トップに並べたわけではないだろう。しかし、家計の過剰消費体質と、国家の軍事費膨張という米国が内外に抱える問題を、図らずも浮き彫りにする効果があった。