世界的出遅れ目立つ日本株、マクロ・ミクロ両面の懸念で
[クロスマーケット]世界的出遅れ目立つ日本株、マクロ・ミクロ両面の懸念で
06/11/13 18:23
田巻 一彦記者
<東京市場 13日>
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日経平均 |国債先物12月限| 国債283回債 |ドル/円(18:01) |
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16,022.49円 | 135.08円 | 1.660% | 117.41/43円 |
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-89.94円 | +0.28円 | -0.020% | 117.53/56円 |
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注:日経平均、国債先物、現物の価格は大引けもしくは午後3時の値。
下段は前週末終値比。為替は前週末NY終値。
[東京 13日 ロイター] 世界的な株高の中で日本株の低迷ぶりが目立っている。
企業業績の上方修正がこれまでのところ限定的で、下期の業績が表面上、下振れするリス
クが出てきているだけでなく、弱い経済指標が続出し、堅調とみられていた景気自体にも
黄信号が灯ってきたとの見方が海外勢の間で広がり、日本株を買い控える動きが表面化し
ているためだ。景気後退が本格化し、日銀の利上げ時期にも影響するとの見方が広がれ
ば、円キャリートレードの活発化と円安の進展が予想されるとの声も出ている。
13日の東京株式市場では日経平均 <.N225> が続落し、一時1万6000円を割り込ん
だ。「あおぞら銀行 <8304.T> のあす14日の上場をにらんだ換金売りが出ていた」(国内
証券)という特殊要因もあるが、海外勢の中には「日本のファンダメンタルズは本当に大
丈夫か」(外資系証券)との声も広がっており、海外勢による日本株買いの手が「止まっ
ている」(その外資系証券の関係者)という。
<海外勢は10月末から日本株売り越し、欧州勢のリバランス一巡で>
財務省が13日に発表した10月の対外対内証券投資によると、海外勢は1兆0496
億円買い越していた。しかし、財務省が前週に発表した10月29日─11月4日の週次
ベースの統計では、海外勢は2425億円を売り越していた。先の外資系証券の関係者は
「10月下旬から、これまで買ってきた欧州勢も売りに転じ、海外勢全体での日本株離れ
が目立っている」と述べた。
海外勢の動向に詳しい草野グローバルフロンティア・代表取締役の草野豊己氏は「欧州
勢のリバランスによる日本株買いが一巡した後に、買ってくる海外勢がいなかったという
ことだ」と指摘する。
草野氏によると、欧州の機関投資家の中には、米欧株に比べ出遅れたうえに、円安で現
地通貨建ての資産価格が減少したため、当初の運用比率を回復させるために日本株を買い
増す動き(リバランス)がかなりあったという。加えて、欧州のヘッジファンドが、8、
9月ごろから日本株の物色を活発化させたと説明。米国に比べ、ヘッジファンドの存在感
が小さかった欧州でもヘッジファンドの設立ラッシュが続き、「ロンドン証券取引所の株
式取引の半分がヘッジファンドによる取引になった」(草野氏)とされる。
そうした欧州系ヘッジファンドが日本株買いで期待したのは、「彼らが買った後で日本
の個人投資家が追随買いすることだった」と草野氏は分析する。しかし、日本の個人投資
家は売りで反応し、「結果的に欧州系ヘッジファンドは上昇トレンドを形成できず、彼ら
も日本株ロングを手仕舞った」という。
<弱いマクロ指標は一過性の要因との指摘>
先の外資系証券の関係者は「家計調査における個人消費の弱さ、輸出型産業の強さを示
していた鉱工業生産の頭打ち、設備投資の先行指標である機械受注の弱さなど、次々と弱
いマクロ指標が出て、海外勢の中に疑心暗鬼が広がっている。実際、OECD(経済協力
開発機構)先行指標では、すでに景気後退の兆しとも言える数字が出ており、これを重視
している海外勢が多い」と話す。
OECDが10日に発表した9月景気先行指数は、加盟国全体で109.1から
109.6へと上昇、日本も99.9から100.00と8カ月ぶりにプラスになったも
のの、日本の6カ月平均はマイナス2.0で低迷している。
JPモルガン証券・チーフエコノミストの菅野雅明氏は、マクロ指標の弱いデータが海
外勢の日本株買いにとってマイナスに作用しているとしたうえで、「今起きているのは、
いずれも一過性の要因によるもので、日本経済が本格的な景気後退に突入するサインでは
ない」と分析している。
菅野氏によると、電子部品・デバイスの在庫調整が起きているが、携帯電話の旧型・新
型モデルの販売政策に関連した在庫の積み上がりが発生しているだけで、一時的な要因だ
という。また、テレビ用の大型の液晶は、やや作りすぎたことで在庫が積み上がっている
が、出荷の水準は低くなく、年末に向けて価格が低下していけば、円安効果の輸出増も期
待できるため、来年1─3月期には調整が終了すると予想している。
さらに個人消費には天候要因も加わっており、「今回の軽度の調整はちょうどよいガス
抜きになって、来年4─6月期以降は景気拡大のテンポが加速する可能性がある」とみて
いる。OECDの景気先行指数の弱さも「生産の伸び悩みを反映しているだけで、景気の
屈折を意味しているわけではない」と予測する。
また、海外勢が日本株に消極的になっている点に関連し、菅野氏は「日本企業の多く
で上期の見通しを上方修正し、通期を据え置いているから、下期が結果的にマイナスにな
ることを海外勢は懸念している。しかし、多くの企業は為替レートの想定をドル/円で
113円程度にみており、決算期が接近すれば円安効果で上方修正するところが増えるの
ではないか」との見通しを示す。
海外勢の動向に詳しいある国内市場関係者も「米系勢は、日本企業の業績と景気という
ミクロ、マクロ両面で懸念を強めている。このため豪州、ニュージーランド、香港などの
株にマネーが流れ、東京には来ていない」と指摘。「ある時点で不透明感が晴れれば、
米系勢の日本株投資も拡大する可能性がある」との見方を示している。
ただ、日本の景気の先行きに悲観的な見方も出てきている。三菱UFJ証券・チーフエ
コノミストの水野和夫氏は「米住宅価格が下落に転じたのは、戦後3回あったが、いずれ
もその後、景気後退に突入している。今回も来年1─3月期に米経済が景気後退期に入
り、日本も来年4─6月期には景気が後退している可能性がある」と予想している。
こうした見方に立てば「世界的な株高局面はいずれ収束し、米株もピークアウトして、
来年は債券にマネーが向かうことになる」(水野氏)というマネーフローが展開する公算
が大きくなる。
<増える円キャリー取引、踊り場短期・景気後退のどちらでも拡大か>
景気の先行きについては見方が分かれているが、外為市場で当面、円キャリートレード
が拡大していくとの見方が多数を占めつつある。先の国内市場関係者は「日銀が年内に利
上げしても、その先は当面、様子見との見方が多い。とすれば円キャリーはリスクが小さ
く、収益が見込める数少ない取引だ」と話す。
三菱UFJ証券・エクイティリサーチ部・シニアエコノミストの吉川雅幸氏は、
1997─98年のような目立った取引は陰をひそめているものの、国際決済銀行
(BIS)統計では、2005年から外国銀行は対日資産を減少させており、これは円資
金での借り入れを増やしているか、円建て貸付を減少させていることを意味すると指摘。
吉川氏は「個々の取引の形態ははっきりしないが、いわゆる円キャリートレードというも
のが増加していることを示すデータではあるだろう」と述べる。
そのうえで「円キャリートレード自体が、円安方向への圧力になっている。実際、05
年と06年を比べると、外債投資はおとなしいが、円キャリートレードと直接投資が円安
を加速させている要因と分析できる」と話す。
冒頭の外資系証券の関係者は、円キャリートレードのマネーの流れた先として「東欧で
円建ての住宅ローンを組んでいる例があるようだ」と述べている。
吉川氏はこの点に関連して「定量的なことは言えないが、円キャリートレードが円建て
住宅ローンなどに利用されたとすると、その国の中銀や隣接の有力な中銀の引き締め政策
のう回路を提供することになるだろう」と話している。