11/13 ブルームバーグ コラム
新日鉄:ブラジル鉄鋼会社と関係強化-成長市場をめぐりミタルと激突
11月11日(ブルームバーグ):世界経済の新たなエンジンとして登場したBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の1つ、ブラジルをめぐって鉄鋼2社が激突している。首位の欧州アルセロール・ミタル(ミタル)が現地での事業拡大に意欲を見せると、すかさず2位の新日本製鉄も6日、ブラジル鉄鋼最大手ウジミナスの出資比率を引き上げ、経営への関与度を高めると発表した。
買収戦略のミタル、友好的提携の新日鉄という両社の戦略の違いが鮮明となるなか、アナリストは成長市場の確保に向けた新日鉄の積極姿勢を評価したうえで、今後の出方に注目している。
「アルセロール・ミタルはますます大きくなっている。われわれも大きくならなければならない」--新日鉄の入山幸常務は6日夜、ウジミナスとの関係強化に関する記者会見でこう語った。新日鉄経営陣は1年前までとは異なり、ここにきて規模拡大に前向きな姿勢へと転換。その背景として、自動車やエネルギー向けを中心とした鋼材市場が拡大すると同時に、業界の寡占化も進行していることがあり、「手をこまねいて見ているわけにはいかない」(UBS証券の山口敦アナリスト)というのが実情だ。
ブラジル-生産、販売で好立地
新日鉄はブラジル市場について、自動車生産が近く年間300万台規模に達するとみられるうえに、テナリス(アルゼンチン)などの鋼管大手が南米に拠点を持っていることで鋼管用厚板の需要も見込めることに着目。さらに鉄鉱石の世界的産地であるブラジルでは低コストの鉄鋼生産が可能で、「ここにコミットできる体制を整えることは欠かせない」(入山常務)と力を入れる。
ミタルも同じ狙いから事業を強化。傘下の鉄鋼会社CSTの高炉稼働によってグループ2社の合計粗鋼生産量(現在812万トン)は07年には200万- 300万トン増加し、ウジミナス(同866万トン)を上回る見通し。ミタルとウジミナスは、同国の自動車用鋼板市場でシェアを二分。世界の主要自動車メーカーが進出して製品間の競争が起きているため、新日鉄としても「後に引くわけにはいかない」(入山常務)という事情もある。
北米、欧州市場向け拠点にも-アナリスト
新日鉄がウジミナス株式を1.7%直接取得することについて、アナリストは「巨大市場の北米をにらんだ拠点として、ウジミナスは重要な位置を占めることになる」(ドイツ証券の原田一裕アナリスト)と前向きに捉え、今後の新日鉄の取り組みに注目している。
その目玉が、ウジミナスの計画している年産500万トンの高炉製鉄所プロジェクトで、新日鉄はウジミナスの事業化調査(FS)に技術協力の形で参加している。計画の実施に際しては、販売先を確保したパートナーの参加が条件。アナリストは、新日鉄の出資比率の低さから現時点では収益寄与度は限られる一方、これまでの経緯から新日鉄がパートナーとして選ばれる可能性は高いとみる。
このうちUBSの山口氏は、具体的な収益効果をコメントできる段階ではないとしながらも、「規模拡大に向けた可能性を開いたことはポジティブ」だと受け止めている。
経営手法の評価の場にも-新日鉄とミタル
新日鉄とミタルがしのぎを削るブラジル市場はまた、両社の経営手法を評価する場にもなりそうだ。敵対的買収をもいとわない拡大路線で頂点に立ったミタルに対し、新日鉄は友好的提携に基づくグループ形成に注力する。
新日鉄の戦略に関して、みずほインベスターズ証券の鈴木博行アナリストは、旧日本鋼管や旧川崎製鉄(現JFEスチール)が北米、ブラジルでの鉄鋼事業に事実上失敗したことを指摘。「リスクを抑えるために連合を組んで規模を拡大し、ミタルの対抗軸を形成する手法は評価できる」としている。
ウジミナス-半世紀前始動のプロジェクト
ウジミナス自体、1958年に日本とブラジルの経済協力案件の第1号として設立され、日本側は当時の八幡製鉄所(現新日鉄)が取りまとめた経緯がある。新日鉄は今回、ウジミナスに直接出資を行うと同時に、投資会社の日本ウジミナス(東京都千代田区)を持ち分法適用会社として傘下に収めた。また鉄鉱石最大手のリオドセ(CVRD)をウジミナスの安定株主グループに取り込んだ。
長期的視点に基づいて有形無形の資産を蓄積し、将来に備えるという新日鉄の手法は、一見スピードが遅く見える。ただ鉄鋼業界は景気サイクルに翻弄されてきた歴史があり、景気が悪化するとミタルのように資産を丸ごと抱える手法は一転してリスクが高まりかねない。
これに対して新日鉄の場合は、提携先への関与が限定されていることでリスクは相対的に低く、「機動的な対応が取れるという利点もある」(ドイツ証券の原田氏)という。
2社のせめぎ合い続く
今回の一連の動きをめぐっては、アルセロール・ミタルの最高経営責任者(CEO)に就任するラクシュミ・ミタル氏が10月、「ブラジルでのプレゼンス強化に向けた事業機会を今後も模索する」と語り、買収を含めた事業拡大に意欲を表明。その1カ月後には、新日鉄が主体となってウジミナスの安定株主比率の引き上げに踏み切り、「敵対的M&Aに対して非常に強い」(入山常務)体制を整えた。2社は北米事業などで提携関係にあるが、ブラジルではまさに丁々発止のやりとりを交わす状態にある。
世界経済の拡大が続けば、インドやロシアが次の有望市場として浮上することになる。ミタルは業界再編を主導することを掲げ、インドや中国での事業にも意欲的で「我々は数年先を走っている」(ミタル氏)と自信を見せる。
新日鉄もこうした環境変化に対応するため、「今後も矢継ぎ早に手を打ってくる」(UBSの山口氏)とみられている。積極戦略のミタルと「深慮遠謀の会社」(みずほインベスターズの鈴木氏)である新日鉄の2社のせめぎ合いは、今回のブラジルだけでなく、後に続くインドやロシア市場の攻略、さらには韓国ポスコやJFEスチールなど3番手以下の海外戦略にも影響を及ぼしそうだ。