勢いづくコーン先物市場から見えるもの
2006/11/08(水)20:30
勢いづくコーン先物市場から見えるもの
11月3日付のウォールストリートジャーナルWeb版のトップページでは、CBOT(シカゴ・ボード・オブ・トレードの略。金融先物も取引されている世界最大の商品先物取引所)で取引されているコーン先物価格が10年ぶりの高値に達した、と見出し付きで報じられました。
また、CFTC(全米先物取引委員会)が各取引所に対して義務付けている市場参加者のポジション公開によって、10月31日現在の米国先物市場において最も買い進まれているのがコーンで、買い越し枚数は21万8,998枚となっていることが明らかとなっています。
この枚数は第二位の金の買い越し枚数6万4,716枚に大きく差をつけるもので、米国市場では如何にコーンに対する強気な見方が根強いか、ということを窺い知ることができます。(なお、10月24日の時点で最も売り込まれ、売り越し枚数が13万7,290枚に達していた対ドルにおける円は、その後の1週間で大量に買い戻されており、10月31日時点の売り越し枚数は5万9,600枚となっています。)。
コーンに対する買い気がこのように高まっている主な原因は、世界的に穀物類の供給量がひっ迫するとの懸念が強まっていることが挙げられます。コーンの世界最大の生産国である米国、そして輸入国への転換が懸念される中国では共に大豊作となっているにもかかわらず供給ひっ迫が懸念されているのは、これまでに何度か触れてきたように、原油価格の高騰に伴い代替エネルギーとしてエタノールの重要性が高まるなか、燃料資源としてのコーン消費量の拡大が見込まれていること、そして、新たに同じ穀物類に分類される小麦が世界的に減産となった結果、世界の小麦在庫が25年ぶりの低水準まで落ち込むとの観測が台頭したことにあります。
もともとコーンと小麦は、共に飼料の原料として消費されることもあって、従来から一方の供給量が減少すれば他方の需要が増加するという関連性があり、価格も交互に作用するため比例して動く傾向があります。
そのため、米国、中国の両国ではコーンが豊作になったにもかかわらず、一方の小麦が米国、中国、フランス、そして南半球最大の生産国であるオーストラリアでも厳しい干ばつに見舞われたことで昨年度を60%程度下回る大減産となっていることが、世界的な穀物類の供給不足懸念を高め、これがコーン価格上昇の一因となっているのです。
なおこれまでは、価格が高騰した農産物の生産意欲が高まるため、次年度にはその農産物が増産となり、その結果、価格と需給が時間をかけて調整される、という傾向がありました。しかしながら、中国、インドといった人口大国の経済成長に伴う食料やエネルギーを初めとする商品の中長期的な需要増加見通しと、燃料資源という新しい需要の創出は従来の穀物類の需給動向に変化をもたらしており、これまでのように増産になったからといって必ずしも需給が緩和されるとは限らない状況になっています。
これは、今年度の米国のコーン生産量は前年度に比べてわずか1.8%の減産にもかかわらず、期末在庫率は適正水準を上回った前年度の17.5%に対し、今年度は危機的水準とされる8.4%まで引き下げられていることからも明らかです。
さらに、この強気な需給見通し実現の可能性が高まるに連れてファンド資金が商品先物市場に流入している可能性も見逃せません。特に、ETF(上場投信)を通した金の購入量は10月31日からのわずか5日間という短期間のうちに20トン以上、金額にしておよそ7億5,500万ドル分も増加していることは、一時的に流出していたファンド資金が商品先物市場に再び流入してきていることを示唆する動きと考えられるのです。
商品全般の需要増加観測とこれを手がかりにしたファンド資金の流入は今後も商品先物市場の価格上昇を促す要因になることが見込まれます。なかでも、世界の輸出量における米国のシェアが60~70%を占めるため供給状況の把握が比較的容易で、それが故にどの商品よりも先に買い進まれた結果突出しているコーンの現在の買い越し枚数と価格の上昇は、今後の商品先物市場の動向を暗示する動きとも考えられるのです。
平山順(ひらやま・じゅん)氏
中央大学法学部卒、英国留学後
(株)日本先物情報ネットワークに入社。
現在主任研究員。商品全般に通じ特に穀物市場を得意とし、テクニカル分析には定評がある。
1999年にシリーズ3(米国先物オプション外務員資格)に合格。