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11/6 ブルームバーグ コラム

【FRBウオッチ】FOMCの「見えざる手」に異変、引き締め未達も
  11月6日(ブルームバーグ):「アダム・スミスが唱えた自由市場の原理は現在にも通用する」―。2005年2月6日。スミスの功績を記念して生誕地スコットランドのカーカルディーで開かれた講演会で、グリーンスパン連邦準備制度理事会(FRB)議長(当時)はこう語った。「市場の見えざる手」が需要と供給を調整し、適正な価格水準を決定するというわけだ。

  ただし、米国の短期金融市場では、「市場の見えざる手」ならぬ、連邦公開市場委員会(FOMC)の見えざる手がプライスを決めている。ここから、債券市場、そして実体経済へと波及していく。マーケットもFOMCの一挙手一投足を予想しながら価格を形成する。

  FOMCの「見えざる手」が米経済を動かしていることは、経済統計を見れば一目瞭然だ。経済統計の軌跡はFOMCの「見えざる手」が描いたものと言えよう(記事末尾の画面参照)。1999年6月に始まった利上げ局面では、失業率が2000年4月に3.8%でボトムを形成。ここから反転に向かう。FOMCは同年5月16日の会合でフェデラルファンド(FF金利)を6.5%に引き上げ、ここで打ち止めとした。

       FOMCも失業率4.6%をボトムと想定

  この利上げにより情報技術(IT)バブルが破裂し、景気後退に突入。FOMCは2001年1月から3回の緊急利下げを含め、合計13回の利下げを断行。利下げ局面が終了する2003年6月にはFF金利が1%まで急低下した。そして失業率は同年6月に6.3%でピークを打つ。FF金利のボトムと失業率のピークが一致。3年前の利上げ打ち止め時と見事な鏡像を映し出した。そして2003年第3四半期には国内総生産(GDP)がインフレを除く実質ベースで前期比年率 7.5%も拡大。景気は一気に上放れした。

  この大幅金融緩和からグリーンスパン議長が任期中最後の利上げ局面に転じたのは、2004年6月。FF金利の起点は1%。同年6月の失業率は1年間で6.3%から5.6%まで低下していた。さらに、今年2月に就任したバーナンキ議長も利上げを継続。失業率は低下を続け5月、6月に4.6%に水準を下げていた。失業率のボトム圏形成を見届けるように、バーナンキ議長は6月にFF金利の誘導目標を5.25%まで引き上げた。

  失業率は7月に4.8%に上昇。5、6月の失業率は今回の景気拡大局面でボトムを形成したかに見えた。このまま失業率が上昇しなくても、同水準近辺にとどまっていれば、6月が最終利上げとなり、グリーンスパン議長時代と同様の軌跡を描いていたはずだ。FOMCの年央見通しは失業率が第4四半期に平均 4.75-5%に上昇すると想定。失業率のボトムを5、6月に記録した4.6%とみていたことが分かる。

             失業率底割れの謎

  労働省が11月3日に発表した10月の雇用統計は衝撃的だった。米国債市場では売りが殺到。10年債利回りは前日比12ベーシスポイント(bp、1bp= 0.01%)上げて4.715%に駆け上がった。上昇幅は中国が人民元を切り上げた 2005年7月1日以来の最大を記録した。

  10月は非農業部門の雇用者数こそ9万2000人増と、巡航速度以下にとどまったものの、9月と8月分が合計13万9000人も上方修正された。極め付きは、家計調査の失業率だった。今回の景気拡大局面でボトムとみられていた4.6%を 0.2ポイントも下回る4.4%に低下してきた。その前日に発表された失業保険継続受給者比率も1.8%と、5月に付けていたボトムと同水準に低下。符節を合わせている。

  もっとも、先行指標となる失業保険申請件数は直近で32万7000件と上放れしており、行方を注視する必要がある。同統計は1億2800万人余りの失業保険の被保険者を対象とするため、サンプル調査の雇用統計よりも雇用情勢を的確に把握することができる。ただし、週間統計のため季節調整で問題が生じやすく、4週移動平均などで均して見る必要がある。

            10月雇用統計に弱さ

  失業保険申請の上振れが今後の統計で裏付けられれば、10月の失業率4.4%は今回の景気拡大局面でボトムとなる可能性が高まる。10月の雇用統計も内容をみると弱さが目立つ。そもそも、非農業部門の雇用者増はバーナンキ議長が潜在成長率に一致すると指摘した月間13万人増のメルクマールを大きく下回っている。しかも、政府部門が3万4000人も増えており、これを除けば民間部門の雇用者は5万8000人の増加に過ぎない。

  民間部門の中でも、製造業は3万9000人の労働者を解雇。住宅不況に見舞われる建設業界では、商業・工業部門の拡大でも補い切れず、2万6000人の職が失われた。今回の景気減速は住宅建設という米経済全体から見れば比較的小規模なセクターを発火点としているため、他の分野への波及に時間がかかっている可能性もある。住宅建設は米国のGDPのわずか5%に過ぎない。しかも、今回は非住宅部門が時差を置いて、住宅部門の不況入りに合わせるように拡大に転じており、住宅部門の失速を一部埋めてきた。

  ただし、住宅部門が落ち込めば、ショッピングセンターなど商業施設の建設需要はタイムラグを伴って減速してくる。商務省が発表した9月の建設支出は住宅・非住宅部門を合わせた民間全体で、前月比マイナス0.7%に落ち込んだ。下支えしたのは政府部門だった。これは雇用統計に表れた政府部門の拡大と軌を一にする。連邦政府・州政府とも好調な税収を背景に支出を拡大している。

  州政府は過去数年にわたる住宅市場の活況を背景に、建設許可書の発行などに伴う手数料収入もうなぎのぼり。さらに住宅価格の高騰で固定資産税が絶好調だ。しかも固定資産税は住宅フロス期で価格がピークをつけたときに査定され、今後数年にわたり段階的に引き上げられる。家計は今後、住宅価格が下落する中で、固定資産税の引き上げに見舞われることになる。州政府の税収は潤うものの、実体経済にとってはマイナスだ。「住宅市場は最悪期を脱した可能性はある」(グリーンスパン前FRB議長)ものの、こうした副作用がこれから本格化してくる恐れもある。

          「リスク管理」に甘さも

  一方、市場参加者の間では、失業率が10月に4.4%と、今回の景気拡大局面で最低水準に低下してきたため、なお利上げが不十分との見方も台頭してきた。8月8日のFOMCは2年間に及ぶ連続利上げをいったん中止した。FOMC議事録によると、その決定は「きわどい」ものだった。バーナンキ議長は会合に先立つ7月の議会証言で、リスクはインフレの高進にあると明言。その上で、「グリーンスパン議長の主唱したリスク管理政策を実行に移す」と宣言していた。

  グリーンスパン前議長はリスク管理政策について、「金融政策が効果を表すまでに非常に長い時間がかかる。したがって、将来の経済予測に基づいて政策を実行しなければならない。しかし、将来の予想は非常に不安定である。金融政策は予測が正しかった場合に現れる効果が、予測を間違えた場合のリスクを十二分に上回る必要がある」と説明していた。

  バーナンキ議長は8月のFOMCで、利上げを見送っても、景気の減速により、長い時間をかけてインフレ率が低下するというシナリオにかけたわけだ。しかし、住宅市場は調整を深めたものの、他の部門は好調で、失業率も10月に4.4%と、FOMC予測を大幅に下回ってきた。FOMCメンバーは失業率が5%を割るころから、労働市場の逼迫を警戒し始めており、4.4%は想定外だろう。

  失業率の低下で見る限り、バーナンキ議長が主導した8月以降の利上げ見送りは、甘い「リスク管理政策」の結果といえるかもしれない。バーナンキ議長らFOMCメンバーが口をそろえるように、「住宅市場の調整は他の部門に波及しない」という予測に立脚すれば、最大のリスクであるインフレを抑制するため、追加利上げが必要ということになる。

  マーケットは来年1月の利上げを織り込み始めており、FOMCとしては 12月は引き続き金利を据え置き、経済データを吟味する時間的な余裕がある。今週の注目点は、先週上振れした失業保険申請件数の帰趨だ。その先に失業率のトレンドが見えてくるだろう。住宅不況の波及効果を見る上では、クリスマス商戦の結果、さらに利下げ圏に接近してきたISM製造業景況感指数の行方も注目される。

          「不十分な」経済統計

  FOMCメンバーは金融政策の行方について、「データ次第」と口を揃えており、マーケットは経済統計に一喜一憂する状況が続きそうだ。ただし、経済統計は、フィッシャー・ダラス連銀総裁が指摘するように「不十分」なものであり、特に景気転換点の金融政策運営には困難を伴う。

  バーナンキ議長が「リスク管理」を唱えながら、8月、9月、10月のFOMCで利上げを見送ったのは、「データ次第」の金融政策に問題があったのかもしれない。労働省が9月1日に発表した8月の非農業部門雇用者数の速報値は12 万8000人の増加と、ほぼ潜在成長率並みだった。しかし、今月3日発表された改定値ではこれが一挙に23万人の増加に上方修正されてしまった。

  同様に9月の非農業部門の雇用者数も速報の5万1000人増から、14万 8000人増に上方修正。統計が描き出す世界は様変わりしてしまった。「FOMCの見えざる手」が統計次第で動いていたのでは、変調をきたしかねない。