11/2 ブルームバーグ コラム
【経済コラム】ヘッジファンドが放つリスクの行く末-M・ギルバート
11月2日(ブルームバーグ):投資家にプラス15%、20%、いや25%のリターン(投資収益率)を約束し、資金を集め、そこから手数料2%を差し引いて、ルーレットの玉を回したヘッジファンドの運用担当者は今、選択を迫られている。
嫌気した投資家が資金を引き揚げることを承知で、今年の少ない利益を死守することに回るか、イチかバチかの選択で、あと2カ月で大胆な賭けをして今年の運用成績を何とか向上させようとするか、そのどちらかだ。
当局からはこのところ、過度に危険な投資行動が見えるとの発言が増えている。イングランド銀行のギーブ副総裁は、10月17日にヘッジファンドのマネジャーを対象にした講演で、「5、6両月に小休止した後、今秋、金融市場で積極的なリスクテーキングが復活している」と指摘。「リスクモデルが昨今の低ボラティリティ(変動性)にあまりにも比重をかけ過ぎている危険性がある」と述べた。
ヘッジファンドの年初来リターンはプラス7.6%と、昨年とほぼ同水準にとどまっている(クレディ・スイス・グループとトレモント・キャピタル・マネジメント調べ)。2004年と03年のそれぞれ9.6%と15.4%から低下した。
これではヘッジファンドに資金を託そうという気が失せる。6カ月物のドル預金をすれば5.3%稼げ、先進各国の1915銘柄で構成するモルガン・スタンレーの世界株式指数は年初来で13%上昇した。
大規模化が成功阻む?
リターン不足の一つの原因は、それぞれのヘッジファンドが大きくなり過ぎ、業界全体も1兆3000億ドルと肥大し、利益を上げられる投資機会が減少したためかもしれない。同業界に今年1-6月期に新規流入した資金は660億ドル、7-9月期は445億ドルで、年初来では1100億ドルを超えた。昨年の470 億ドルや、2002年に記録した過去最高の994億ドルを上回ってしまった。
その一方で、新規設立されたヘッジファンドは今年1-6月期に549本と、前年同期の1211本を54%下回った(ヘッジファンド・リサーチ調べ)。
債券ファンド最大手、米パシフィック・インベストメント・マネジメント(PIMCO)の投資責任者ビル・グロス氏は、7%以下のリターンでは年金基金などが将来の支払いに備えるには不十分だと指摘する。伝統的な株式や債券投資でリスクを取るいわゆるベータのリターンが低下すると、証券や資産構成を変えることで得難い投資妙味を付け加えようとするいわゆるアルファに資金が向かうことになる。
グロス氏は今週のリポートで、投資家らはリターン低下への対応で、「『市場実績』を上回ろうと、ヘッジファンド、投機会社、てこを利かせたリスク商品に貯金を回したり、資産を再配分する」決定をしたと記している。さらに、「ベータではリターンが将来不十分になるとの見方がより多くのリスクを求める積極性につながり、これがリスク資産の価格を高め、リスクプレミアムを低下させ、それがどこかの時点で(現在のように)、アルファのリターン低下を引き起こす」と指摘した。
どこを見回しても、金融市場のボラティリティは低下しており、利益を稼げるチャンスは減っている。シカゴ・オプション取引所のボラティリティ指数は約11と、昨年の平均の13、04年の15.5、03年の22、02年の27から下がっている。外国為替市場でもユーロの対ドル相場の取引幅は年初来で12米セントと、昨年の21セントよりも狭い。メリルリンチによれば、円の対ドルでの3カ月物ボラティリティは10月に、10年ぶり低水準の6.82%を付けた。
リスクは放たれる
結局のところ、誰もが同じような取引に殺到する結果、値動きがなくなるのか、世界的な資金のだぶつきがボラティリティ低下につながり投資家の群集心理を高めるのか、因果連鎖がどうあろうと関係ないようだ。たどりつくのは貧弱なリターンと、危ないと言いながらもリスク行動に走ってしまう結果だ。
ICAPの株式調査責任者(ロンドン在勤)、クリス・ティンカー氏は、「ファンド・オブ・ファンズの投資家が手数料構造の説明が付く高いリターンを求めるため、ヘッジファンドはもう一度だけ勝負に出る誘惑にかられる」と指摘。「状況は一層やっかいになりそうだ」と語った。(マーク・ギルバート)
(マーク・・ギルバート氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)