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携帯電話のナンバーポータビリティ制度、ソフトバンクに不利か

携帯電話の番号を変えずに携帯電話会社を変更できるナンバーポータビリティ(番号継続、MNP)制度が24日から始まる。株式市場ではMNP制度導入によるNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル(ソフトバンク)のシェア動向を注視している。今回はクレディ・スイス証券の早川仁ディレクターにMNPの影響について聞いた。


――MNP導入による携帯電話各社への影響をどのように予測していますか。


 KDDIの今期の利用者数は300万人弱の純増、ツーカーからの移行を含めると400万人の純増になると予想しているのに対し、NTTドコモは170万人弱の純増と、KDDIの利用者の増加数がドコモを上回ると思います。一方。ソフトバンクモバイルは100万人の純減と、「ソフトバンク1人負け」という構図を想定しています。


 ドコモがMNPによる影響をそれほど受けないと考える理由は、「ファミリー割引」の浸透でユーザーが他社に移行しにくくなっていることがあげられます。また、MNPで動く層というのは現在使っている携帯会社に対して不満を持っている層です。旧ボーダフォン(ソフトバンク)のユーザーは積年のフラストレーションによる反動で他社に動くと考えられますが、ドコモのユーザーはKDDIに変更したいと思ったとしても、切り替えに伴う手数料やお店に出向くなどの負担をしてまで移り変わるのは一握りだと思います。


 現在の携帯電話のシェアはドコモが56%、KDDI(auとツーカー含む)が28%、ソフトバンクが17%ですが、当社の予想では2010年にはKDDIが30%程度に拡大し、ドコモが54%前後までにしか減らないと考えているため、ソフトバンクはかなり厳しいと思います。


――そのほかにドコモがMNPの影響をそれほど受けないと考える点は。


 販促費や広告費などに投下できる営業費用、料金割引に耐えられる体力など、冷静に考えればドコモの優位は揺らがないと思います。資金はあまりないが、ユーザーからの支持を得ているKDDIや、手元資金の薄いソフトバンクがユニークなサービスを投入したとしても、ドコモは本気で対抗することができます。


 ドコモはKDDIとの商品力の差は縮めつつあります。先日発表した端末「903i」シリーズは商品としての競争力があります。すでに「着うたフル」にも対応しており、KDDIにできてドコモができないことはほとんど残っていません。逆に、大容量のアプリやゲーム、非接触ICチップ「フェリカ」を搭載し、電子マネーや携帯クレジットを利用できる端末など、ドコモの端末にできてKDDIにできないことが増えています。これまではKDDIの第3世代規格「CDMA2000 1X」が独走していたのですが、ドコモが採用する「W-CDMA」との差が縮まり、今ではW-CDMAの技術のほうが先行しているのではないでしょうか。また2社の商品力にそれほど差がないとするならば、日本人の消費行動を考えた場合、周りの人間がどこの携帯会社を使っているかに左右される面が大きいという要素もあります。


――KDDIとドコモの今後の端末を巡る競争はどうなるのでしょうか。


 ドコモはこれから903iシリーズを出し、700系の新機種も出し、海外の機種も出てくるとラインナップは20機種以上とKDDIを圧倒するので、むしろKDDIは今後厳しくなる恐れすらあります。携帯端末の進化のスピードもKDDIはそろそろ天井を打ち落ちつつある一方で、W-CDMAの進化はこれからはじまります。ドコモは「HSDPA」や「HSUPA」といった3.5世代、さらに3.9世代など次世代携帯の技術を熟成させようと明確に宣言しますが、KDDIはそれらに相当する技術を果たして本気でやるつもりなのか現段階では見えていません。


――ソフトバンクが発表した携帯端末や価格戦略をどう見ていますか。


 料金政策が2転3転しており、販売代理店やユーザーを混乱させています。同じ端末を長期間使い続けると割安になる新しい料金プラン「スーパーボーナス」を打ち出したのですが、実はこのことをプレスリリースという形で正式に発表していません。新プラン導入に伴い、旧プラン「ハッピーボーナス」と年間割引の受け付けを停止するとことについても正式発表していません。さらに旧プランや年間割引は引き続き受け付け可能になったのですが、これも正式に発表していません。


 このような料金政策の度重なる変更をMNP導入前にするのは得策ではないほか、「スーパーボーナス」への移行ユーザーを増やすことで、ソフトバンクから販売代理店に支払うインセンティブ(販売奨励金)を削減しなければならないほど経営が苦しい現状がにじみ出ていると思います。


――ドコモ、KDDI、ソフトバンクの投資判断は。


 ドコモとKDDIは「中立」、ソフトバンクは「売り」です。KDDIはMNPの影響で「買い」推奨だったのですが、すでに株価に織り込まれているので、これから買い増す理由もありません。ドコモは携帯会社の中では評価できるものの、MNPの影響が不透明な点を投資判断に反映させています。


 ドコモの1人あたり利用料金(ARPU)は7000円弱ですが、これがどんどん伸びるというのも考えにくく、むしろ高齢層や低年齢層の加入増でARPUも希薄化するのではないでしょうか。少子高齢化でマーケットが拡大する見通しがないほか、法人需要もボリュームとしては大きくはないなど、今後の利益成長は見込みにくいです。ドコモは安定収益に対しての配当利回りに注目したディフェンシブ銘柄として評価される可能性もありますが、株価が20万円弱まで戻してきている現状ではあえて買い増す理由もありません。現在通信株で「買い」推奨しているのは固定電話事業を展開しているNTTだけです。


――固定電話事業のNTTを「買い」とした理由をもう少し詳しく説明してください。


  今後期待できるのは携帯電話事業ではなく、競合相手がいない固定電話事業です。光ファイバーは顧客が他の通信会社に乗り換えるかというとそれほどは乗り換えないと思うので、顧客の流動性はかなり低いでしょう。光ファイバー普及による顧客増で、NTT東日本は早ければ来年にも、NTT西日本はもう少し時間がかかりますが増収に転じる可能性があるほか、人件費など固定費負担が軽減することで、NTTの固定電話事業の収益性は拡大する余地があります。NTTは成長株として見直していいかもしれません。


――NTTに対して、KDDIの固定電話事業の今後の見通しは。


 KDDIは東京電力から光ファイバー事業を買収しましたが、サービスエリアが関東地方に限定されるほか、赤字拡大が懸念されます。現状の赤字額に加えて販促費を伸ばした場合、1000億円程度の営業損失要因となり、たとえ携帯電話事業で数百億円利益を伸ばしても、固定電話事業を積極化すれば利益が縮小する可能性があります。また携帯電話では今後2Ghz帯への投資本格化も控えていますので、MNPは当面追い風にはなるのですが、ここからの株の買いには懐疑的です。


早川仁(はやかわ・ひとし)
クレディ・スイス証券ディレクター



(聞き手はマネー&マーケット 浅沼直樹)


=取材日10月18日