10/27 ブルームバーグ コラム
NECエレ:低迷が長期化、強い製品が不足-狂った回復へのシナリオ
10月27日(ブルームバーグ):半導体専業メーカー、NECエレクトロニクスの業績不振が長期化している。営業赤字は2006年度第2四半期(7-9月)までに6四半期連続の赤字で、通期予想も下方修正して70億円の営業赤字が残る。「何とか今期は黒字転換したい」(中島俊雄社長)との思惑とは裏腹に、収益改善のペースは明らかに鈍化、回復に向けて描いたシナリオが狂い始めた。
下方修正の主因は、①下期のデジタル家電需要予測の下振れ②大口案件の携帯電話向け半導体出荷ずれ込み③予定外の研究開発費用増――という3つの誤算が生じたためだ。新製品の相次ぐ投入で研究開発費は期初計画の1200億円から1280億円に膨らんだ。
このため、25日に予定していた中期経営計画の発表を中止。中島社長は従来、「08年度に売上高営業利益率8%を目指したい」としていたが、下方修正を受けて戦略の見直しを余儀なくされた。会見では「回復のペースが遅れているのは事実だが、手ごたえは感じている。まずは下期の業績回復に全力投球する」と繰り返すのが精一杯だった。
進まないビジネスモデル転換
見通しの甘さから下方修正を繰り返してきた背景には、ビジネスモデルの転換がうまく進んでいないという根本的な問題がある。同社はシステムLSI(大規模集積回路)専業メーカーとして、少量多品種で開発・生産コストのかさむカスタムチップのウエイトを減らし、大量少品種で利益の出やすい汎用的な標準チップの事業拡大を目指しているが、収益には結びついていない。
デジタル家電など製品の高機能を支えるLSIは、CPU(中央演算処理装置)、メモリー、ソフトウエアなどをシステム化し1チップ上に集積した「SoC(システム・オン・チップ)」とも呼ばれる。SoCを必要とするのは、高機能化、高速化が進むパソコン、携帯電話、デジタル家電など。ただ、携帯電話や薄型テレビなどは頻繁なモデルチェンジで製品寿命が短く、SoCの開発負担は年々重くなっている。
負担軽減のため、世界の多くの半導体メーカーは、顧客や製品ごとにいちいちオーダーメード的にチップを生産する「ASIC(特定用途向け半導体)」事業よりも、用途別にあらかじめ自社でチップを開発し、マイナーチェンジですぐに出荷できる汎用の高い標準チップ「ASSP(特定用途向け標準半導体)」事業へのシフトを図っている。NECエレも、成功すれば高い利益を期待できるASSP強化の方針を明確にしている1社だ。
しかし現状では、NECエレのASSP事業はまだ十分に育っていない。SoCビジネスに占めるASIC事業とASSP事業の割合は6対4で、ASICのウエイトがまだ高い。この構造は、富士通の半導体事業もまったく同じ。1980年代は世界的にもASICの市場が主流だったが、1990年代後半以降は開発コストの問題や、プログラミングで書き換え可能なFPGAなどに侵食され、市場は縮小。需要が萎むなか、NECエレは従来型のASIC主体のビジネスモデルから脱却できていない。
ASICとASSPの最大の違いは、半導体設計の主体者。ASICは最終製品メーカーが設計し、半導体メーカーはその設計仕様に基づき生産するという役割分担のビジネスモデルで、かつては一般的だった。反対に、ASSPは半導体メーカーが最終製品メーカーの意向を受けて自前で設計するビジネスモデル。近年は、製品の市場投入をスピードアップしたい最終製品メーカーが、半導体の設計を半導体メーカーに任せるケースが増えており、ASICは相対的に減少傾向にある。
半導体の設計に手が回らなくなった最終製品メーカーに対し、すぐに使える汎用性の高いASSPを売り込むことに成功すれば、半導体メーカーは高い利益を上げられる。世界に通用するデファクト(事実上の世界標準)のASSPがあれば、1種類の製品で数千万個-数億個を販売し高いシェアを獲得できるビジネス。携帯電話向けのデジタル・シグナル・プロセッサ(DSP)で世界トップシェアを誇る米テキサス・インスツルメンツがその代表格だ。
問われる選択と集中の意志
05年度は357億円の営業赤字に転落したが、06年度は50億円の黒字転換を公約。業績不振に陥った最大の原因は受注減にあるとみた中島社長は「受注回復が先決」と強調。販売代理店との関係再構築や、設計者と営業技術者の大幅な再配置などに取り組んできた。注力分野では大型の新製品を続々と投入。これらの施策を通じ、「受注増・工場の稼働率改善・出荷数量と売り上げ増」という3つの段階を経て収益改善に道筋をつけるはずだった。
新製品の投入はあらゆる分野に及んだ。ソニーの液晶テレビや東芝のハードディスク装置(HDD)レコーダーなどにも採用されたデジタル家電用システムLSI『EMMA』シリーズ、任天堂の新型家庭用ゲーム機『Wii』向けDRAM(記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー)混載LSI、携帯電話向け新ブランド『Medity』シリーズの投入――など枚挙に暇がない。マイコンではフラッシュメモリー(電気的に一括消却・再書き込み可能なメモリー)内臓型の品揃えを大幅に拡充し、家電、産業機器、自動車向けなどに幅広く展開する計画も打ち出した。
ただ、当然のことながら、これに比例して開発コストは増える。中島社長は「甘んじて費用の投入を認めている」と、将来の売り上げとシェアを確保するため先行投資を優先する考え。しかし、収益予想に狂いが生じるほどコストコントロールに余裕がない現状で、多品種の製品開発に取り組むのはリソースの分散を招く。同社長も「これをやっている限り、一向に利益は出ない」と認めるとおり、開発対象を絞りきれずピュアプレイヤーにスピードで負けているのは事実だ。
中島社長は「SoCの収益が弱いのは、当社が後発組でトップメーカーとの差がまだ大きいため」と言う。ただ、工場の稼働率が90%を超える高水準にありながら利益が出ないのは、マイコンなどが稼ぐ利益をSoCの赤字が食いつぶしているからだ。SoC事業単独でも利益を出すには、デファクトを握る強い製品群の育成が急務。「注力分野以外はもっとスリム化する必要がある。選択と集中は必要」としているが、経営資源の配分において、まさに「選択と集中」の強い意志が問われている。
ゴールドマン・サックス証券の松橋郁夫アナリストは「体質改善が進んでいないのは、結局はマネジメント(経営陣)の問題。戦略的志向で注力分野を決めるべきなのに、顧客を選別できていない。製品ポートフォリオを見直すべき」と指摘する。東芝の半導体事業部出身で、開発・設計専業メーカーのザインエレクトロニクス社長の飯塚哲哉氏も「(NECエレに限らず)日本の総合半導体メーカーの弱点は、過当競争で勝つためにどの分野で世界的な地位を確保するかストーリーがはっきりしないこと」とみている。
NECエレクトロニクスの27日終値は前日比30円(0.8%)安の3760円。