10/23 ブルームバーグ 記事
ソフバンク:「無料」で携帯顧客囲い込み-MNP前夜に「奇襲」(4)
10月23日(ブルームバーグ):国内携帯電話事業3位、ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン日本法人)の孫正義社長は23日夕、東京都内で記者会見し、 26日に通話料や短いメールの交換料金を最大で無料とする新料金体系を導入すると発表した。ただ、2年以内に解約すれば端末コストの残額支払いを強制されるため一度に数万円の支払いが必要になる場合もあり、「無料」を誘い水に顧客を囲い込み、収益安定も図るのが狙いと言える。
携帯電話業界では24日に、契約先を変えても番号を持ち運べる番号継続制度(MNP)が導入される。孫社長は今年4月の携帯電話参入の後、低価格戦略の導入に否定的な姿勢を示し続けてきた。しかし、まさにMNP導入前夜の土壇場で「携帯市場をゼロからリセットしたい」として、戦略を一転させた。
MNP前日に当たる23日、KDDIやNTTドコモは前夜祭イベントを開催。同夕から行われた都内の巨大イルミネーション点灯式に参加した中村維夫ドコモ社長は、値下げの有無について「まずは現在の体制でやっていく。特に新しいことを考えているわけではない」と述べていた。
一方、KDDIの小野寺正社長は今月20日の中間決算発表で「当社から料金競争を仕掛けるつもりはない」ことを改めて強調。しかし「他社が仕掛けてくれば対応する」とも述べていた。こうした中で孫社長が「奇襲」の形で価格競争を表明したことで、料金面で無風に近かった携帯電話業界に、嵐が吹く可能性も出てきた。
やはり「大人」になれず
26日に導入する料金体系の目玉は「予想外割」というサービス。ソフトバンクの携帯電話同士であれば、深夜を除き通話料を無料とするほか、250文字以内のショートメールのやり取りも無料となる。また、来年1月15日までに加入すれば、月額の基本使用料を70%カットし、2880円とする。
孫社長は予想外割の料金面での魅力を最大限アピールするとともに、ソフトバンクモバイルの新規加入者の「8割以上が選ぶと考えている」と語った。
さらに、「価格競争を本気で戦い抜く」と言明。具体的にはNTTドコモやKDDIの割引サービスよりもさらに200円、月額料金を割り引く戦略を明らかにしたうえで、この2社が対抗して値下げに踏み切れば「24時間以内にさらなる値下げを打ち出す」と、機動的に徹底抗戦する姿勢を示した。
また、これまで「大人のソフトバンク」として価格競争を回避する発言をしていたにもかかわらず、MNP導入前夜の土壇場で撤回したことについて「『大人』とは言ったが、料金を下げないとは言っていない。大人になれなかったと言っても良いかもしれない」と語った。
見えにくい代償
ただ、半面で、ユーザーに「無料」の代償を強いるのも事実だ。ソフトバンクは9月1日、それまでの業界常識に挑戦する形で、端末販売の手法を変える実験に乗り出していた。携帯電話会社は、第3世代への移行で端末コストが急上昇して以降は特に、販売店に「販売奨励金」を支給して店頭価格を下げることで、普及拡大を図ってきた。
ソフトバンクモバイルは4-6月期実績で、端末1台当たり4万4400円の奨励金を支払っている。この奨励金は、利用者が購入した後、月額の通話料に上乗せして1-2年で回収するのが業界のルールだった。
ただ、同社が9月から導入したこの「スーパーボーナス」制度では、契約後2年間が経過し、奨励金の回収が終わる前に利用者が解約すれば、残額を一括して支払うよう強制できる。そして今回、ソフトバンクが導入する「無料」サービスを契約する前提として、スーパーボーナスが「基本的に」(孫社長)必要となる結果、ソフトバンクは奨励金を確実に回収できることになる。
借金返済は「十分できる」
ソフトバンクは日本企業による初の本格的LBO(買収相手先の資産を担保とした借り入れによる企業買収)案件として、同法人の買収に総額1兆8000億円を投じた。その大部分に当たるブリッジローン1兆2800億円については、最長 13年への繰り延べを進め、今月20日に金融機関から借り換えのコミットメントを得たばかり。11月末には借り換えを実施する見込みだ。
返済の原資にはソフトバンクモバイルが稼ぎ出すEBITDA(償却前利益)を充てる方針。06年3月期のEBITDA実績は3009億円だった。
孫社長は会見で、今回の低価格戦略により返済に懸念は生じないかとの質問に対し「借り入れの元利返済は十分可能と考えている」と強調。新料金体系は「資金繰りも回る前提でシミュレートした」と語った。
ADSLでの悪夢
ただ、料金競争では苦い前例もある。ソフトバンクの低価格イメージが強まったのは、2001年9月に開始したADSL(非対称デジタル加入者線)サービスがきっかけ。孫社長は月額2280円という、当時では相場の約半額の料金を打ち出し、高速インターネット接続の世界に価格破壊をもたらした。
ADSL事業では料金の格安さに加え、無償での接続機器配布なども話題となった。しかし、工事の遅れや説明不足などもあって苦情が殺到し、当初はうたい文句通りに顧客を確保できなかったのも事実だ。
説明不足による混乱の懸念も
携帯電話の販売奨励金の仕組みは、市場拡大のために考え出された日本独自の制度で、一般の利用者にはほとんど知られていない。このため、「無料」の利点ばかりが強調されると、説明不足によるトラブルを招く懸念もある。
この点に関連してクレディ・スイス証券の早川仁アナリストは、ソフトバンクの「スーパーボーナス」導入を受けた9月5日のリポートで「今までは販売時に費用化されていた販売奨励金が24カ月にわたる繰り延べ払いに変化する」ため、ソフトバンクの財務には好影響だと指摘。ただ、仕組みが複雑で顧客への説明が難しく、販売の現場で混乱が生じる可能性も示唆していた。
早川氏は続く今月18日に「迷走するソフトバンクモバイルの料金政策」と題するリポートを出し、実際にその後、店頭では長期割引の扱いなどをめぐる混乱が発生したと指摘していた。
ソフトバンクの23日株価は、午後2時過ぎに孫社長会見の報が伝わり、急伸していた。終値は前週末比90円(3.5%)高の2685円。
携帯競争、サービスで激化も価格は無風、寡占構図は不変-MNP導入へ(2)
10月23日(ブルームバーグ):契約先の携帯電話会社を変えても番号を持ち運べる番号継続制度(MNP)が、24日に導入される。利用者が契約先を変えやすくなることで、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル(旧ボーダフォン日本法人)の大手3社は、既存顧客の囲い込みと他社の顧客争奪に向け、端末の機能やサービスで競う。
ただ、料金面では、今年4月末の旧ボーダフォン日本法人買収で参入したソフトバンクが買収規模の巨額さゆえに、低価格戦略を採らなかった。「消耗戦は避けたい」(中村維夫ドコモ社長)、「低価格化で市場規模が縮小したら無意味」(小野寺正KDDI社長)といった発言もあるように、各社とも値引き競争回避の願望がありあり。その点、今回のMNP導入によっても、大手3社による寡占で収益を維持する構図に、大きな変化はなさそうだ。
電気通信事業者協会の統計によると、9月末現在の国内携帯電話の全契約数は9381万件。シェアはドコモ55.5%、KDDI28.1%、ソフトバンクモバイル 16.3%。普及一巡で新規開拓余地が限られる中、このシェア構成がどこまで変わるか注目されるが、事前予想では音楽配信機能や企業顧客開拓などで先を行くKDDIが優勢との見方が根強い。
「競争を」
「皆さんは何のためにここにいるのか。制度を導入する前提で考えていただきたい」-。通信政策の実質的な切り盛り役である総務省の有冨寛一郎・総合通信基盤局長(当時)は、居並ぶ携帯電話各社の代表に強い口調で告げ、席を立った。同省内で2003年12月16日に開催された「携帯電話の番号ポータビリティの在り方に関する研究会」の第3回会合でのことだ。業界はMNP導入に消極的だったが、同局長の予定外の一喝で議論の流れは逆転、導入は決定的になった。
研究会は同年11月から開かれていたが、携帯各社は、欧州などすでに制度が導入されていた海外では、シェアが変動した例は少なく、当時試算されていた導入コスト900億-1500億円は高すぎると主張。「MNPで携帯のメールアドレスなどは移行できない。通話よりもメールの使用の方が多い現状で、意義は薄い」(小野寺正KDDI社長)との声も出ていた。
第3回会合の数日後、シェアが変わらないならMNPの導入はコストに見合わない、という業界の理屈を退けた理由について、有冨氏はこう語った。「競争の結果、シェアが変わらないこともある。目的は、携帯各社に市場で競争をしてほしいということだ」。
背景には変化の兆し
確かに当時は、固定通信業界でインターネット技術浸透に伴う低価格化や新規参入が進んでいたのに対し、携帯電話業界はほぼ無風状態。大手3社はグループ内や社内の別部門として固定通信部門を抱えているとあって、利用者から徴収した通信料を、本体ないしは親会社の連結業績を支えるため活用してきた。
ただ、それまで国際的に孤立した規格の第2世代携帯と違い、01年開始の第3世代では日欧方式、KDDIは米国発の規格を採用。また、英ボーダフォンは子会社の旧J-フォンを03年10月に「ボーダフォン」に改称させていた。総務省がMNP導入を強硬に進めた背景には、こうした変化の兆しがあった。
サービスでは火花
「他社にあるサービスは全て搭載した。とことんやった」-。12日の端末発表会で、ドコモの携帯電話戦略の実質的な責任者である夏野剛・執行役員は、新シリーズ携帯をこう自己評価した。これは、市場流動化に背中を押されて携帯各社が顧客争奪戦に走り、総務省の狙いが半ば達成されたことを象徴する言葉だ。
MNPでは各社とも導入にタイミングを合わせ、先進機能を可能な限りそろえてきた。KDDIは持ち味の音楽配信をさらに強化し、再生音質の向上を徹底。一時取りざたされた、米アップルコンピュータの携帯音楽プレーヤー「iPod」機能の携帯電話搭載が間に合わなかったソフトバンクは、音楽配信よりもグループ企業ヤフーとの連携を通じ、インターネット機能を強化した。
これに対しドコモは、最大手としての端末調達力をフルに発揮。対KDDIでは定額制の音楽配信サービスを導入した。また、ソフトバンクが「国内最薄」とアピールしていた機種よりもさらに薄い、折りたたみ式で厚さ12ミリ以下の機種の試作品を披露した。
端末の機種数も興味深い。8月に発表のKDDIが12機種、9月に発表したソフトバンクモバイルが13機種、そしてドコモが14機種と、面白いように増えた。ただ、これはあくまで発表分で、ソフトバンクは近い将来さらに2機種、ドコモは6機種以上を追加し、過去最多のラインナップをそろえる。
料金は「横並び」のまま
ただ、先進機種・サービスの派手さとはうらはらに、料金面での競争は市場や業界での予測からはずれたと言っていい。ソフトバンクがそれを決定づけた。同社はMNP導入が決定した04年春以降、新規参入としての携帯電話事業展開を計画。かつてADSL(非対称デジタル加入者線)事業で価格破壊をもたらした孫正義社長は事業免許取得に向け「業界は大手3社の寡占状態だが、当社の参入で安くなるし、サービスも進化する」と繰り返し強調していた。
しかし、06年に入りソフトバンク自体が、それまで批判していた「寡占」の一角を担うことが決まると、戦略を転換する。実際に孫社長は9月28日の端末発表会でも、値下げ実現の可能性について「大きな借金をしているので、大人のソフトバンクとしてバランスを取って経営を進める」と語り、踏み切らない方針を繰り返した。
背景には「金を借りる手法で携帯に参入した」(三菱UFJ証券の佐分博信アナリスト)事情がある。ボーダフォン日本法人買収でソフトバンクは、日本企業による初の本格的LBO(買収相手先の資産を担保とした借り入れによる企業買収)案件として、総額1兆8000億円の巨費を投じており、値下げで携帯事業の収益が落ちれば、借金返済は難しくなるからだ。
企業側には「良いこと」
ソフトバンクが同法人を買収した際、他社は「何をしてくるか分からないので、準備だけはしておく」(中村ドコモ社長)などと、警戒感を示していた。しかし、孫社長の戦略転換が明確になると、こうした声は静まった。関連して三菱UFJの佐分氏も「競争がサービスだけにとどまり、料金面に波及しないのは、各社の利益を考えれば良いことだ。ユーザーからすれば別だが」と語る。
野村証券の増野大作アナリストも、19日発表したリポートで、最も優勢とみられているKDDIが「料金を値下げして市場シェアを拡大するとの懸念を抱く必要はない」との見方を示した。
MNPで契約先を変える場合の手数料も、大手3社の横並びを象徴している。従来の手数料体系が違うため、利用者はドコモから他の2社に契約を変える場合に限り、315円だけ安くなる。しかし、MNP自体でかかる追加手数料は解約時で税込み2100円、転入時は無料、と全く同じだ。
ただ、この見方には反論もある。小野寺社長は20日の中間決算発表で、MNP実施が決まって以降、顧客確保のために「各社がいろいろな割引サービスを導入してきている」と指摘。これも一種の「料金競争」だと強調した。
秩序に挑戦
ただ、ソフトバンクが「台風の目」で無くなったわけではない。まずは端末の売り方。販売店に3社が支給している補助金である「販売奨励金」制度について、9月1日から新手の商法を始めた。MNP導入をにらんで顧客をつなぎとめ、安定収益を確保するのが目的。低価格競争とは逆の路線だが、業界内秩序に挑戦したことに変わりはない。
奨励金は日本独特の制度。端末1台当たりの支給額は、06年4-6月期平均でソフトバンクが4万4400円、KDDI3万8000円、ドコモは非公表。この額だけ、調達価格よりも安い値段で、店頭に端末が並ぶ。ユーザーが「低価格」につられて端末を買い、事業者は奨励金を分割して月々の通信料に上乗せし、1-2年かけて回収する。
この仕組みは、端末の販売を促進する意味で、携帯市場の急拡大に寄与してきた。しかし、高機能化による端末原価の増大で補助額自体も増えたことや、もともとは不透明な制度だけに、業界では見直し論が強い。総務省も存廃について、来夏までに結論を出す方針。
工夫が裏目の可能性も
ソフトバンクの新契約形態「スーパーボーナス」は、ひと言で言えば奨励金回収のヘッジ。新端末を買ったユーザーが2年以内、つまり奨励金を回収し終わる前に解約した場合は、端末コストの残額全てを徴収できる。呼び水として9月 13日には、対象機種と小型のiPodとの抱き合わせ販売も始めた。
クレディ・スイス証券の早川仁アナリストは9月5日のリポートで「今までは販売時に費用化されていた販売奨励金が24カ月にわたる繰り延べ払いに変化する」ため、ソフトバンクの財務には好影響だと指摘。ただ、仕組みが複雑で顧客への説明が難しく、販売の現場で混乱が生じる可能性も示唆していた。
実際にその後、店頭では長期割引の扱いなどをめぐる混乱が発生。早川氏も今月18日、「迷走するソフトバンクモバイルの料金政策」とのリポートを出した。小野寺KDDI社長も20日の会見で「販売チャネルが大きく変わらないのにビジネスモデルなどを変えたら、販売店に大きな影響を与える」と指摘。「販売店もわれわれのパートナーであり、お互いにウィン・ウィンの関係で無ければ」と皮肉った。
「つながりにくさ」を克服
また、中村ドコモ社長が9月28日の会見で、MNPで勝ち残る最大のポイントを問われ「まず、ネットワークがつながらないと話にならない」と指摘したように、各社にとっては通信網の整備も急務だ。
ドコモは01年秋に第3世代サービスを開始したが、当初は通信性能の悪さが問題視され、またソフトバンクモバイルも旧ボーダフォン日本法人時代に第3世代携帯のつながりにくさが最大のネックとなってきた。
KDDIが優勢なのも、第2世代から第3世代への移行の際、他の2社とは別の規格を採用し、基地局と呼ばれる中継設備を新規に敷設し直さずに済んだことが大きい。音楽配信で提供される楽曲データは大容量のため、第3世代への移行で先行すれば、その分有利になるからだ。
通信網改善で奇策
孫ソフトバンク社長もこの点を踏まえ、7月末時点で2万3000だった基地局数を、来年3月末にはドコモの計画より2000カ所多い4万6000へと倍増させるため、07年3月期で5000億円弱を投入する方針を表明、増設の大部分を今年末までに済ませる意向を示していた。一方、ドコモの投資計画は9050億円で、KDDIは3330億円。
しかし、孫社長は9月28日の会見で進ちょく状況を聞かれると「2万5000 程度」と回答。増えたのは2000に過ぎない。ドコモの中村社長が同日の会見で「今年度計画の50%を超えており、予想通り」と述べたのとは対照的だった。
遅れを背景にソフトバンクは10月10日、屋内用中継設備である「ホームアンテナ」を、希望者の求めに応じて無料で設置するサービスを開始。ホームアンテナについては他社も機器販売やレンタルを行っているが、無償にするケースは初めて。ソフトバンクモバイル広報部の伊東史博・課長代理は「20万台の機器を用意しており、来年3月までは受け付けを続ける」としている。
ソフトバンクはADSL事業でも、通信機器であるモデムを無償配布してシェアをトップに押し上げた経験がある。販売奨励金のケースもそうだが、寡占の一角に組み込まれたことで低料金路線には踏み込まなかったものの、こうした奇策がお手のものであるのも確かだ。
ドコモの株価午前終値は、前日比1000円(0.5%)高の18万8000円、KDDIは同5000円(0.6%)安の78万6000円、ソフトバンクは同5円(0.2%)高の2600円。
日本株は続伸、信越化など好業績株高い-銀行や不動産も上昇(終了)
10月23日(ブルームバーグ):週明けの東京株式相場は続伸。小幅反落して始まったが、すぐに上昇に転じ、午後の取引では先物主導で上げ幅を徐々に広げた。日経平均株価は10月16日に付けた6月以降の戻り相場の高値1万6732 円を上抜け、5月11日以来、約5カ月ぶりの高値を更新。TOPIXも9月4日に付けた直近の戻り高値をおよそ1カ月半ぶりに上抜けた。国内企業の好決算期待が高まったほか、原油安を背景にした米景気の軟着陸の可能性も期待された。
午後1時に決算発表した信越化学工業は、朝方から売買を伴って買われ、上場来高値を更新。決算を受けて急速に上げ幅を拡大する場面もあった。主力取引先のトヨタ自動車の生産拡大の恩恵で好決算を発表した豊田通商も高い。米景気への安心感から、トヨタ自動車などの自動車株、三菱電機などの電機株といった輸出関連株も上昇した。
三菱UFJフィナンシャル・グループなどの銀行株も高く、住友不動産や野村不動産ホールディングスが上場来高値を更新するなど、不動産株の上げも目立った。銀行、不動産という内需関連株の両輪が力強い上げを見せた。
日経平均株価の終値は、前週末比137円19銭(0.8%)高の1万6788円82 銭。TOPIXは同15.24ポイント(0.9%)高の1659.39で、この日の高値引け。東証1部の売買高は概算で15億7058万株。
野村証券投資情報部の品田民治課長は、「国内企業の業績期待が高まっている。今週末には米GDP(国内総生産)の発表を控え、相場は景気のソフトランディング(軟着陸)を織り込みつつある。銀行や不動産などの上昇は、米景気の軟着陸で為替相場が円高に振れる可能性を見ている側面もありそうだ」と話していた。
信越化が上方修正、決算後の株価も堅調
この日の取引では、企業業績への期待感が高まった。相場の主役となったのが信越化学だ。午後1時に決算発表予定だったが、好決算期待から朝方から売買を伴って上昇し、上場来高値を更新するほどの人気ぶりとなった。市場では、「HOYAと同様に決算発表後に出尽くしで売られる可能性もあるため、注意が必要だ」(大和証券SMBCエクイティ企画部の高橋和宏部長)との声も聞かれていたが、決算発表後も一時上げ幅を拡大するなど堅調な展開となり、足元の相場の強気心理を象徴した動きとなった。
信越化が午後1時に公表した07年3月通期の連結業績予想修正によると、営業利益は前期比30%増の2410億円になる見通しで、会社側の前回予想(2150 億円)を12%上回る。ブルームバーグ・プロフェッショナルに登録された証券系アナリスト18人による信越化の営業利益予想の平均2320億円だったため、市場予想をも3.9%上回った格好だ。
安倍政権初の補欠選挙は勝利
また、安倍晋三政権が初の国政選挙で勝利を収めたことを受け、買い安心感が広がったとの声も出ていた。大和SMBCの高橋氏は、「今後の政策への期待感から、銀行や不動産などの内需株が買われている」との認識を示唆。菱地所、住友不、三井不動産、野村不Hが相次いで52週高値を更新し、TOPIXの上昇寄与度1位は銀行株だった。
安倍政権発足後初の国政選挙となる衆院神奈川16区と同大阪9区補欠選挙が22日、投開票された。神奈川16区では自民党公認(公明党推薦)の亀井善太郎氏、大阪9区では自民党公認(公明党推薦)の原田憲治氏のいずれも新人がそれぞれ当選し、自民党が2勝した。
WTIは昨年11月来の安値
半面、原油価格の下落が鮮明になっており、国際石油開発帝石ホールディングスなどの鉱業株、新日本石油などの石油製品株は売られた。20日のニューヨーク原油先物相場は大幅反落し、57ドルを割り込んだ。石油輸出国機構(OPEC)が日量120万バレルの減産で合意したが、その実行については懐疑的な見方が広がったためだ。ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物相場 11月限終値は、前日比2.9%安の1バレル=56.82ドル。終値ベースでは昨年11 月29日以来の安値となった。
また、原油安を背景に米景気の軟着陸の可能性が高まるものの、米景気の先行き不安は完璧に払しょくされたわけではない。こうした懸念を象徴したのが、コマツなどの機械株だ。20日の米市場では、キャタピラーが米国の景気減速に伴い、増益率は鈍化するとの見通しを発表。これを受け、コマツのADRは0.9 ドル安の73.50ドルと大幅安となっていた。 ただ市場では、「キャタピラーは住宅市場の減速の影響を受けるが、コマツは中東など新興国向けも多く、一緒に売られなくても良い」(野村証券の品田氏)との声も上がり、朝方付けたこの日の安値2085円を午後は下回ることはなかった。
新興市場は上昇、下方修正のインデックス下げ幅縮める
一方、新興3市場はプラス圏で終了。ジャスダック指数、東証マザーズ指数、大証ヘラクレス指数はいずれも下落して始まったが、上昇に転じ、高値圏で終了した。ジャスダック指数は前日比1%高の90.05、東証マザーズ指数は同2.6%高の1239.76、大証ヘラクレス指数は同3.3%高の2018.57。大証ヘラクレス指数は9月12日以来の2000ポイント台回復となった。
前週末に株式評価損の計上で今期業績を下方修正し、動向が注目されていたインデックスは続落して始まったが、徐々に下げ幅を縮め、前日比変わらずで終了した。新興市場の代表銘柄だけに、個人投資家の投資マインドの低下懸念の後退から、買い安心感が広がったようだ。
市場では、「売らなくてはいけない人は売ってしまったとみている。投資マインドが変わってきているようだ」(東海東京調査センターの矢野正義シニアマーケットアナリスト)との声が聞かれた。
ジャスダック市場では、楽天が一時ストップ高(値幅制限いっぱいの上昇)、MBO(経営陣による企業買収)で株式を非公開にすると発表した神明電機が大幅続伸。また新規出店効果で通期業績を上方修正したほか、増配を発表したきょくとうも大幅続伸した。 半面、既存DVDの設備投資の低下傾向を受け、通期業績を下方修正した精工技研が大幅反落した。
東証マザーズ市場では、アイディーユー、サイバーエージェント、ACCESS、サイバー・コミュニケーションズなどが高い。半面、技術要因を予定通りに確保できなかったことなどで中間期業績を下方修正したエイジアが大幅続落。総合医科学研究所、アドバンスト・メディアなども安い。
大証ヘラクレス市場では、ダヴィンチ・アドバイザーズ、アセット・マネジャーズなどが高い。半面、防雷機器販売などが計画を下回ったことを受け、通期業績を下方修正し、期末配当を無配にしたイメージワンが大幅続落した。エネサーブ、アイ・エム・ジェイなどが売られた。
米オンライン証券の顧客口座が標的-東欧とアジアからハッカー攻撃
10月23日(ブルームバーグ):Eトレード・ファイナンシャルやTDアメリトレード・ホールディングなど米オンライン証券会社の顧客口座が、東欧やアジアからアクセスするコンピューターハッカーの被害を受けている。被害状況が明らかになるにつれ、米証券業界に対する最大規模の犯罪の様相を呈している。
米連邦捜査局(FBI)や米証券取引委員会(SEC)、米ナスダック(店頭株式市場)を管理するNASDは対策に躍起だ。ニューヨークに本社を置くEトレードは、少なくとも1800万ドル(約21億3900万円)の被害を受け、ネブラスカ州オハマのアメリトレードも損失を出しているという。SECが見つけ出した犯罪行為の1例では、ハッカーらが証券会社の顧客資金を使ってほとんど取引されていない株式を買い入れ、株価をつり上げた後、売却して利益を得ていた。
Eトレードのジャレット・リリエン最高業務責任者(COO)は23日までのインタビューで、「犯罪は組織化が進んでおり、今四半期はこれまでになく大きな問題となっている」と説明、「1社だけではなく、皆に打撃を与えている」と述べた。
米国の法律の及ばない海外からインターネットを使った違法行為は今、金融市場を標的としている。米ジャベリン・ストラテジー・アンド・リサーチ(カリフォルニア州プレザントン)によれば、こうした犯罪による全米の被害額は今年566億ドルに達する見込み。ジャベリンは、米連邦取引委員会(FTC)向けに同様の試算をしている。
SECでコンプライアンス(法令順守)検査・調査を担当しているジョン・ウォルシュ氏は今月5日、フェニックスで開催された業界会議で、「犯人を特定することが証券業界の急務となっているが、その一方で犯罪行為は洗練され広がっている」と話した。
東欧とアジア
Eトレードのミッチェル・カプラン最高経営責任者(CEO)は投資家に対し、捜査当局が違法取引をたどると東欧とタイでの組織犯罪につながると認識していることを明らかにした。アメリトレードの広報担当カトリーナ・ベッカー氏は、同社も東欧とアジアを拠点としたコンピューター犯罪に狙われていると語った。
FBIのポール・ブレッソン報道官は「個人および金融のデータを盗み出すインターネット犯罪は依然として重大で世界的な問題だ。あらゆる適用可能な法律に基づき、われわれは海外当局と緊密に協力し捜査を続けている」と言明した。
同報道官は、FBIの具体的な捜査内容についてはコメントを控えた。SECのジョン・ハイネ報道官、NASD広報担当ハーブ・ペロネ氏はコメントを避けた。
カブコム証:7-9月期の利益、横ばいの15億円-個人売買1割減(3)
10月23日(ブルームバーグ):インターネット専業大手のカブドットコム証券が23日に発表した2007年3月期第2四半期(7-9月)決算によると、当期利益は前年同期比ほぼ横ばいの15億円となった。個人投資家の売買は同 10%減少と低調だったものの、Meネット証券との合併効果や金融収支の改善が下支えした。9月中間期の利益は同37%増の35億円だった。
発表によると、7-9月期の1日あたりの個人委託売買代金は9313億円と前年同期に比べて10%落ち込んだ。ただ、主力の受入手数料は合併効果もあって36億円と前年同期並みを確保、金融収益から同費用を差し引いた金融収支も同81%増の11億円と増加した。同社は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のネット証券。ネット大手では最も早い決算発表となる。
東京証券取引所で記者会見した齋藤正勝社長は「相場全体が思ったよりも軟調だった」と振り返った。そのうえで、口座数は順調に伸びているとして「下期以降はMUFGとの連携を目に見える形で出していきたい」と述べ、団塊世代の顧客囲い込みに意欲を示した。
9月中間期では、受入手数料が24%増の80億円と伸びたほか、金融収支も自己資金活用や格付け取得に伴う低金利での調達によって2.1倍の23億円に拡大した。口座数は52万4191口座と1年前に比べて1.8倍に増えた。
カブドットコム証券の23日の株価終値は前週末比5000円(2.3%)高の 22万3000円。
4-6月国内需要デフレーターは下落に-CPI基準改定で内閣府試算
10月23日(ブルームバーグ):内閣府が23日発表した消費者物価指数の基準改定がGDP(国内総生産)統計に与える影響試算によると、2006年4-6月のGDPデフレーターが前年同期比0.3%ほど押し下げられ、実質GDP伸び率は前期比年率で0.2%押し上げられた。2期連続でプラスとなっていた国内需要デフレーターは0.3%ほど押し下げられ、マイナスとなる。
9月11日に公表された4-6月GDP統計・2次速報では、物価変動の影響を除いた実質GDP伸び率が前期比0.2%増、同年率でプラス1.0%成長だった。GDPデフレーターは前年同期比0.8%下落、国内需要デフレーターは同0.1%上昇だった。
内閣府の試算では、GDPデフレーターが前年同期比1.1%下落、国内需要デフレーターが同0.2%下落となる。家計最終消費支出デフレーターは同 0.6%下落と2次速報時の同0.1%下落から大きく下方修正される。デフレーターの大幅下方修正は、新たに採用された薄型テレビ、携帯電話機、携帯電話の通信料などの価格の下落幅が大きかったことが影響したとみられる。
GDP統計は推計の際、消費者物価指数(CPI)の個別品目の価格指数を利用している。同府によると、CPIの基準改定、品目の追加・整理統合により、GDP統計の推計においても新基準CPIを採用する。今回は、2006年4-6月期のみの試算で、遡及改定は11月14日に公表される予定の06年7-9月1次速報とともに発表する。
CPI統計は、指数の基準時・ウエートの参照年次が従来の2000年から 2005年(=100)に改定されたほか、薄型テレビやDVDレコーダーなど情報関連品目を中心とした品目の追加・整理統合が行われた。また、家計の消費構造変化を迅速に反映させるため、毎年ウエートを更新して指数を計算するラスパイレス連鎖基準方式による指数を月次化した。