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10/19 ブルームバーグ コラム

【FRBウオッチ】住宅フロス治療-日柄調整も必要、過度の楽観は禁物

  10月17日(ブルームバーグ):米国の景気見通しに対する市場のマインドは悲観から楽観へと急変した。グリーンスパン前米連邦準備制度理事会(FRB)議長は6日、米国の住宅市場の不振について「最悪期は過ぎたかもしれない」と語ったことが、奇しくも分水嶺になった。

  グリーンスパン前議長はその3日後には、住宅市場について、「おそらく最悪の局面は過ぎ去ったと言えるのではないだろうか。つまり、落ち込みの度合いは劇的に鈍化するだろう」と、さらに踏み込んだ発言をした。バーナンキFRB議長が4日に「住宅市場は目に見える調整期に入っている。住宅投資は今年下期にGDP伸び率を1%押し下げる」と述べたときが、悲観の極みに達していた。

  前議長は潮目の変化を読んで、住宅市場は峠を越したと表明。バーナンキ議長の発言で悲観が行き過ぎることを懸念したのかもしれない。しかし、グリーンスパン前議長は「最悪期は過ぎた」と言ったまでで、反発の時期には触れていない。さらに、「落ち込みが劇的に小さくなる」と述べたもので、調整の程度が軽くなると言ったにすぎない。

             景気は下振れリスク

  そもそもグリーンスパン前議長が命名した住宅フロス(froth)という表現は、前議長得意の婉曲話法である。住宅は相当部分が実需を伴うため、株式のように巨大なバブルにはなりにくいが、実需とともに、値上がり期待の投機も膨らんでおり、実態は限りなくバブルに近い。

  そのフロス消滅のあと、戦後処理に時間を要することはグリーンスパン前議長が最も良く承知している。2000年の情報技術(IT)株式バブル破裂を受け、グリーンスパン議長(当時)は、フェデラルファンド(FF)金利を1年弱の間に 4.75ポイントも引き下げ、リセッション(景気後退)を克服した。

  しかし、その後の回復力は弱く、議長は2回の追加利下げに追い込まれている。景気が本格的な回復局面に転じたのは、リセッション終了からほぼ2年後の 2003年9月のことだった。今回は住宅市場の調整がこれまでのところ、他分野に目立って波及していないため、回復までの道のりは比較的短いと見られる。それでも、投機の行き過ぎに対する調整には在庫や価格とともに、日柄も必要になろう。

  コーンFRB副議長は4日に、「景気のリスクは下振れ。インフレリスクは上振れ。総合するとインフレリスクの方が大きい」と語った。この発言を受けて市場参加者はインフレリスクに傾くと同時に、景気には楽観的になった。しかし、コーン副議長は景気のリスクについて、「下振れ」と見ている。インフレリスクの方が大きいと判断して、引き締めを継続すれば、その分、景気下振れリスクは助長される。

          FOMCの瀬戸際作戦

  コーン副議長はじめFOMCメンバーは特にインフレ期待の跳ね上がりを警戒している。その抑制のために、インフレ警戒態勢を強調。結果的に、瀬戸際作戦を展開することになる。シティグループは6日付の調査リポートで、「FOMCはインフレファイターの仮面をまとい続けるだろう」と書いている。

  同副議長のリスクに関する表現は、実はFOMC声明が2000年から導入したリスクバランスから逸脱している。FOMC声明に掲載されるリスクバランスは当初、「景気の弱さ」、あるいは「インフレ加速」のどちらにリスクが傾いているかを示すものだった。コーン副議長は、景気下振れ、インフレ上振れの2つのリスクがあると指摘しており、現行のFOMCリスクバランス方式では対処できなくなっている。これは物価統計が遅行指標のため、景気が減速する過程で、インフレが加速する事態に直面しているからである。

  このため、景気が減速過程に入っているにもかかわらず、金融引き締めが長期化し、オーバーキルになるリスクを内包している。特に今回のように住宅投資が絡んでいるときは、物価指数が景気動向と大きく乖離する傾向がある。これは、コアインフレ指標の重要な構成要素である家賃が、持ち家の販売動向と逆方向に動くからだ。現在のように住宅販売が減少すると、賃貸物件への需要が高まり、賃貸料が上昇。コアインフレを押し上げることになる。

  さらに、市場マインドが景気楽観に傾きすぎると、市場金利が上昇し、景気に逆効果となりかねない。グリーンスパン前議長は、住宅市場が「最悪期を経過」した根拠の一つとして、住宅ローン申請指数の上昇を挙げたが、その後の市場金利上昇を反映したローン金利の上昇を受けて、再び下落に転じている。住宅ローン申請指数は振れが大きく、週ごとの変化に一喜一憂すべきではないが、本格的な回復までにはなお日数が必要だろう。

         フロスも消滅後の治療が重要

  今回の景気減速局面は、資産市場の膨張と、その急速な収縮過程に起因している。グリーンスパン前議長は99年6月の議会証言で、「バブルは一般的に破裂した後に、それと認識できるものだ。バブルの破裂は決して穏やかなものではないが、その結果は必ずしも災禍的なものにはならない」と述べ、バブルは破裂後の治療に専念することが重要との認識を明らかにしている。

  グリーンスパン前議長は任期中、公式には同様の発言を繰り返しており、FOMCメンバーに基本的に受け継がれているとみられる。この理論に従えば、資産市場の行き過ぎにより生じた住宅フロスも消滅後の治療が重要ということになる。

  しかし、FOMCは現在、タイムラグに基づくインフレ期待の悪化を抑えるため、引き締め政策を継続しており、景気下振れリスクが付きまとう。

  FOMCにとって、フロス治療に動けない間に、市場が景気減速を見込んで動き始めていることが大きな救いになっている。特に、原油相場の急落はFOMCメンバーにとって、絶妙のタイミングだった。現行のフェデラルファンド(FF)金利5.25%は、96年12月にグリーンスパン議長が「根拠なき熱狂」という表現を用いて、株式バブルの形成に言及したときと同じ水準だ。歴史的に低い水準にとどまっている。

          原油相場の急落が利下げ効果

  原油相場高を背景にエネルギー価格が上昇。車社会のアメリカでは、6月にかけてのFOMC利上げを支援する形で強い消費抑制効果を発揮していた。そして、FOMCが8月に利上げ休止に入ると同時に、原油相場は急落に転じ、一足先に実質的な利下げ効果を発揮している。個人消費の伸び率は第2四半期に実質ベースで前期比年率2.6%と、第1四半期の4.8%から大幅に減速したが、第3 四半期には3%以上に回復したとみられている。

  FF金利の誘導目標を5.25%に引き上げた6月29日のFOMC会合では、同金利水準について、メンバーは「緩やかな引き締めから緩やかな緩和」という認識を示した。当時は原油価格が最高値圏にあり、利上げと相乗効果で引き締め圏に入った可能性が高い。

  ただ、その後の原油相場の急落のもとでは、FF金利5.25%は、緩和的になっていることも考えられる。コーン副議長は4日に、「現行の金利水準で、景気が軟着陸できるものと期待している」と語っている。

           資産デフレという伏兵

  ただし、この見方は原油価格が上昇しないという前提に立ったもので、先行きは不透明だ。さらに、フロスの消滅で、資産デフレ期待が生じており、住宅市場の調整が深まる事態も否定できない。FOMCの副議長を務めるガイトナー・ニューヨーク連銀総裁は今年1月に、「資産価格に対処する金融政策にとって、単純で明快な処方箋はない」と、手探り状態にあることを認めていた。

  グリーンスパン前議長は昨年5月の講演の際に、参加者から「今後数年間に経済危機をもたらす恐れのあるリスクは何か?」と聞かれた。これに対して、議長は「予想できるリスクは解消し得るものだ。怖いのは予想されていないリスクだ」と話した。FOMCのインフレ期待に対する防御姿勢は、物価統計の遅効性の罠により、行き過ぎている可能性さえある。リスクはその分、防御が甘くなっている資産デフレということになるかもしれない。