10/17 ブルームバーグ コラム
【経済コラム】北朝鮮核実験で損をする人、得をする人-W・ペセック
10月17日(ブルームバーグ):こんな馬鹿げた時代だから、北朝鮮の核問題についてコメディアンの方が外交官よりも鋭い洞察を見せているのも当然なのかもしれない。
NBC放送の深夜のお笑いトークショー「トゥナイト・ショー」のホスト、ジェイ・レノ氏は、「民主党がブッシュ大統領の北朝鮮政策を非難した」ところ、「ブッシュ大統領は『それは間違いだ。私には北朝鮮政策などない』と答えた」と視聴者を笑わせた。
CBS放送の「レイト・ショー」のホスト、デービッド・レターマン氏は「ブッシュ大統領は北朝鮮の核実験が本当かどうかを確認するのに時間がかかると言っている」が、「それはそうだろう。大統領は大量破壊兵器について性急な判断をする人ではない」と皮肉った。
こんなジョークのネタを提供してもらったコメディアンたちが、北朝鮮核実験で得をしたグループだとすると、損をしたのは誰だろう。
一番損をしているのは、2300万人の北朝鮮国民だ。朝鮮半島の様子を写した衛星写真は、夜も煌々(こうこう)と明るい韓国と、ほぼ漆黒(しっこく)の闇に沈む北朝鮮の対比を鮮明に示す。北朝鮮の経済政策では、銃が重視されバターが無視されていることは明らかだ。
損をしたのはほかに、ブッシュ米大統領、胡錦濤・中国国家主席、韓国の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領だ。ブッシュ大統領は「悪の枢軸」を名指しし、その1国を攻撃、他の2国との対話を拒否する政策の愚かさを思い知らされた。胡主席は、北朝鮮への経済援助が平壌への影響力を高めるわけではないことを学んだ。盧大統領も、北朝鮮に積極的にかかわる「太陽政策」の不毛を感じている。
安倍首相と防衛産業
コメディアンのほかに得をするのは誰かと見回すと、日本の安倍晋三・新首相が挙げられる。日本の国際的地位向上と軍備強化を望んでいるとされる同首相は、今や口実を得た。米国との関係はかつてないほどに強固になり、国連安全保障理事会の常任理事国入りのチャンスも高まったかもしれない。
だが何と言っても、一番得をするのは防衛産業だろう。バンク・オブ・アメリカ・キャピタル・マネジメントの主任市場ストラテジスト、ジョゼフ・クインラン氏は、「武器製造・販売会社の見通しは今、明るさを増した」と述べた。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、世界の軍事支出は1996-2005年の間に34%増え、05年には約1兆2000億ドル(約142兆円)に達した。アジアの軍拡競争は、既に十分に堅調な業界の業績をさらに押し上げるだろう。
日本は経済大国だが、2004年の軍事費は国内総生産(GDP)の1%にすぎない。北朝鮮の行動に対応して軍事費を増やす余地は十分ある。クインラン氏は「このシナリオが実現すれば、得をするのは日本に兵器を供給している米国だ」と語る。アジアの軍拡競争は武力衝突のリスクを高め、何年にもわたり地域経済に影響を与えるだろう。
笑い事じゃない
ともあれ、北朝鮮の核保有は誰もが予想していた既定の路線だ。マンハッタンのビルに小型機が突っ込んだ騒ぎの方が、核実験よりも大きな動揺をマーケットに与えたほどだ。
最も馬鹿げていることは何かと言えば、アジアがリスクの高まりで損をする傍らで、防衛産業が恩恵を受けることだ。コメディアンの卓見が光るのも無理はない状況かもしれないが、考えてみると笑い事ではない。(ウィリアム・ペセック)