10/12 ブルームバーグ 記事
10月月例報告:景気「回復」維持-景気拡大57カ月、いざなぎに並ぶ(2)
10月12日(ブルームバーグ):大田弘子経済財政政策担当相は12日夕、10 月の月例経済報告を関係閣僚会議に提出した。報告は、景気の現状について「回復している」とし、8カ月連続で判断を踏襲。これで事実上、2002年1月を谷とする今景気拡大は57カ月に達し、戦後最長の「いざなぎ景気」に並んだ。
10月は、個別項目でも判断の変更はせず、景気全体として前月から大きな変化はない。輸出は「横ばいとなっている」、生産は「緩やかに増加している」、企業収益は「改善している」、設備投資は「増加している」。雇用情勢については、「厳しさが残るものの、改善に広がりがみられる」、個人消費は「このところ伸びが鈍化している」、としている。
現在の景気拡張局面は10月で57カ月(4年9カ月)。正式な景気の山谷判断は内閣府の景気動向指数研究会が決定するが、10月の月例経済報告で「回復」が確認されたことで、事実上、1980年代後半の平成景気(1986年11月-91年2月、景気拡張期間51カ月)を超え、戦後最長の「いざなぎ景気」(65年10月 -70年7月、景気拡張期間57カ月)に並んだことになる。
長期にわたり景気回復が続いている背景として内閣府では、リストラなど企業の努力、世界経済好調を背景とした輸出堅調、金融不安の払しょく、不良債権処理の進ちょく、金融政策による下支えなどを挙げた。
大田弘子経済財政政策担当相は月例経済報告などに関する関係閣僚会議後の会見で、月例経済報告でみると今景気回復は57カ月に達し、期間でみるといざなぎ景気に並んだとの認識を示した。
同相は、「今景気回復期は、いざなぎ景気と比べ平均の成長率が低く、回復の過程で地域、企業規模間のばらつきがある。そのことを反映し、景気の実感が弱いという指摘もある」と述べた。一方で、「90年代以降、長く続いたバブル崩壊後の負の遺産を脱却し、デフレ脱却も視野に入ってきたことは非常に大きな意義がある。経済がやっと正常な姿に戻ってきているという大きな意義がある」とし、日本が「新たなスタート地点に立ったとみることができる」と指摘した。
06年度の「年次経済財政報告」(経済財政白書)では、雇用・設備・債務の「3つの過剰」を解消する構造改革の進展で柔軟性が増したこともあり、4年以上にわたる景気回復期にあると指摘。「いざなぎ景気」では社会構造の変化を伴う高度成長を実現したが、今回の景気回復は「成熟した経済が構造調整を通じて正常化した状態に回帰する」という特徴があると分析している。
白書では足元の景気について、バブル崩壊後の調整を終えた企業部門の行動が正常化したほか、労働市場の需給改善で家計部門にも好影響が及ぶという好循環がみられるとし、「景気回復が今後も持続する可能性は高い」との見方を示している。
民間エコノミストの間でも「今回の景気回復局面はいざなぎ景気を超え、戦後最長の景気回復となる可能性が高い」(第一生命経済研究所の飯塚尚己・主席エコノミスト)との見方が多い。
先行き-所得、IT在庫に留意
一方で、いざなぎ景気を超えたあと、「踊り場」を迎えるとの見方も出ている。飯塚氏も「年末に向けては景気回復の天井感や一服感が感じられる展開が予想される」とみている。景気の局面判断に用いる景気動向指数で半年程度先の景気動向を占う先行指数が、判断の分かれ目となる50%を7、8月と連続して下回ったこともあり、「今回の景気回復局面がいざなぎ景気を超える11月ごろが景気の転換点となりそうだ」(クレディ・スイス証券の白川浩道チーフエコノミスト)との声も聞かれる。
10月の月例経済報告でも、先行きについては消費を左右する所得の動き、情報化関連生産財の在庫動向には留意が必要と明記した。内閣府では、ダウンサイドリスクとして明記しており、景気の基調や個別項目の判断に変わりはないと強調した。先行きの基調判断としては、「企業部門の好調さが家計部門へ波及しており、国内民間需要に支えられた景気回復が続くと見込まれる」と変えていない。全体的な留意点も前月と同じく、「原油価格の動向が内外経済に与える影響など」としている。
3度目の踊り場も-景気回復の持続性は
民間エコノミストの標準的なシナリオでは、年度後半から米国経済の鈍化などを背景に一時的に減速するとの見方が多い。ブルームバーグ・ニュースが民間調査機関を対象に毎月実施している「ブルームバーグ景気調査・9月中旬調査」では、実質GDP(国内総生産)は7-9月に前期比0.8%増加したあと、 10-12月に同0.6%増、07年1-3月に同0.4%増と緩やかに減速する見通しだ。輸出は7-9月に同1.4%増加したあと、10-12月に同0.9%増、07年1-3月に同0.8%増、4-6月に同0.7%増と鈍化が見込まれる。
米国の実質GDPは、前期比年率で06年1-3月に5.6%となったあと、4 -6月は2.6%増に減速しており、米国経済減速を背景に日本の輸出が鈍化する可能性もある。民間エコノミストの予想では米国経済は7-9月も3%を下回る成長となりそうだ。バークレイズ・キャピタル証券では2.5%成長を予想する。
日本の輸出のうち米国向けが占める割合は、中国向けが拡大する一方で縮小傾向にある。しかし、「米国への輸出シェアが拡大している中国への日本からの輸出が増えているため、米国経済の減速が日本の輸出に与えるマイナスインパクトは大きくなっている」(三菱UFJ証券、経済調査部の向吉善秀シニアエコノミスト)。向吉氏は、製造業の輸出比率の上昇、輸出の設備投資との連動性の高さから、日本の景気は輸出の影響が各セクターに波及すると指摘する。
ホンダの福井威夫社長は12日、都内で開いた新車発表の席上で、「国内景気は数字の回復は見られるが、自動車販売ではそういう感じは受けていない。今は輸出主導の景気回復とみている」とコメントした。
自動車の国内販売はこのところ低調だが、輸出は米国向けを中心に好調となっている。8月の通関統計によると、自動車の輸出は前年比29.4%増加で、これは輸出額全体の4.1%に当たる。米国向けが同49.3%増と、1997年1月に同77.5%増加して以来の高い伸びとなったほか、EU(欧州連合)向けも同7.8%伸びた。自動車は海外生産が増えている一方で、原油高を背景とした燃費の良い日本車への需要の高まりもあり、輸出が増加傾向にある。
月例報告での米国経済についての判断は、「個人消費などの伸びは緩やかになっているものの、景気は拡大している」で、前月と同じ。アジア経済についても前月と同じで「中国などで景気は拡大が続いている」だった。世界経済全体についても「着実に回復している」とし、前月から変えていない。
今後は、設備投資、消費など民間需要がどこまで成長を下支えできるかが鍵となりそうだ。向吉氏は、「供給過剰の解消から企業の雇用、設備投資への需要が高まっており、民需が増加するなかで海外経済の鈍化によるマイナスショックは緩和される」とみている。
同氏によると、過去には米国がリセッション入りしなくても実質GDPが2%台前半を下回り低迷すれば、日本の生産の伸びはゼロ%前後となるという関係があり、景気後退のリスクがあったという。しかし今回、同氏が予想する来年前半の「踊り場状態」は、今景気回復局面での過去2回の踊り場に比べると、鈍化の度合いが小さい可能性がある。
消費「伸びが鈍化」判断維持-所得動向に留意
景気回復の持続性を見るうえで重要なカギを握る消費関連は、このところ弱い数値が目立っている。月例報告では「このところ伸びが鈍化している」との判断を維持した。7月までは、多雨・低温・日照不足など天候要因の影響で低調となっていたが、天候が回復した8月もそれほど強めの数字ではなかった。
8月の実質消費支出(家計調査)は前月比0.6%減。消費総合指数は同0.7%増とプラスに転じたが小幅なプラスにとどまった。自動車の販売も、原油高を背景にガソリンが高騰していることもあり、引き続き弱めに推移した。
報告では、消費の先行きについて、「雇用情勢の改善が家計の所得改善につながっていることから、増加が続くことが期待される」とした。一方で、「今後の所得の動向には留意が必要である」と加えた。
物価判断は変更なし-デフレでないが脱却もせず
物価判断については、9月に政策態度に明記されていた「デフレ」の文言を2001年12月以来4年10カ月ぶりに削除し、足元の経済はデフレ状況にはないとの姿勢を明確にしたが、10月は9月の判断を維持。内閣府では、デフレではないが、デフレから脱却もしていない状況だと説明した。
物価関連指標をみると、生鮮食品を除く消費者物価指数(CPI)は6、7、8月と3カ月連続で前年比上昇している。直近の8月全国分は同0.3%上昇。報告では、「消費者物価の前年比は上昇しているものの、石油製品、そのほか特殊要因を除くとゼロ近ぼうで推移している」としている。国内企業物価については、「素材価格の上昇により上昇している」とした。
日本株は続落、大手銀やキヤノン下げ-コア30依存の修正進む(終了)
10月12日(ブルームバーグ):東京株式相場は続落。オプションの特別清算値(SQ)をあすに控え、日経平均株価は先物主導で前日終値を挟んで乱高下した。9月の貸出資金の伸び率が2カ月連続で鈍化したことなどを受け、三菱UFJフィナンシャル・グループなどの銀行株に売りが先行。個別では、ゴールドマン・サックス証券が投資判断を「売り」に引き下げた住友信託銀行が一時5%以上の下げとなった。
このほか、直近の上げが目立ち、ドイツ証券が投資判断を「BUY」から「HOLD」に下げたキヤノンを中心に電機株が下落。野村ホールディングスなどの証券株、JR東日本などの陸運株などの下げも目立った。キリンビールなどの食料品株、アステラス製薬などの医薬品株も軟調。東証業種別33指数は19 業種が安い。
日経平均株価の終値は前日比31円76銭(0.2%)安の1万6368円81銭。TOPIXは同8.43ポイント(0.5%)安の1613.64。東証1部の売買高は概算で16億7150万株。 TOPIXニューインデックスシリーズを見ると、10月に入ってからの上昇が目立っていたコア30指数が0.9%安と、スモール、ミッド400指数の 0.2%安と比べて下げが大きく、これまでのコア30依存型の相場の修正が進む格好となった。
丸三証券エクイティ部の小祝寿彦執行役員は、「日経平均は9月高値を上抜けたが、TOPIXは依然として抜けていない。TOPIXが上抜けるまでは、相場全体のもう一度の上昇は見込めないだろう。そのためには、新興市場の落ち着きが出てくることが必要だ。需給の崩れの解消を待たなくてはいけない」と話していた。
また、豊証券の菊池由文取締役は「コア30指数のみで株価指数が上昇してきた『異常』な状態が続いていた。きょうは『異常』だったコア30指数のひと仕事が終わっている」(豊証券の菊地由文取締役)と指摘。コア30指数の下落寄与度上位には、三菱UFJやみずほFG、キヤノン、三井住友F、アステラスなどが並んだ。
銀行株が安い
TOPIXの下落寄与度1位は銀行株。UBS証券は11日、長期金利の低迷で銀行の増益イメージが生まれないとして、一部の大手銀行株の目標株価を引き下げた。変更したのは三菱UFJ(165万から160万)、みずほフィナンシャルグループ(105万から100万)、住友信託(1500円から1450円)、三井トラスト(1550円から1450円)。
一方、日本銀行が午前に発表した9月の貸出資金吸収動向によると、特殊要因調整前の銀行貸出平均残高(銀行・信金計)の伸び率は2カ月連続で前月を下回った。日興シティグループ証券の野崎浩成アナリストは12日付のリポートで、「利ざやは期初の会社見込みを下回るところが多く、今年度の中間業績もあまりポジティブな数字は期待できないとみている」と述べた。
アルバックが値下がり1位、大正薬も大幅安
個別では、ゴールドマン・サックス証券が投資判断を引き下げたアルバックが東証1部に値下がり1位。「リポビタンD」事業の採算が悪化し、07年3月期業績を下方修正した大正製薬も大幅安となった。
好業績銘柄には買い
半面、国内の決算発表の本格化を控え、業績面で好材料を出した個別銘柄が積極的に買われた。市場関係者の間で話題となったのがソニーで、株価は1カ月ぶりに続伸した。世界携帯電話4位のソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズが米国時間の11日に発表した第3四半期(7-9月)の純利益がアナリスト予想を上回り、業績への期待が高まった。
またOMCカードが急反発した。会員数の増加を受け、07年2月期の連結業績予想を上方修正したOMCカードが急反発。UBS証券が投資判断を引き上げた日本航空も3日ぶりに大幅反発した。
東証マザーズ、大証ヘラクレスが下げ止まる
新興3市場が下げ止まり、投資家心理がやや改善した。前日はジャスダック指数、東証マザーズ指数、大証ヘラクレス指数がそろって年初来安値を更新していただけに、個人投資家の投資余力の低下が懸念されていた。市場では、「新興市場の下げはマーケットセンチメントに大きな影響を与える」(新光証券エクイティ情報部の三浦豊シニアストラテジスト)との声が多かったため、ひとまず安心感が広がっている。ジャスダック指数は小幅下落。
3指数の終値は、ジャスダック指数は前日比0.1%安の83.27、東証マザーズ指数は同0.9%高の1083.08、大証ヘラクレス指数は同1.6%高の1749.91。
ジャスダック市場では、大型キャンペーンの受注不足などで連結業績を下方修正したバックスグループは8営業日続落。楽天、大塚家具なども下落。半面、クライアントの獲得が順調で06年8月期の連結業績を上方修正したプラップジャパンが6日ぶりに反発。薄型テレビ関連の受注が増加し、06年9月中間期の業績を上方修正した小野産業も大幅反発した。
東証マザーズ市場では、9月の連結小会社合計の売上高が過去最高を記録したSDホールディングスが大幅反発。サイバーエージェント、アイディーユーなども高い。 半面、ファイナンスが嫌気されたエムケーキャピタルマネージメントはストップ安売り気配。「ヘルムートラング」など新ブランドの立ち上げに伴う費用がかさみ、今期利益の回復が鈍いことから、リンク・セオリー・ホールディングスが上場来安値。
大証ヘラクレス市場では、USEN、アセット・マネジャーズ、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、ITXなどが高い。半面、アイ・エム・ジェイ、プレステージ・インターナショナル、デジタルアーツなどが安い。
NY原油(午前):上昇、留出油在庫が予想以上に減少-58.08ドル
10月12日(ブルームバーグ):午前のニューヨーク原油先物相場は上昇。米エネルギー省が発表した週間統計で留出油の在庫が予想以上に減少したのが背景。
週間在庫統計によると、ヒーティングオイルやディーゼル油を含む留出油は 10月6日に終了した週に151万バレル減少して、1億4990万バレルだった。ブルームバーグがアナリスト14人を対象にまとめた予想では、12万5000バレルの減少が見込まれていた。
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の原油先物11月限終値は午前10時 35分現在、前日比49セント(0.9%)高の1バレル=58.08ドル。
NY外為(午前):ドル下落、8月の米貿易赤字が過去最大に拡大
10月12日(ブルームバーグ):午前のニューヨーク外国為替市場ではドルが下落。8月の米貿易赤字が過去最大に拡大したことから、ドル売りがかさんだ。
貿易赤字の拡大は、輸入決済のためにドルを外貨に交換する需要が拡大することを意味する。ドルは対ユーロで、年初来5.5%値下がりした。
ニューヨーク時間午前8時51分現在、ドルの対ユーロ相場は1ユーロ= 1.2535ドル。前日遅くは同1.2515ドルだった。対円では1ドル=119円58銭。前日遅くは同119円78銭だった。
米商務省が発表した8月の貿易収支統計によると、財とサービスを合わせた貿易収支(国際収支ベース、季節調整済み)は699億ドルの赤字と過去最高だった。ブルームバーグ・ニュースがまとめた8月貿易収支の予想中央値は667億ドルの赤字だった。