10/12 ブルームバーグ コラム
【経済コラム】制限高度超えのインド経済、着陸準備を-A・ムカジー
10月12日(ブルームバーグ):インド経済は高く飛んでいる。恐らく、乗り込んでいる投資家の安全面からみると高過ぎる高度で飛行しているのだが、政府当局者は特に着陸に熱心ではないようだ。
それでは、インドは「第2の中国」となり、インフレを伴わずにかつてないほど加速する成長のオアシスになったのか。いや、まだだ。同国が示す数字は確かに素晴らしい。2006年6月30日までの12四半期の国内総生産(GDP)の平均および中央値は約8.4%。独立系エコノミスト、アジェイ・シャー氏は、先月06年4-6月(第2四半期)のGDP成長率は前年同期比8.9%と発表されたのを受けて、自身のサイトで「このような3年間のGDP統計は見たことがない」とコメントしている。
しかし、トレーダーやアナリストの多くは、向こう3カ月間の金融政策を検討する今月31日開催の中銀政策決定会合で、利上げがあるとは予想していない。インド国債10年物の利回りは7月12日に約5年ぶり高水準となる8.4%を付けた後、75ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)低下している。クレディ・スイス・グループは、景気拡大の小休止などなくても、利回りは今後1年から1年半にわたり低下が続くと予想する。クレディ・スイスのエコノミスト、セイレシュ・ジャ氏が先週投資家向けに発表したリポートのタイトルは「債券利回りは低下、成長は堅調」だった。
これは、先進国にとっては少し分かりにくいだろう。堅調な景気は通常、インフレ加速と金利上昇につながると考えられ、債券利回りは上昇する。そうならない場合は、「謎」と呼ばれることになる。米国で6月終わりから今月初めに見られたように利回りが低下すると、景気減速あるいは景気後退期(リセッション)入りの兆しと受け止められる。
8%成長を保証?
こうした従来の知恵は、「貧困」から「繁栄」へのフライトを続ける今のインドには実際に当てはまらない。この観点から考えると、少しの運命のいたずらによって、インド経済の成長曲線は上昇を描き、中国に接近してきている。言い換えれば、インドの潜在成長率は現在約8%と3年前の約6%から上昇している。経済が8%成長を続ける限り、投資家は素晴らしい時間を享受し、政府当局者は遊んでいられる。
しかし、それは本当だろうか。過度のインフレ加速を引き起こすことなく何年も8%成長を持続することは可能だろうか。中国など東アジアで見られたように、労働人口の増加など人口動態上の恩恵からそうした期間は続くかもしれない。
着陸地点見えず
しかし、途上国経済が高成長を達成し、その水準を数年間、場合によっては10年にもわたり持続するという地点には、インドはまだ到達していない公算がある。シャー氏は「過去3年間は景気拡大サイクルの中の拡大期に当たっており、お粗末な政策が加担したもので、インドの潜在成長率が加速したと誤解すべきではない」と指摘する。ここでいうお粗末な政策とは、過度に緩和気味の金融政策と寛大な財政政策を指し、それが景気拡大サイクルを過度に誇張し、景気はしばし「着陸地点のない」フライトを続けることになった。
こうした点を考えると、インド経済の着陸は軟着陸よりもドスンといった荒い着地になる可能性が高い。当局者にとってそうした結果を避ける唯一の手段はインフレ圧力を抑えることだ。インフレ圧力は公式な統計数字に表れていないからといって、存在しないということではない。
原油相場の下落がある程度インフレ圧力の抑制に寄与するだろうが、さほど期待できない。原油高騰の際に、政府はそのコストを完全には消費者に転嫁していないためだ。インフレに関し、インドで最も懸念されるのは金融面での流動性の高まりだ。9月15日時点で、マネーの供給量は前年をほぼ20%上回る水準となっている。伸び率は昨年の同時点を4ポイント上回っている。このことは明らかに、今後金融引き締めが行われることを指し示している。
加えて、インドは政府支出の抑制も大規模に必要だ。モルガン・スタンレーのエコノミスト、チェタン・アーヤ氏は「インドが現在とっている景気優先の寛大な財政政策は、同国経済を潜在成長率以上に拡大させる上で大きく貢献している」と指摘。歳出は経済が好調なとき拡大し、不況時に縮小するというのがインドの予算の構造的弱点となっている。
軟着陸
インド準備銀行のレディ総裁が、これまでの利上げの効果の浸透を待ちたいとして、今月の政策決定会合で金利を据え置く気持ちも分かる。しかしより賢明なかじ取りは、楽観的な債券市場が行き過ぎないように驚きを与えることだろう。インド経済は07年に着陸する必要がある。今ここで厳しい姿勢を取れば、インド中銀は依然、投資家にとって十分に優しい軟着陸の達成が可能だろう。(アンディ・ムカジー)
(ムカジー氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)