10/10 ブルームバーグ コラム
【経済コラム】北朝鮮の核武装は投資家への贈り物-A・ムカジー
10月10日(ブルームバーグ):北朝鮮の「親愛なる指導者」、金正日総書記は、核実験を実施したと宣言することで体制維持に向け計算ずくのリスクを取る戦略に出た。北朝鮮の9日の発表を受けた株式と為替市場の反応はまず、これを嫌気するものだったようだが、韓国への投資家には本当は大きなプラス材料だ。
これまでも事実上の核保有国と見なされてきた北朝鮮は、近隣諸国にとってあらゆる面でリスクとなっている。だが金総書記がこうした核を背景にした瀬戸際政策を取らなければ、米国の金融制裁などに対応し、生き残る可能性がほとんどないのも確かだろう。
これまで核実験実施をちらつかせてきた北朝鮮と長年向き合ってきた韓国の投資家にとって、金正日政権が突然崩壊し、朝鮮半島の南北統一国家が急に実現するようなことがあれば、それはより大きなリスクとなる。
米国際経済研究所(IIE)の試算によれば、朝鮮半島の「統一のコスト」は2000年で1兆7000億ドル(約202兆円)。1990年時点の見通しだった3190 億ドルの5倍だ。これは統一に伴う大規模な人口移動がないとの仮定で、北朝鮮の国民所得を韓国の平均60%まで引き上げるのに必要な北朝鮮への投資額を算出したものだ。その負担を強いられる韓国の若い世代は、その額の大きさにたじろぐに違いない。
米ランド研究所のアナリスト、チャールズ・ウルフ・ジュニア氏によれば、韓国国民の1人当たりの国内総生産(GDP)は年1万ドルを超えているが、北朝鮮はせいぜいその6-12%にすぎない。同氏が共同執筆者として昨年関与したラムズフェルド米国防長官向けの報告書によれば、「東西ドイツ統一と比べ、朝鮮半島統一のコスト負担はより大きいと一般的に考えられている」。
次善の策
圧制からの解放は、北朝鮮の国民生活を向上させるだろうが、その巨額なコストを支払うのは韓国の国民ということになる。双方にとって好ましい解決策は、統一前に北朝鮮が賢明な指導者を持つことだろうが、現実的にそうした選択肢がない以上、コスト面から見た次善の策は金正日体制の維持しかない。
米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は、年間20億- 30億ドルを金政権が必要としていると見積もっている。S&Pのソブリン格付け部門ディレクター、小川隆平氏はこの額について、単に北朝鮮の軍事エリートと政権幹部が生き残り、すでに崩壊寸前の北朝鮮経済を維持するためだけのものだとしている。
米財務省は北朝鮮の顧客向けのマネーロンダリング(資金洗浄)に関与したとして、マカオの銀行、バンコ・デルタ・アジアとの米金融機関の取引を禁じ、各国政府に北朝鮮関連の銀行口座を調査するよう促した。日本もまた、北朝鮮を金融面でさらに孤立させる制裁措置に動いている。
金総書記は恐らく、核実験の実施により、米国が軍事行動を通じ北朝鮮の政権転覆を狙うという選択肢を永遠に放棄せざるを得ないと認識しているのだろう。すでに金正日体制崩壊で最大のコストを負うことを意識している韓国と中国は、核実験を契機に、北朝鮮の国内市場を一段と開放させる見返りに、金総書記が合法的に年間数10億ドルを稼ぐのを容認することが可能となるかもしれない。
唯一の状況
金総書記が失うものは何だろうか?米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスのソブリン債担当アナリスト、トーマス・バーン氏は、国際社会が北朝鮮に対し軍事的な対応を取る可能性は極めて少ないとみている。
経済制裁でさえも、すでに飢餓に直面している国民を抱える北朝鮮では反乱や政府転覆の動きにつながりかねず、こうした結末は韓国も中国も受け入れ難く、非常に厳しいものとはできない。
朝鮮半島で統一国家が誕生すれば、在韓米軍が中国国境に配備されることになる。金総書記が国際的な緊張を高めたことに怒りを覚えている中国だが、しょせんは金総書記を見捨てることはできない。この均衡状態は異常だが、韓国の投資家がゆっくり眠れる唯一の状況でもある。(アンディ・ムカジー)
(ムカジー氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)