日証協が引受審査に新基準、安易なIPO抑制で新興市場育成へ (イートレードの記事)
〔焦点〕日証協が引受審査に新基準、安易なIPO抑制で新興市場育成へ
06/09/20 12:42
江本 恵美記者
[東京 20日 ロイター] 日本証券業協会は、新規株式公開(IPO)の引き受け
審査基準に関する規則を見直し、証券会社間で統一された新基準を導入する。証券会社が
最低限の上場審査基準を保つことで新興市場の育成を促し、株式市場の信頼性確保や個人
投資家保護を徹底する。
このところの株式相場の回復や規制緩和を追い風に証券会社の数は年々増え、日証協に
加盟する証券会社の数は今年9月中旬時点で、308社と過去最高になった。引受業務を
行うことのできる証券会社(元引受業者)の数も年々増え、IPOは大手証券だけでなく
新規参入した証券会社も手がけるようになっている。
IPOに踏み切る企業数も右肩上がりで増加。東証マザーズの上場社数は今年8月末時
点で166社(前年同月は134社)、ヘラクレスの上場社数も149社(同124社)
に拡大した。
日証協は、証券会社に課すルールとして公正慣習規則(第14号)で引き受けに関する
規則を定めているが、同規則は有価証券の売り出し(PO)なども網羅しており、IPO
に特定された審査基準は明文化されていない。
業界全体の統一基準の不在で、社内の人材が不足していることや、ノウハウが確立され
ていないことなどを理由に、証券会社が緩い審査基準で審査し、その結果、基準をクリア
した企業が上場して、IPOからあまり時間が経過せずに不祥事を起こすなどの問題も発
生していた。
03年に東証マザーズに上場したソフト開発会社アソシエント・テクノロジーは、上場
前の不正取引が関係する粉飾決算が明らかになり、05年1月に上場廃止になった。
居酒屋チェーンのゼクーは内紛によるたび重なる社長交代や多額の使途不明金が見つか
って経営破たんし、05年6月に上場廃止となった。証券取引法違反容疑に問われたライ
ブドアは記憶に新しい。
IPOは引き受け手数料収入が見込めるため、証券会社にとって収益拡大のチャンスに
なる。銘柄によっては7─8%の手数料収入が見込めるものもあるという。
ある銀行系証券のIPO担当幹部は、同社で主幹事をできないと判断した銘柄を「うち
に回して下さいと頼んでくる新規参入証券もある」と指摘。大手・準大手証券では引受け
に責任を持てないと判断された企業のIPOを「あまりノウハウのない証券会社が拾うよ
うに引受けていく」(同)との実態に懸念を示している。
企業による株式市場を介した資金調達が活発になる中で、上場後の不祥事などで市場の
信頼を失墜させないためには、今回のように日証協が定めるような業界で統一された基準
が厳密に守られなければならないとの認識は根強い。
大和総研の吉川満執行役員は、IPOの市場が健全に育成されるには上場を目指す発行
体と同時に「引受審査を行う証券界が、一定の責務を担っている」と指摘。新たな審査基
準が導入された後に「協会規則を厳守して市場の信頼性を高められるかは、最終的に証券
会社のモラルや意識の持ち方にかかってくる」とみている。
◎新規公開における引受審査項目
1)公開適格性
・事業の適法性と社会性
・会社の経営理念と経営者の法令遵守やリスク管理に対する意識
・反社会的勢力との関係の有無と排除への仕組み
・上場するにあたっての市場の利用目的の健全性
2)企業経営の健全性と独立性
・関連当事者との取引の必然性、取引条件の妥当性
・親会社など特定の者からの独立性
・関係会社(資本上位会社を除く)の管理状況と出資構成
3)事業継続体制
・企業活動における法令遵守の状況及びコンプライアンス体制の整備状況
・事業推進に必要な知的財産権の保護の状況、他社の権利侵害の状況
・事業継続に当たって重要な契約の締結状況、権利の確保の状況
4)コーポレート・ガバナンスと内部管理体制の状況
・会社の機関設計の妥当性(会社規模、事業リスクへの対応力など)
・取締役、代表取締役、取締役会の責任遂行の状況
・監査役、監査役会の責任遂行及び内部監査機能の状況
・内部管理体制の運用状況と牽制機能
5)財政状態と経営成績
・財政状態の健全性と資金繰りの状況
・財政状態及び経営成績の変動理由分析
6)業績の見通し
・利益計画の策定根拠の妥当性
・利益計画の進捗状況
・企業の成長性・安全性
・剰余金の配当に関する考え方
7)調達する資金の使途・売出しの目的
・調達する資金の使途の妥当性
・調達する資金の使途の適切な開示
8)企業内容などの適正な開示
・法定開示制度及び適時開示制度への適応力
・「事業等のリスク」など企業情報などの開示内容の適正性・開示範囲の十分性・開示
表現の妥当性
(ロイター日本語ニュース 江本 恵美 03-5473-3741
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編集:田巻 一彦)