7/11 ブルームバーグ
【経済コラム】GMのCEO、切り札はトヨタとの提携か-D・レビン
7月11日(ブルームバーグ):米ゼネラル・モーターズ(GM)のリック・ワゴナー最高経営責任者(CEO)は、時間も選択肢も残り少なく苦境に立たされている。
影響力の大きな株主から世界的な提携の検討を求められたワゴナーCEOは、自分の仕事を奪われかねない状況にある。こんな窮地に置かれたワゴナーCEOは、自動車業界の勝ち組とされるトヨタ自動車による救済について少なくとも検討するかもしれないと考えられる。
ワゴナーCEOは表向き、仏ルノー・日産自動車連合への参加を求めるGMの大株主カーク・カーコリアン氏の提案を検討することに合意したが、実際のところ、同CEOら経営陣は慎重な姿勢で、恐らくメリットよりもデメリットの方が多いと主張してくるだろう。同CEOが反対する最大の理由は、日産・ルノー連合がGMに20%出資した後、経営に大きな影響力を及ぼす可能性があり、自らの再建計画の現実的価値を失わせてしまいかねないことにある。
ルノー・日産連合とGMとの提携は、経営再建の専門家として高く評価されるカルロス・ゴーン氏が2社を率いているだけに、表面的には悪い考えとは言えない。ワゴナーCEOは、昨年発表した自らの戦略について、時間をかければ確実に成果を上げると説得することは難しい。労組からは多少の譲歩を引き出したが、数字は依然不透明だ。長期にわたりGMに注目している人々は、ますます疑念を強めており、ライバル企業や株主、取引先、金融機関も疑問視している。
駆け引き
ワゴナー氏がこの駆け引きを続けるには、ゴーン氏に代わる新たな創造的選択肢を見いだす必要がある。一つの可能性は、トヨタ自動車との戦略的提携だ。トヨタは製造技術やビジネスの洞察力などの面で自動車業界の世界的リーダーと認められており、売上高ナンバーワンの座をGMから奪うのも近いとされている。
ワゴナーCEOなら容易にトヨタの奥田碩会長に連絡し、「奥田さん、困っているので助けてほしい。ゴーン氏を阻止するため当社との何らかの提携案を検討してもらえないだろうか」と聞くことができよう。トヨタに関する書籍を執筆したミシガン大学のジェフ・ライカー教授(工学)は、トヨタはこうした要請を受ければ、「検討するはずだ」と指摘する。
トヨタにとっては友好的なベースでGMに15-20%出資するのは比較的安い買い物だし、日産を阻止するには十分な規模だ。この程度の出資では、GMが抱える多額の年金債務などの問題にトヨタがとらわれることはなく、米反トラスト法(独禁法)当局の審査も通るだろう。GMはトヨタに米国の遊休工場を提供する可能性もある。トヨタの株式時価総額は1893億ドルに対し、GMは167億ドルだ。
トヨタとGM
大型のM&A(企業の合併・買収)を避けているトヨタはすでに、GMと小規模なプロジェクトで協力しているほか、GMが保有していた富士重工業株を取得している。ただGMには問題点が相当ある。米国では労使問題や、不透明な会計処理をめぐる政府の調査、市場シェアの低下、ジャンク級(投機級)の格付け、経営の肥大化といった問題に見舞われている。
しかしトヨタにとっては、万が一GMが経営破たんすれば、米国の消費者や政治家から激しい反発が予想されるため、同社との提携はこうした不安に対する予防措置として役立つかもしれない。トヨタはまた、GMとゴーン氏との提携が大変な市場競争を招く可能性もあるため、守りの観点からこれを阻止する価値を考える必要がある。
ワゴナーCEOはゴーン氏と提携するのか否かをどう検討していくかが極めて重要になってくるだろう。カーコリアン氏とアドバイザーのジェローム・ヨーク氏は、検討は取締役会の小委員会の場でコンサルティング会社の支援を受けながら行われるべきだと考えている。
カーコリアン氏と投資会社トラシンダはまた、もう一つの可能性として、ヨーク氏がひそかに進めている独自調査にスポットライトを当てようとするかもしれない。こうした調査は法的な位置付けなどはないが、マスコミや投資家の間に独り歩きする可能性があり、GMの経営陣は守勢に立たざるを得なくなるだろう。
カーコリアン氏とトラシンダはこれまでのところ、自分たちに共感している大口の機関投資家の名前を特定していない。だが、時間が経過してもGMの業績に十分な改善が見られなければ、投資家はワゴナーCEOの計画が成功する裏付けを要求してくるだろう。
すぐに報告すべき良いニュースがないのなら、ワゴナーCEOはトヨタの奥田会長に電話すべきだろう。トヨタは思いがけない白馬の騎士になるかもしれないし、最悪でも「ノー」と言われるだけなのだから。(ドロン・レビン)
(ドロン・レビン氏は、ブルームバーグ・ニュースのコラムニストです。このコラムの内容は同氏自身の見解です)
原題:GM's Wagoner Could Answer With a Call to Toyota: Doron Levin(抜粋) {NXTW NSN J280M40D9L35<GO>}
更新日時 : 2006/07/11 13:19 JST