7/10 ブルームバーグ
米FRB議長ら世界の中銀総裁、市場との対話に苦労─乱高下招く
7月10日(ブルームバーグ):金融政策に関して市場との意思疎通が最近うまくいかず苦労しているのは、バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長だけではない。
欧州中央銀行(ECB)では0.5%利上げの必要性について、当局者の間から矛盾する発言が出ている。福井俊彦・日本銀行総裁は6月に、ゼロ金利政策解除に関するコメントを同日内に撤回した。
6月29日の米連邦公開市場委員会(FOMC)声明での利上げ休止示唆など、世界の中央銀行当局者が送る一貫性のないシグナルは、市場のボラティリティ(変動性)を高め、投資家を慎重にさせている。
モルガン・スタンレーの世界チーフエコノミスト、スティーブン・ローチ氏は、「このような不透明感が投資家のリスク回避の原因となる」と指摘する。リスクが回避できない場合、投資家はそのリスクに見合った債券利回りを求める。中銀当局者の発言をめぐる混乱が、世界の債券利回りを20ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)押し上げたとの試算もある。
2年にわたる予想可能な一定ペースの米利上げの後、バーナンキ議長と当局者は一貫したメッセージを市場に送るのに苦労している。FRB当局者は4月に利上げ休止の可能性を示唆した後、5、6月にはインフレ警戒発言をエスカレートさせ、6月29日のFOMC声明で再び利上げ休止を示唆した。ローレンス・マイヤー元FRB理事は、「FRBは今後の金融政策が経済指標次第と述べていたが、その後メッセージを翻した」と指摘した。
一方、ECBのトリシェ総裁は、中銀が利上げ幅を0.5ポイントとこれまでの0.25ポイントから拡大することを市場に確信させようとしているが、7月6日にはインフレへの「強い警戒」を表明してユーロを急伸させた後に、0.5ポイント利上げの「雰囲気はない」と発言してユーロ下落を招いた。
バークレイズ・キャピタルのロンドン在勤エコノミスト、ジュリアン・キャロー氏は、ECBのさまざまな発言を読み解かなければならないので「気が散る」として、「景気判断とその行方に集中したい」と話す。
福井総裁は6月20日に早期の政策変更が必要との見解を示し、円はドルに対して約1%上昇したが、同日中に自身の発言が誤解されたと語り、円は反落した。
中銀からのまだら模様の発言は、株式市場にも影響している。ダウ工業株 30種平均はFOMC議事録が利上げ休止を示唆したのを受け、4月18日に約 195ドル高となり、3週間後のFOMC声明が利上げ継続の可能性があることを示したため、約142ドル下落した。またバーナンキ議長のインフレ警戒発言で6月5日に約199ドル下落し、6月29日の声明では2003年以来最大の上げを演じた。
ヘッジファンドECUグループのエコノミスト、ニール・マキノン氏は、FRBの意図をめぐる投資家の混乱が米10年債利回りを15-20bp押し上げたと試算する。ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・グループの経済・金利ストラテジー責任者ケビン・ゲイナー氏は、バーナンキ議長の就任以来の米国債利回り60bp上昇のうち、3分の1強が不透明感が原因だとみている。
ローチ氏によれば、新興市場(エマージング・マーケット)と商品相場が特に大きな打撃を受けた。その一例がインド株だ。過去2年にわたり米国と日本の機関投資家の資金が流入していたインド株式市場では、海外投資家が5月 11日-6月28日の間に23億ドル相当の株式を売却。センセックス指数は約20%下落した。商品先物19品目で構成するロイター・ジェフリーズCRB指数は5月11日-6月27日に7.7%下落した。
ゴールドマン・サックス・インターナショナル(ロンドン)の世界経済調査責任者ジム・オニール氏は、グリーンスパン前FRB議長のように1人の中銀総裁が世界の金融市場を動かせる時代は終わったと指摘。「米国や欧州、また日本にも、グリーンスパン前議長のようなリーダーシップを発揮する中銀総裁はいない」と話している。
原題:Bernanke, Fukui, Trichet Can't Match Greenspan's Rate Clarity(抜粋) {NXTW NSN J25WOF076GHT <GO>}
日本株(終了)午後急反転、銀行や機械主導で大幅高-堅調な統計評価
7月10日(ブルームバーグ):週明けの東京株式相場は大幅反発。ゼロ金利解除観測の高まりを背景にとした利ざや拡大への期待、貸し出し増加などを評価する動きから、三菱UFJフィナンシャル・グループなど銀行株が上昇。午後に発表された機械受注が市場予想を上回ったことを受け、ファナックなど設備投資関連も買われた。武田薬品工業など医薬品株、中部電力など電気・ガス株といった景気動向の影響を受けにくい銘柄や業種も上昇した。
前週末の米国株安を受けた午前の日経平均株価は、一時200円以上の下げを見せる場面があった。しかし、午後に入ると銀行株の上昇や先物高を受けて状況が一変。取引開始直後にプラス圏に浮上した後は、徐々に上げ幅を拡大し、上げ幅は245円とこの日の高値圏で終了した。1日の高安のレンジは475円と値動きは大きかった。
先物主導の側面が強く、日経平均先物9月物の出来高は12万2065枚と、活況と言われる10万枚を上回った。朝方発表された銀行貸出平均残高が96年3月以来の高い伸びとなったほか、午後2時発表の5月の機械受注が市場予想を上回り、国内景気の堅調さがあらためて確認されたことは買い安心感となった。
日経平均株価の終値は、前日比245円20銭(1.6%)高の1万5552円81 銭。TOPIXは同20.92ポイント(1.3%)高の1594.07。東証1部の売買高は概算で17億491万株。東証1部の騰落状況は、値上がり903、値下がり675。
いちよし投資顧問の秋野充成運用部長は「売り方が買い戻しを急いだ。1万 5000円の水準をなかなか割らず、北朝鮮問題が顕在化しなかったことなどもあり、買い戻しが入った。ただ、1万5500円以上は買い戻しだけでは厳しい」と指摘する。一方で、この日の銀行や機械株の動きについては「銀行の貸し出しは着実に伸びている。金利が上昇すると、スプレッドが取れるほか、駆け込み需要もある。機械受注が市場予想を上回ったことも、切り返し要因となった」と解説していた。
朝方は米3M業績を懸念、銀行主導で景色変わる
この日の相場は下落して始まった。前週末の米株式市場では、雇用統計で賃金上昇が示され、賃金インフレによる米景気減速懸念が台頭。3Mなどの四半期業績が悪化したことから、企業業績の不安も警戒された。薄型テレビメーカーからの需要減が要因となった3Mの業績低調を受けて、午前の東京市場では日東電工やJSRなどの液晶部材関連が売られた。
もっとも、午後の取引で相場の景色が変わった。上げを主導したのが銀行株だ。貸出平均残高の増加が評価され、午後の取引開始直後からプラス圏に浮上し、相場の主役となった。東証1部の値上がり上位には、みずほ信託、武蔵野銀行、群馬銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井トラスト・ホールディングス、スルガ銀行、八十二銀行などが並んだ。
日本銀行が10日発表した6月の貸出・資金吸収動向によると、特殊要因調整前の銀行貸出平均残高は、前年同月比1.8%増の382兆8885億円だった。5カ月連続のプラスで、1996年3月(2.2%増)以来の高い伸び。都銀等が同 0.7%増と1996年6月(0.7%増)以来、10年ぶりの高い伸びとなった。景気回復を背景に企業の過剰債務圧縮が進み、資金需要が持ち直していることで、貸し出しの増加傾向が続いている。
ゼロ金利解除観測が高まる中、金利上昇による利ざや拡大期待も強まっている。みずほコーポレート銀行は10日、企業への長期貸し出しの基準金利である長期プライムレート(最優遇貸出金利)を、現行の年2.45%から20ベーシスポイント(1bp=0.01%)引き上げ、2.65%にすると発表した。
日興シティグループ証券の野崎浩成アナリストは、「銀行株は利上げが収益にプラスになるとのマーケット・コンセンサスがあり、現実化するならそれを材料視しようとの思惑も株式市場にある」と指摘。その上で、目立った手掛かり材料がなかっただけに、「貸出残高の増加は2つの要因から市場にとって反応しやすい状況にあった」(同氏)という。
野崎氏が分析する2つの要因は、1つが民間資金需要の増加が確認されたことにより、ゼロ金利解除の地ならしが出来たとして日本銀行が政策面で動きやすくなったという点。もう1つは、ゼロ金利解除後も需給バランスの改善によって貸し出し金利を引き上げやすくなる点としている。
機械株が高い、受注統計は予想を上回る
午後の取引では機械株の上昇も目立った。日経平均のプラス寄与度1位は、設備投資関連株の代表であるファナック。株価は午後から徐々に上げ、結局4%以上の上昇となった。
内閣府が午後2時に発表した5月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需の受注額は、季節調整済み前月比2.1%減少した。2カ月ぶりにマイナスとなったが、4月(同10.8%増)の大幅増の反動によるところが大きい。前年同月と比べると15.8%増とプラスを維持し、機械受注の増加基調が続いていることを示した。
ブルームバーグ・ニュースが事前に調査機関を対象に調査したところ、5月の船舶・電力を除く民需の受注額は前月比5.0%減、前年同月比では12.4%増が見込まれていた。内閣府が3月分公表時に発表した4-6月の受注見通しは、前期比2.5%減で、2四半期連続のマイナス。同府では4月分公表時に4-6月の見通し達成には5、6月の各月に前月比9.6%減少しても可能としていた。
その他金融株、小売株が安い
半面、クレディアやアイフル、イオンクレジットサービス、オリックスなどその他金融株、セブン&アイ・ホールディングスなど小売株、日本板硝子や日本電気硝子、旭硝子などガラス・土石株が安い。
個別では、7日に経済産業省から特定商取引に関する法律に違反したとして訪問販売業務の一部停止の命令を受けたサニックスがストップ安(値幅制限いっぱいの下落)比例配分。顧客数の減少で下方修正を発表したニッセンもストップ安比例配分。ともに東証1部の下落率で1位、2位を占めた。
新興市場は軟調、ネクストウェアが業績偽造
新興市場では、ジャスダック指数、東証マザーズ指数、大証ヘラクレス指数がいずれも下落した。午後の取引では下げ幅を縮小したものの、東証1部の株価指数のように、プラス圏に浮上することは出来なかった。
大証ヘラクレス市場ではシステム設計などを手掛けるネクストウェアが、取引開始前に社員による業績偽造の不正行為の疑いが判明したと発表。これを受け、同社に対する信頼性の低下や業績への悪影響を警戒した売りが殺到し、株価はストップ安(値幅制限いっぱいの下落)比例配分となった。不正経理への警戒が響き、新興市場は軟調な展開を強いられた。
市場では、「ネクストウェアの問題は、この日の相場に影響したかもしれないが、基本的には個別の問題で、尾を引かないとみている」(いちよし投資顧問の秋野氏)との声が聞かれた。
ジャスダック指数は前週末比0.78ポイント(0.8%)安の99.27。東証マザーズ指数は同0.33ポイント(0.02%)安の1421.43。大証ヘラクレス指数は同 18.89ポイント(0.8%)安の2245.58。
ジャスダック市場では、テレウェイヴ、楽天、アーク、インデックス・ホールディングスなどが安い。半面、沖縄セルラー電話、朝日インテック、スパークス投信、フクダ電子などが高い。
東証マザーズ市場では、サイバーエージェント、そーせい、シンプレクスインベストメントアドバイザーズなどが安い。契約デザイナーなどに対して訴訟の提起があったリンク・セオリー・ホールディングスも大幅安。05年7月26日以来の下落率となった。 半面、ACCESS、アプリックス、エリアリンクス、サマンサタバサジャパンリミテッドなどが高い。
大証ヘラクレス市場では、ダヴィンチ・アドバイザーズ、アセット・マネジャーズ、D.A.コンソーシアム、メックなどが安い。半面、USEN、エン・ジャパン、ドリームテクノロジーズ、エフアンドエムなどが高い。
外務次官:北非難、議長声明でなく決議目指す-米国務次官補と確認
7月10日(ブルームバーグ):谷内正太郎外務事務次官は10日夕、省内で記者会見し、来日中のヒル米国務次官補と同日午後行った会談で、北朝鮮のミサイル発射に対する国連安全保障理事会決議について、法的拘束力のない議長声明でなく、あくまで制裁決議案の採択を日米両国が目指すことを確認したと明らかにした。
また、韓国大統領府が北朝鮮のミサイル発射に関して、日本のように大騒ぎする理由ないという趣旨の声明を発表したことについて、同日、羅鐘一(ラ・ジョンイル)駐日韓国大使に「ああいうものを出すのは生産的でないと申し上げた」と述べ、抗議したことを明らかにした。