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【FRBウオッチ】「根拠なき熱狂」第2幕、住宅バブル破裂の危機

  6月20日(ブルームバーグ):バーナンキ米連邦準備制度理事会(FRB)議長は4月27日の議会証言を最後に、住宅市場に関するリスクシナリオへの言及を避けている。同議長は2月15日の議会証言で「住宅市場が予想以上の落ち込む恐れもある」とするリスクシナリオに初めて言及。4月27日にはさらに、「住宅市場の先行きは著しく不透明であり、予想以上に減速するリスクが存在する」と述べていた。

  同議長は4月27日の議会証言で、さらに、インフレリスクが残っても、将来的に利上げを休止する可能性があると指摘したため、マーケットからインフレに甘い「ハト派」の烙印を押されてしまった。バーナンキ議長はその汚名をそそぐため、その後タカ派を装う過程で、住宅のリスクシナリオを表明することがなくなった。しかし、同議長が、住宅の急減速リスクに言及しなくなるのと裏腹に、米国の住宅市場は悪化の様相を深めている。

  全米ホームビルダー協会が19日発表した信頼感指数は5月に42と、1995 年4月と並ぶ、11年ぶりの最低に落ち込んだ。同指数の50割れは、住宅市場に対する悲観が楽観を上回っていることを示す。同指数は昨年6月に72でピークをつけたあと下落に転じている。

          利上げ行き過ぎの瀬戸際

  ホームビルダー信頼感指数はFOMCのフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標の変化と逆相関する傾向がある。94年2月から95年2月の利上げ局面では、同指数が93年12月に71でピークをつけたあと、95年2月の最終利上げを受け、同年3月に40でボトムを形成していた。

  当時は、グリーンスパン議長が95年2月23日の議会証言で、「物価指数が上昇を示している場合でも、景気の実態が物価上昇圧力を減ずる方向にあることが確認されれば、金融政策を現状維持あるいは、緩和する時がくる可能性もあろう」と表明。同議長発言を受けて、市場金利が低下に転じたため、ホームビルダー信頼感指数も底入れから反発に転じていた。

  今回もバーナンキ議長は4月27日の議会証言で、いったん利上げ休止を示唆。ここまでは95年の展開と相似形をたどったが、そのあと、マーケットにハト派と決め付けられたため、同議長は方針を変えてしまったようだ。その後、市場金利はバーナンキ議長のインフレ・タカ派発言を受けて上昇。FF金利先物は今月末の追加利上げを完全に織り込み、8月8日の次々回会合での利上げも70%以上織り込んでいる。

  2004年6月からの今回の利上げ局面では、FF金利の基点が1%と極端に低く、その後も緩やかな利上げにとどめられていたため、住宅市場がバブル化し、引き締めが効果を表すのに約1年のタイムラグが生じた。ホームビルダー信頼感指数は利上げの打ち止めが明確になるまで、下落を続ける可能性が高く、行き過ぎたインフレ警戒は住宅バブル破裂コースをたどることになりかねない。

  同信頼感指数が今年5月に記録した42は95年3月の40に肉薄している。しかも、今回はグリーンスパン議長が昨年夏に、住宅価格の急騰を「フロス」(小さな泡粒の塊)と命名したように昨年6月にかけてバブル化がピークを迎えており、同指数はそこから鋭角的に落ち込んできた。これ以上の下落は、95年当時よりもずっとリスクが高い。

         コアCPIと利上げの悪循環

  バーナンキ議長は6月5日の講演で、最近のインフレ指標の上昇は「歓迎できない」と言明、さらに「月間のコアインフレ指標が上昇する最近のパターンが続かないように警戒を怠らない」と強調していた。この同議長によるタカ派発言を受けて、マーケットは利上げを織り込んでいたところに、労働省は今月14日に5月のコアCPIが前月比で0.3%上昇したと発表。これを受けて、今月末の利上げは確実視されるに至った。

  これでコアCPIは3月以来、3カ月連続で0.3%上昇。3―5月は年率 3.8%という高い上昇率を記録した。もっとも、消費者物価は景気に遅れて反応する遅行指標であり、同指数に反応して利上げを続ければ、景気に対してオーバーキルになってしまう。しかも、今回のコアCPI上昇の主な押し上げ要因は帰属家賃の上昇である。帰属家賃は持ち家に住む人々が家を賃貸に出したと仮定して算定する。同項目は5月に前月比0.6%上昇した。帰属家賃はコアCPIの構成要素のうち約30%を占めるため、これだけでコアCPIを約0.18%押し上げている。

  帰属家賃は光熱費の算定などでノイズが生じることが多い。また帰属家賃はFF金利動向と一致する傾向があり、利上げが続く限り、上昇する可能性がある。コアCPIが上昇するから、利上げすると短絡化すると、金利上昇→帰属家賃上昇→コアCPI上昇→一段の金利上昇というスパイラルに陥る危うさを孕んでいる。

             群集心理の罠

  2000年に「根拠なき熱狂」を出版し、ITバブルの破裂を予言したイェール大学のロバート・シラー教授がこのほど5年ぶりに「根拠なき熱狂」の第2版を上梓した。同教授はバブルの形成過程について、「人々の過大な自信がまず存在する。そして、他人の予測を権威があると信じこみ、これに追随すると群集心理が生じる」と書いている。また、同教授によると、こうした群集心理が生じると、事の細部に目が向かなくなるという。

  マーケットはまず、4月27日のバーナンキ議長の発言を権威がないとして、ハト派と決め付けてしまった。そこで、議長がタカ派発言を加えると、その部分に権威を見出した。そして、市場参加者はまず6月末の利上げを織り込んだ。5月のコアCPIが発表されると、今月の利上げのオッズは100%に到達。市場は8月も利上げ継続という予想に傾いてきた。

  バーナンキ議長はタカ派発言を強める一方で、景気の減速にも言及、バランスをとってきた。しかし、同議長は住宅市場のリスクファクターへの言及を中止するなど、微妙にインフレ警戒に傾けてきた。群集心理が生じたマーケットにとっては、同議長のタカ派発言しか目に入らなくなってしまう。バーナンキ議長ならびにコーン理事(次期副議長)がこうしたマーケットの流れに素直に従っているように見えるのも今回のFRBとマーケットとの対話の特徴である。

         対話手法で新旧議長に差

  今回の利上げ局面が始動した2004年の5月から6月にかけても、同様のインフレ懸念が生じていた。同年5月4日のFOMC声明が「慎重なペース(measured pace)で金融緩和を解除できる」と指摘。マーケットは「measured」を小幅利上げと解釈したため、金融当局はインフレに対してビハインドザカーブ(出遅れる)と反応して、市場金利が跳ね上がってしまった。

  バーナンキ議長が今年4月末に利上げ休止を示唆したあと、市場でインフレ懸念が高まったのと同様の展開だった。ここで、04年当時のグリーンスパン議長はバーナンキ現議長と対照的な行動をとっていた。グリーンスパン議長はマーケットとの対話を通じて、政策の説明に動いたのである。同議長はmeasuredの意味について、「金利の据え置きも、小幅利上げも、大幅利上げも、さらには利下げもありうる」と、すべての選択肢を提示した。

  バーナンキ理事(現議長)でさえ、当時はこのmeasured paceについて、「無条件な約束ではない。引き締めペースは経済条件の変化に対応していく必要がある。インフレが加速すれば引き締めペースを速めることもありえる」と強調していた。当時の理事という自由度の高い地位にあったときは、真意を堂々と述べていた。

  バーナンキ議長の今回の対応を振り返ると、この自由度が失われていることが分かる。同議長は4月29日にホワイトハウス記者会の夕食会の私的な会話の中でCNBCのアンカー、マリア・バルティロモ氏に対して、4月27日の発言について、「金融政策の柔軟性を高めるのが目的」と語ったという。これが同議長の真意に近いとみられるが、こうした発言は公式チャンネルでは、その後まったく行わず、タカ派を印象付ける発言を繰り返してきた。

  バーナンキ議長は、「市場は同議長をハト派とみているようだ」というバルティロモ氏の質問に、「私はそれを心配している」と答えたと言う。この回答の通り、バーナンキ議長はその後、市場にハト派と見られたことを修正しようと懸命に努力したように見える。その過程で、6月の利上げが市場に織り込まれれば、それを受け入れるという姿勢に転じたようだ。

          懐刀の輝き方も議長次第

  グリーンスパン議長の懐刀といわれたコーンFRB次期副議長がバーナンキ議長と2人3脚を演じたことも、今後の金融政策を占う上で興味深い。同議長は6月8日の議会公聴会で、議長をサポートしていくと強い決意を表明しており、議長が代われば、新議長の懐刀として務める決意を表明した。懐刀も使用人によって輝き方を変えるということだろう。

  2004年当時を振り返ると、グリーンスパン議長は、同年6月8日、市場でのインフレ懸念の広がりに対して、「インフレ抑制見通しの間違いが判明すれば物価安定目標を達成するため、必要な措置を取る用意がある」と大幅利上げも選択肢の一つと指摘した。この議長発言を受けて、市場では今度は50bpの大幅利上げの連想が生じ、市場金利は上げ足を速めた。

  グリーンスパン議長は、こうした市場の誤解に対して、一歩も引かず、当初の狙い通り同年6月末に25bpの利上げを遂行した。バーナンキ議長は就任直後の今年2月15日の議会公聴会で、「グリーンスパン議長の手法を踏襲する」と表明していたが、金融政策の理念や哲学に根差す手法は自ずから変化していくという証左でもあろう。

          市場追随はリスク増幅も

  グリーンスパン議長は95年2月のFOMCで、5年ぶりの利上げを決断する際、50bpを要求する過半数のメンバーに対し、「私は1948年以来、ずっとウォール街と付き合ってきた。その私が、今、みぞおちに痛みを感じていると申し上げねばならない。今回は大幅利上げのときではない」と述べ、メンバーを説き伏せている。企業エコノミストとして、大部分の経歴をウォール街と接してきたという自負がある。

  グリーンスパン議長は自由市場主義者であるが、ウォール街と長くかかわってきただけに、市場は時として不可解な価格形成を行うということを熟知している。一方、バーナンキ議長は「金融市場は膨大な情報を集めており、経済を学ぼうとする中央銀行に豊かな情報を与えてくれる」(理事を務めていた04年4月の発言)と、市場の価格形成に最大限の敬意を払っている。

  こうした哲学の違いが、マーケットの反応に対する新旧議長の対応の差となって現れたのだろう。マーケットはバーナンキ議長が4月27日の議会証言でのボタンのかけ違いを、自らマーケットに歩み寄って修復したことに満足しているようにみえる。ただ、マーケットの価格形成が群集心理により極端に走ることもあるとすれば、中央銀行がその価格形成に最大限の敬意を払って受け入れることは、リスクを増幅しかねない。

  グリーンスパン議長時代に金融緩和が長期化して、住宅市場がバブル化しているだけに、そのリスクは平時をさらに上回る恐れもある。


記事に関する記者への問い合わせ先:
ワシントン 山広恒夫   Tsuneo Yamahiro
 tyamahiro@bloomberg.net





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更新日時 : 2006/06/21 07:01 JST