夜の国には夜の国の理がある。

影の樹と三日月1

夜が支配する月の国。

明かりは月明かりのみ。
満ちて、欠けて、見えなくなったら深の闇。

でも私たちは気にならない。
それが私たちの普通だから

影の樹と三日月2

私たちに細かなディテールは、あまり意味をなさない。

わかるのは、
私。と、私ではない誰か。

ただ、そこにいるだけ。
それだけでよい。

影の樹と三日月3

光の者はまぶしい。

月の光のような優しさは、あるのかもしれないけれど、わからない。

彼らは何かを語るが、
私は此処以外のどこかに行きたいと思わない。

正直、

ここではないどこかに行こうという気持ちすら、眩しい。

影の樹と三日月4

月は優しい。

ほんの少し、足下を照らして。

何者かであるかも忘れてしまった、私を赦してくれる。

何者かであるのを、忘れようとしている、私を慈しんでくれる。

影の大樹の下で、
すべてを投げ出して、身を委ねる

誰も何も言わない。

誰もがそうしている。

影の樹と三日月5

細い三日月が、私の顔を照らして。

使い古された雑巾の様な、自らの姿を思い出させる。

慟哭が突いて出て、
獣のような声をあげる

やがて雲が、ほんのわずかな光すら覆い隠して、
三日月の涙のように、影の樹が雫を垂らすのだ。

雨が降ったのだなと、

霞の掛かる脳裏に浮かぶ。

影の樹は私の上にも覆うので、時折垂れる雫は涙のようだ。

影の樹と三日月6

夜の国には夜の国の理がある。

私たちには私たちの理由がある。