キラリと光るそれは、投げナイフであった。

光魚短刀1

といっても、暗殺用に作られたようなものではない。

どちらかというと、見せ物て使う、出し物の道具。

でも、ナイフには違いない。

持ち主は手入れの合間に、よくリンゴをむいた。

手入れはよく行き届いている。

持ち主は、練習の時も

このナイフを使った。

使った後は、必ず手入れをした。

本番の時も、練習の時も。

光魚短刀2

道具には、いつしか心が宿って、

持ち主と一緒に仕事をするのが好きになった。

沢山の刃物の中、
誰かを傷付ける事をしない仕事が好きだった。

自分が、頭の上のリンゴに当たる度、
人々が喜ぶのが嬉しかった。

その日はちょっと違った。

持ち主はちょっと体調が悪かった。

だからちょっとだけ狙いがはずれてしまった。

僕は。。。

僕は。。。ナイフであることを辞めた。


光魚短刀3

空気を切り進んで近づいていく、いつもと違う軌道に

僕は精一杯あらがった。

上に向かって飛び上がった。

キラリ

刃が魚の鱗のように輝き

僕はサーカスの空中ブランコよりも高く飛び上がっていた。
そして見えなくなった。

満員のお客さんは、見たことのないパフォーマンスだと思ったようで、拍手喝采だった。

誰も怪我はなかったけれど

彼は僕を失った。

でも。

僕は居るよ。

だってこの人が大好きなんだもん。


部屋の隅で、キラリキラリ

鱗が輝いている。


光魚短刀