紫の日傘を差し、
紫のドレスを着て、
出逢ったその人は驚いたようにこちらを見た。

紫の貴婦人1

「まあ!人なんて久しぶりだわ!」

日傘から覗いた瞳も
結い上げた髪も紫色

「ようこそ。私の庭へ」

ドレスの端をついと摘んで、貴婦人は軽く会釈をした。


紫の貴婦人2

「さあ、中へ。お茶はいかが?
甘い物はお好きかしら?
ああ、今日は久しぶりのお茶会だわ」

ほとんど、押し込めるように家の中へ入れられ、
椅子に座らされる。

椅子に座って、大急ぎで出してきた水を飲み干して。
ふうっ。
と息を吐いて人心地する

貴婦人は小さな鞄を置いて、慣れない手つきでお茶を作っていた。

紫の貴婦人3

「確か、頂き物のクッキーがあったの。
あ、そうだ、パウンドケーキも焼いたのよ。
私が焼いたから、味の方は自信か無いのだけれども」

独り言をいいながら、
どれから手を付けて良いのやら。
ああ、二人居ればいいのに。
という風に落ち着かない。

それを見ながら、ぼそりと呟いた。

「貴女は、いつまでここにいるおつもりですか?」

途端。
貴婦人のウキウキは止まってしまった

「あら…やっぱり、知っていたんですねぇー・・・」

紫の貴婦人4

「みんな、探しておいでですよ。貴女を」

お茶を入れるのを止めてしまった貴婦人に代わって
彼は椅子から立ち上がり、温めてあるカップ二つにお茶を注ぎ込む

ふてくされた子供のように立ち尽くしている貴婦人の前に、
彼は入れたお茶を置いて、
どうぞ。
と勧めた。

「もう、帰らないといけないかしら…」

「貴女がこんなところで、一人で。
慣れないことをするのもいいですが、その姿で一人で居るのでしたら、すぐバレますよ」

しょんぼりとする貴婦人に、
彼は溜息をつく。

「…ま、軍は貴女が居なくても、全然普通に動いていますから、もうしばらくはこのままでもいいんじゃないですか」

え?

連れ戻されるだろうと思っていたので、予想外の言葉に顔を上げた。

彼はニッコリ笑って

「多分、お茶の入れ方も、パウンドケーキも、僕の方が上手ですよ」

「えっと。。。それって、もう軍に戻らなくてもいいってこと?」

紫の瞳がまん丸になっている。

「正確には、まだ、戻らなくてもいい。ですね。
状況が緩やかですから、しばらく自分も、ゆっくりさせてもらいますよ。
さしあたっては、一人でお住まいの貴婦人の執事…のようなものを、やってみようかと思うのですが
ご婦人、何処かよい就職先はありませんかね」

紫の貴婦人5

紫の帽子に
紫のドレスを着て

今日も
紫の椅子に座ってお茶を飲む。

彼女の正体は実はバレバレ

でも、
彼女がとても穏やかだったので、
周囲も
ここに居ることを咎めなかった。

誰も

紫の貴婦人