私の最後の記憶は、
私自身が散らばる記憶でした。

私は宙を飛ぶ、大きな船でした。

機械めいたと言えばそれまででしょうが、
私には意思がありました。

プログラムと言えばそれまでなのでしょうが、
私は、私の事をバディと呼んでくれる持ち主と、常に一緒でした。

相刻の時・再生

当時、大型の船は、戦いの道具に多く使われました。

そうではない使い方をするモノもいましたが、
国同士が…国と言っても、惑星規模の括りの戦いが、激化している頃です。

正規の軍意外にも、物騒なことをする輩が多くいたのです。

私の持ち主は、
そういった戦いに参加しませんでした。

こんなに綺麗な君を、戦いの中で汚していいはずないだろ?!

いつもそういって笑っていました。

綺麗なというのは見目のことかと思うのですが、
私は真っ白な翼を持った機体でした。

白い翼は天の使いなんだから。と、持ち主は言っておりました。

天使の翼は人の為に役立つんだよ。
と、口癖のようないっておりました。

しかし

括りのあるなかで単独で動き回ると言うことは、
疑心暗鬼の戦の中では敵と認識されるようです。

私たちは何度も死線を潜り抜けることになりました。

相刻の時・再生1

ある日、私は、偽の情報に寄せられて、挟み撃ちに合いました。

その時初めて、
私は相手方の船を落としました。

ある意味、私は機械ですから、
最善の策を講じるのは当然のことです。

しかし、持ち主と共に高じてきた私のパーソナルは、
それがどんな意味を持つのか、
知っていたので、哀しく思ったことを、とてもよく覚えています。

いい訳をするならば、
私はその時、沢山の移民を連れていました。

通常時の私の能力であれば、もしかしたら切り抜けられたのかもしれません。

重さと早さと、安全を考慮した結果、
私はそれに至ったのです。

ああ。
もしかしたら、こうなってしまったのは、この時の因果なのかもしれません。
機械的な私は、
それとこれには、全くの因果関係は認められない。と導き出しているのですけれども。

相刻の時・再生2

その時は時空嵐で、通信もなにも出来ない状態でした。
計器は全ておかしな数値をしめすもので、
ある意味、機械の私もおかしな感覚に見舞われるのです。

私は機械なので、夢を見ない筈なのですが、
現実でないモノを、現実に在るように、幻のなかを彷徨う感覚であるというのなら、
時空嵐の中は、機械が見る、夢という現象なのでしょう。

自分の状態も曖昧になり、
かつて記録したことが、細切れにリピートされるのです。

夢は夢でも、これは悪夢という類のモノかもしれません。

なぜなら、
問題のあった記録は、後に何度も引き出され、
対応をリピートするのですから、
問題のあった記録が、たくさん、細切れに、今あることとして襲ってくるのです。

私は何度も、後にシュミレートした行動をとります。

けれど、起こってしまったデータの結末は決まっているのです。

落としたくないのに、何度も何度もそれを堕としていく

私のパーソナルは悲鳴を上げていました。

本来ならば、じっと期をうかがって、
時空嵐が去るのを、冷静に待たなければならなかったのに。

相刻の時・再生3

霧が晴れたとき、
私は四方から一斉に砲撃を受けていました。

悪夢の中で撃った砲弾が、四方八方に飛んだのでしょう。

彼らは、嵐の中に隠れて砲撃していたならず者。
と、私を認識したようです。

持ち主も怪我をしていました。

パーソナルが混乱し、機械の私が操縦できないのを見て、
怪我を押して操っていきました。

そして私は、近くの惑星に落ちていきました。

白い塗装は熱で剥がれ、
大きな翼はもぎとったように吹き飛び

沢山の私が、空に落ちていくように
ばらばらと散らばっていきます

衝撃と共に、最深部にある私自身。エネルギーコアも、衝撃で砕けました。

私の記憶はそれっきり。

情けないことに、
あの優しかった私の持ち主が、どうなったのかも知りません。。。


相刻の時・再生5

沢山の欠片がかき集められた。

なにせ大昔のことだから、それを集めるのはとても困難で…でも、それを見てしまったら、、、
なんとかしてあげないと。
と、思った。

たまたま、僕は森の中で拾ったんだ。

遊んでいて、何かに触ったときに、それは動き出した。

多分、何かの記録映像だろう。

そういうのはよくあるはなし。

昔々、惑星間で大きな戦争があったときに、沢山の船がここに不時着したり、落ちていったのだと、歴史の教科書で習った。

この森はそんな遺物を覆い隠すように萌え広がっていて
遺物の欠片が、そこらかしこに広がっているんだ。

そこに子供だった僕が、探険にやって来たところでなんにもおかしな所は無かったと思う。

本当にたまたま、その記録映像を見てしまったんだ。

真っ白い、ヴェールを被ったような機体
真っ白な翼
キラリキラリと光を反射して
一瞬、それは女神像なのかと思った。

僕はそれに魅せられて、いくつもの遺跡をあさった。

彼女…と呼んでもいいのだろうか?

彼女のものを探し続けた

無くなった技術を知る為には、遺跡の専門知識がいるんじゃないかとおもって、
僕は古代技術の専門家になった。

僕は重要な文章を見つけて、いくつかの実地を経て成果を得ていた。

エネルギーコアは自己再生可能。
幾つかのケイ素素材を修復に当てる。

今までの実験で、コアは三分の一、残っていればなんとか修復ができるみたいだ。

僕は、おそらく彼女のモノと思われるエネルギーコアの欠片を、子供の頃にかき集めていた。

それが本当に彼女のものであるならば。。。
僕は彼女の声を聞くことが出来る。


相刻の時・再生4

無理に進入したことのなかった最深部に入って行った。

木の根が絡みついているので、それは慎重に。
無理に引き離したら傷が付いてしまうから。

奥にある、空っぽの祭壇に、僕は今までの技術を注ぎ込む。

再結晶化に息を呑む。

辺りがピピピと動きだし、機械音が小さく響く

お願いだよ。
君と話をするために、僕はここまできたんだ。

祈るような気持ちで。
いや、
僕は祭壇の水晶球に向かって、祈っていたんだと思う。

…マスター?

やっぱり!思っていたような透き通る声だった!!

僕は踊るような気持ちで彼女に話しかけた。

「残念ながら、僕は君の知るマスターではないです。
でも、貴方の歴史を知りたいと思っています。」

小さな柔らかい声が聞こえる

いつか、また、彼女が飛べるようにしてあげよう。

僕には、それができる知恵があるのだから。

「…は、私の名は…」


相刻の時・再生