わたしは地球人Az-rider…
バイクに乗りこの地域を調査している
今回は閉鎖間近いビーナスラインを訪れた
すっかり秋を通り越し、初冬の風景が広がる高原を走り抜ける
富士見台の駐車場で、八ヶ岳や富士山、中央アルプスや南アルプスを眺め、缶コーヒーを飲みながら休憩をとっているところへ、ボクサーツインの独特のエンジン音を響かせてBMW K1200+サイドカーが駐車場に入って来た
ライダーとパッセンジャーは50~60代のご夫婦だ
ご主人が自分を見かけると話しかけてきた
「寒いけど、気持ち良いよね…R1か…初代は名車だ」
ご主人は相当のバイク好きで、名車を乗り継いできた羨ましい方だ
「知ってるかい?ホンダはCBXっていう6気筒1000ccのバイクを造ってね 今で言うSSモデルさ いろいろと無理をして手に入れたんだけど事故って廃車、乗ってた本人はかすり傷程度だったけどね
次はスズキの1100Sカタナ
あのデザインは今でも古さを感じさせないな…でも当時は一番の人気車で盗まれちゃってさ~
そしたらカワサキからGPZ900R ニンジャが発売されたんだ カワサキの“マジックナイン”だよ
当時、雑誌がこぞってテストしてね
市販車で初めて最高速250km/hを超えたんだ
高性能で人気も出たけれど、さらなる人気を決定的にしたのは映画かな
トム・クルーズ主演の“トップガン”
主人公のマーベリックがアメリカ海軍ミラマー航空基地にニンジャに乗って到着するんだ
夕焼けの空を背景に、基地にアプローチするF14トムキャットと並走するニンジャ…もうカッコよくてね…」
ご主人のバイク愛がとまらない
ついでにお喋りもとまらないf^_^;)
「ニンジャはいろいろとイジってたんだけど結婚を機に手放してね…」
ひそひそ声になり、
「去年まで小さいバイクしか乗せてくれなくてさ、あのBMWも側車なんていらないんだ、バイクは傾けて乗るもんだよ」
「あ、あのそろそろ奥さんを…」
「い、いけね!ちゃんとご機嫌取らなきゃBMWも乗れなくなる…」
そう言ってご主人は売店へと向かっていく
入れ替わりに奥さんが声をかけてきた
「ごめんなさいね…」
「あ、いえ…」
「さっき、“バイクは傾けて乗るもんだ”とか言ってなかった?」
お、お見通しだ
「若いころは無茶やってたの、ここまで来る高速でも他のバイクや車と張り合ったりして…あとで怒ることはしょっちゅう…でも、子供達を車に乗せている時は凄い安全運転だったわね…一年前にバイクに乗るのを許したらホント暴れ馬みたい…どこに行くのかわかったもんじゃなくて、サイドカーを付けて私も一緒に乗ることにしたの…」
ご主人が暖かい飲み物や中華まんを抱えて売店を出て来る
「手綱はしっかり引かないと…ですね」
「ホントにそう、ちゃんとしたお馬さんにしなきゃ…」
「なんの話しだ?」
「なんでもない」
あとはふたりの時間だ…
自分も帰ろう
ご夫婦が手を振るのに応え、帰路につく
ご主人はあんなことを言っていたが、きっと自分で大きなバイクに乗ることを封印したのだろう
奥さんもそれはわかってる…
幾つもの再発見を繰り返して今の夫婦のカタチになった
これもひとつの理想の夫婦だ
ただ、ほっこりしたのはいいが、自分の身の上が落ち込みと虚しさを倍増させる…
このロクでもない素晴らしき世界
缶コーヒーPOSS


