COLLAGE
#6 TIME
僕は2曲目のリリックを書いていた。
Cherokeeは無我夢中に勢いでなんとか書けたが、2曲目はそうはいかない。
改めてヒサタカ君が作ってくれたMVを見返すと、やっぱり僕は歳をとった。
太ったし、髪も薄くなってきた。
思えば20代の頃はRomancrewの楽曲を聴いていただくとお分かりになると思うが、いつも背伸びをしていたし強がっていた。
40代になってせっかくやるんだから、あの時と同じ表現はしたくなかった。
しかし、ありのままを表現するのはとても難しい。
自然体のおじさんは、要するに普通のおじさんだ。
朝日眩しい出勤時に駅のホームであたりを見回せば、自分も含め等身大のおじさんだらけだ。
さて、どう表現しよう。
まずは声を張らずにラップしてみることにしよう。
なるべく普段話す声に近いキーにもしてみよう。
では肝心のリリックだ。
日々ドラマチックな出来事があるわけでもない。
しかし一瞬ふと感じることは意外とたくさんある。
その感じたことをクローズアップしたり、時に俯瞰したりしながら切り貼りしてみることにした。
その際にキャラ立ちという考え方は一度排除してみようと思った。
こんなんでほんとに成立するのかな、と思ったがヒサタカ君はじめ誰かに急かされるわけでもないので、仕事終わりの真夜中や週末に遊びながらじっくり書き進めてみた。
タイトルは”TIME”とした。
このリリックを書き終える頃、僕は少しだけ自然体を感じれたような気がした。
それは今の自分を受け入れることだったのかもしれない。
働きながらラップをすること、才能があると思っていたのにそうでもなかったこと、体力が落ちたこと、人生の折り返し地点にいるということ。
自分にもたしかにあった20代の頃の景色をもう見ることは出来ないけど、残された時間を感じて眺めるこの景色は40歳を経た今しか見れなかったように思う。
するとくっきりと浮かび上がってくるものがあって、そのすべてにありがたい気持ちになった。
そのことを「時」が教えてくれた。