親の恩、人の恩、神仏の恩。
お前が今までに受けた恩を全て返そうと思えば、
残りの人生全てをかけても足りるのかのう?
ー 井上雄彦
略歴:日本の漫画家。代表作に『SLAM DUNK』、『バガボンド』、『リアル』など。『SLAM DUNK』は日本におけるバスケットボールブームの火付け役となり、2010年現在の累計発行部数は完全版を含め、国内で1億1700万部を超えている。
確かこの言葉は漫画『バガボンド』において、宮本武蔵が心の師、宝蔵院胤栄に言われたものと記憶しています。天下無双の武芸者になろうとはやり立つ武蔵を、たしなめる一言です。
私たちはともすれば、自分の力だけで現在の地位や財産を築き上げたと思いがちですね。確かに、私たち自身の血と汗と涙なくしては今日の自分はないわけですが、それが全てではありません。今日の自分は、親、兄弟、親類、友だち、先輩後輩、先生、近所の人たち、職場の同僚等、これまて関わってきた全ての人たちのご恩の賜物でもあるのです。
実は動物の中で人間ほど自立が遅いものはないそうです。馬の赤ちゃんは生まれてすぐに四つ足で立ち、数時間で歩き回ります。それができないと、あっという間に肉食獣の餌食となってしまうからです。人間は、脳が高度に発達して重たくなってしまったため、生まれてすぐの段階では四つん這いで歩くことすらできません。ハイハイができ、二足歩行ができるまでは 1~2年はかかります。それまでの間は仮に肉食獣に襲われてもまったく無防備な状態で、身を守るのは親に頼るしかありません。自力で歩くことができるようになっても、現代社会においては自活するまでにはさらに二十年弱を要します。成人して、就職できて一人前。通常、親はそこまで面倒を見ているのです。何とも寛大なモラトリアム。それは発展途上国ではなかなか望めないことです。
受けた恩は返すのが人の道です。もらいっぱなしでは、欲の亡者となってしまいます。特に人生も後半にさしかかったら、受けたものを一生懸命返すことです。誰に返すか。世の中にです。良くしてくださった人たちに直接返すことばかりが恩返しではありません。若い人たちには、自分が経験から得たことを、面倒がらずに教えましょう。きっと将来の役に立つはずです。通りや電車で困っている人がいたら、手助けしましょう。まずは、一声かけてみてください。受けた恩はすっかり返し、プラスマイナス・ゼロでこの世を去るのが私の理想です。