ちくま新書
博士課程まで、ショウジョウバエをモデルとして、細胞が自殺する(アポトーシス)の研究に取り組んでいた筆者は、細胞の生死が細胞間の相互作用によって決まる過程を観察すると同時に、他者との関わり合いの中でメンタルバランスを崩す友人に次のような疑問を感じたと言います。
「なぜ他者との社会的な関わりが、これほどまでに行動や生命機能、さらには生死という運命や寿命にまで影響するのだろうか」
「社会性」をテーマに研究を進める中で注目したのが、「アリ」でした。
アリは、ご存じのように集団で生活し、互いの役割を分担しつつ、子育てをし、命を次世代につないでいきます。
アリの中には10年も生きる個体がふつうにいるということは、本書を読んで初めて知りました。
ほかにも、自分の家族とそうでないアリをはっきりと見極め、家族でないアリは殺してしまうこともある、負傷したアリを巣に運び治療するなどの行動も興味深いです。
感染したアリが重篤な場合には巣に戻らない一方、軽症の場合は巣に戻って仲間に接し、ワクチンのような効果をもたらしているのではないかとも推測されているそうです。
すごいね
さて、そのように集団で暮らすアリですが、研究では、実験的に集団で暮らすアリとぼっちのアリにわけて観察をしていきます。
結果、ぼっちで暮らすアリは、何と集団で暮らすアリの10分の一まで寿命が縮んでしまうそうです。
かわいそうに
ぼっちのアリに一体何が起こって早死にしてしまうのでしょうか。
研究はまだ途上とはいえ、エネルギー代謝に関わる末梢の細胞における酸化ストレスが、寿命の短縮や行動の異常を引き起こす原因になっていることはわかっているようです。
なんとなくそうだろうなという結果で、つい人間にも当てはめたくなりますが、筆者は「私たちヒトの孤立とは生物学的にまったく異なる意味をもつ現象」と言い切ります。
副題も「昆虫研究の最前線」だしね
そのとおりでしょうけど、やはり、ヒトとして、社会に関わることと独りでいることのバランスとか、いろいろ考えさせられる内容でした。
昔見た映画を思い出したりして
おつき合いありがとうございます。