2016年9月
河出文庫
失恋の痛手から、精神に変調をきたしたこと
ゴーギャンとの決別の後のショッキングな耳切り事件、その後の自決
美術に疎い私でも小耳にはさんだことのあるゴッホのいろいろですが、本書から、ゴッホのあまりにも思い込みの強い性格、それに伴う勘違いと周囲の困惑、軋轢などを知ることができました。
これもなんとなく聞き及んでいたことですが、弟・テオの献身。
ゴッホの死後、彼もまた精神を病んで亡くなってしまったというのははじめて知りました。
弟の妻の、義兄ゴッホを何としても世に出すという執念にも物すごいものを感じます。
さらに、この弟夫婦の息子が伯父の絵を決して手放そうとしなかったのもすごかった。
そのため作品は散逸を免れ、今日私たちは、個人美術館としては世界最大規模のアムステルダム「国立ゴッホ美術館」で、油絵200点、素描550点、書簡700通を見ることができます。
自決に至るまでのゴッホの孤独、その後の弟家族の後悔と苦難の部分は涙なしに読めません。
版画家でもある著者の西岡さんによる、ゴッホの絵の解説も「へー」と思うものばかり。
あの過剰に塗りたくった「ザ・油絵」みたいなゴッホの絵を私はあまり好きではなかったけれど、SOMPO美術館ではじめて「ひまわり」の前に立ったとき、心が揺さぶられるような衝撃を感じました。
国立西洋美術館にある「ばら」は静かな魅力があります。
先日、ポーラ美術館で見た「アザミの花」は知的で穏やかな感じ。
ゴッホってどんな人だろうと、興味を持ちました。
最後の章は「ゴッホはなぜ愛されるのか」
生涯、自分らしさを追求し、だれの絵でもない画風を打ち立てたゴッホ。
西岡さんのこんな言葉が心に残りました。
人の幸福の基本は、その人がその人である、そのことのみを純粋に祝福してもらうことにある。人は、誰かの代わりに生きることはできないのである。
おつき合いありがとうございました。