幻冬舎文庫
790円+税
日経新聞の日曜版に載る中谷美紀さんのエッセイがいいのです。得難い経験を的確な言葉で綴る、知性に裏打ちされた表現力。
これは、まとまった文章を読みたいと、本書を手に取りました。
井上靖原作『猟銃』の3度目の舞台はニューヨーク。
伝説のダンサー・パリシニコフとの共演です。
中谷さんが演じるのは、妻、愛人、その娘の1人3役!
通訳もつけず、単身乗り込みます。
かっこいい。
とはいえ、初演から10年、最後に演じたのは2016年で、「千穐楽にはもう二度と『猟銃』を演じることはないだろう」と心に誓ったほど、「苦しく、困難な作品」の上演には想像を超えるハプニングが続発。
自身の心身の不安も含めた、舞台裏を明かす語り口はなかなか饒舌です。
女優さんでエッセイを書く方はたくさんいらっしゃいますが、みなさん、文章がうまい!
台本という作品に向き合い、日々、じっくり考えることが、その人ならではの表現を生むのでしょうか。
いかに大量にかき集めても、自分の頭で考えずに鵜呑みにした知識より、量はずっと少なくとも、じっくり考え抜いた知識のほうがはるかに価値がある。(ショーペンハウアー『自分の頭で考える』)
最近、日経の夕刊に載る松重豊さんの文章も好きだなあ。
本書をきっかけに井上靖の『猟銃』も読んでみました。
芦屋の素封家の物語です。
ひとりの男が受け取った3人の女からの別れの手紙。
1通は妻から、もう1通は妻の従妹から。
妻の従妹と男は10年以上の愛人関係にあります。
そして、その妻の従妹の娘から。
ちょっとややこしい(笑)
井上靖、はじめて読みましたがおもしろかったです。
みんな人間は一匹ずつ蛇を持っている
そんなものなんでしょうか。
来年は巳年だな。
おつき合いありがとうございます。