2024年3月22日

築地書館

 

日本でも、住宅街に野生動物が出没するニュースを見聞きすることがありますが、本書で紹介される事例はちょっと衝撃でした。

 

例えば、ロスアンゼルス北部の富裕な郊外の自宅の庭で遊ぶ3歳の少女が、コヨーテに襲われて死亡したこと。

2016年には、やはりロスアンゼルス動物園の囲いの中にいたコアラが、恐らくピューマに襲われて無残な死体で発見されたこと。

 

ニューヨークやロスアンゼルスのような大都市は、もともと豊かな生命が満ちあふれる場所だったようです。

 

初期の入植者は、キツネ、オオカミ、ヤマネコ、リス、ビーバー、ミンク、クマなどの動物を目にすることができました。

鳥の声やカエルの鳴き声がうるさくて、「人の声が聞こえない」と嘆く人もいたようです。

 

環境史家である著者のピーター・アラゴナは、都市の歴史をたどり、人によって追いやられた野生動物が、再び都市をうろつくようになった過程を描き出します。

 

人口が増え、都市が郊外へと膨らみ、狩猟が衰退すると、絶滅危惧種とみられていたある種の野生動物たちの個体数が回復し始めます。

 

環境が見直され、人工的な緑地がつくられたこと、エサとなる「生ゴミ」が豊富にあることも、野生動物にとっては福音だったようです。

 

それはヒトにとっては脅威ともなりますが、著者は捕獲でも保護でもない「共生」の道を提唱します。

 

私たちのそばで暮らす動物は、多くの恩恵を与えてくれる。彼らは私たちを教育し、想像力をかき立て、新たな病気から私たちを守り、あるいはそれらについて警告し、私たちの生息地を悪化させる力に立ち向かわせ、私たちにもっと柔軟で、寛容で、思いやりのある人間になるよう促してくれる。

 

1992年、ハリケーン・アンドリューがマイアミを襲ったとき、嵐の前日、野生の鳥たちは姿を消していたといいます。

2018年、ウールジー・ファイヤーと呼ばれる山火事が48時間かけて、カリフォルニア郊外の街を焼き尽くしたとき、地元のピューマのほとんどは無傷だったそうです。

 

人間や人に飼われている動物たちがとっくの昔になくしてしまった野生の勘のようなものを彼らは有しているのでしょう。

 

共生は簡単ではないと思いますが、彼らから学べることはたくさんありそうです。

 

 

 

 

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