2023年6月25日

イースト・プレス

 

 

2019年秋、「1人の無期懲役囚が刑務所の中から姿を現し」ました。

 

「1950年代末。21歳で無期懲役の判決を受け」、それからずっと刑務所の中で過ごしてきた男は、そのとき83歳でした。

 

このニュースは話題となり、『日本一長く服役した男』と題して、熊本県域で放送されたそうです。

 

本書は、その番組をつくった取材班の中の2人の記者の取材活動をつづったものです。

 

短い番組の中では到底語り尽くせない、取材のリアル、記者それぞれが感じた疑問、少しずつ考えが深まっていく様子などが描かれています。

 

 

冒頭、描写されるのは、記者が熊本刑務所を見学したときの様子です。

 

刑務官の呼びかけに排泄しながら答える受刑者
「かゆ」と書かれた朝食

食事の時間になっても、布団に潜り込み、横になろうとする受刑者は、認知症と診断されています。

 

 

「熊本刑務所は、全国の中でも特に重い罪を背負った」受刑者を収容しているそうです。「何十年も前に起こした事件で長期にわたって服役する受刑者が多くいることに加え、無期懲役囚も数多く収容していて、仮釈放されるケースも少ないため、高齢化が進んでい」ます。

 

 

「日本一長く服役した男」もここに収容されていました。

 

無期懲役囚でも「仮釈放」されれば、一定の条件のもとに刑務所の外に出ることができます。

 

しかし、実際は引受人が見つからないことが多く、基準を満たしていても外に出ることは難しいようです。

 

そのため、受刑者たちの中には、外に出られるという期待を抱いてはかなわない絶望の中、何十年も刑務所で過ごしている人もいるようです。

 

無期の人は引受人がいなくて、『せめて最後は娑婆で……』と言いながら、刑務所の中で亡くなる人がたくさんいました。「人生いつからでもやり直せる」って言えるよう、無期の人でも受け入れられる施設を作りたかったんです

 

元受刑者や非行少年を受け入れて立ち直りを支援するNPO法人「オリーブの家」を立ち上げ、運営している青木さんという人の言葉です。

 

 

 

さて、そんな中、「日本一長く服役した男」は引受人も見つかり、仮釈放されることになります。

 

がしかし、61年刑務所の中で過ごしてきた83歳が「娑婆」で暮らすことがどんなに困難か、私でも想像がつきます。

 

世の中の変化が急速に進む現代、ずっと「娑婆」にいた80代だって、対応するのが難しいと感じている人もいるのではないでしょうか。

 

 

記者は悩みながらも、男が罪の重さを自覚しているのか、被害者とその家族に対する真の謝罪の気持ちがあるのか、探っていこうとしますが……これが難しい。

 

被害者の遺族はどんな思いでいるのでしょうか。

 

取材班は、遺族にも取材を試み、亡くなった人の長女から手紙を受け取ることができます。

 

犯人の彼が憎いとかいう感情ではなく、母はいないという思いだけです。人を許すという事は自分が強くなければできません 私には無理ですね

 

61年前、21歳のAは、この人の母親を殺めました。お金がないという短慮から出た犯行で、友だちにそそのかされた面もありました。打合せはありましたが、計画性と呼べるようなものではなかったように思います。男は戦争でおそらく両親を失い、施設育ちという経歴でした。

 

だから、罪を犯してもいいということにはならないのですが……

 

人が人を裁くということの難しさ

 

答の出ない疑問を抱えた記者2人の紆余曲折が、そのまま何とも言えない読後感となりました。

 

 

被害者と加害者、罪と罰との間に存在する深い隔たり。それを前にして、私たちにできることは、ただ問いかけることだけだった。(P235)

 

 

 

 

 

本日もおつき合いありがとうございます。