2023年5月4日

草思社

 

 

核のメルトダウン、毒物汚染、膠着状態の紛争地帯……

 

どれも人にとっては災厄ですが、自然界にとってはむしろ恵み?

 

キプロスの廃墟、ウクライナの廃校、ソ連時代に広大な農場があったエストニアの牛舎など、著者のカル・フリンが訪れた、世界の土地の現在の姿が写真つきで紹介されます。

 

チェルノブイリの体育館を突き破って生えるシラカバや闊歩する野生の馬たち。

 

もっとも被害の大きかった地域では、放射能レベルは、数時間から数日のうちに「その場にいたすべての哺乳類を殺すのに十分であった」と推測されるにもかかわらず、数年のうちにオオヤマネコ、イノシシ、シカ、ヘラジカ、ビーバー、ワシミミズクなど、数え上げればきりがない希少種が見られるようになったということです。

 

「人がいなくなれば自然は回復する」というような単純な話でもなさそうですが、「自然保護」という名目の過剰な介入は、むしろ環境にとってよくない影響を与えるようです。

 

著者は、これを医療の名のもとで行われてきた、「人体への過剰な介入」に例えます。

 

自然に備わった治癒力を引き出す方向で治療が行われるほうが有益な場合が多いように、自然に対しても謙虚な姿勢で向き合うことが求められています。

 

バランスが大切ということでしょうか。

 

著者は、自然界の回復力を「希望」と捉えます。

 

人が方向性を間違わなければ、この先も共存していけるでしょうか。

 

本書からは、今がぎりぎりのところだという危機感も伝わってきました。

 

 

荒地のように見た目の悪い場所が私たちに教えてくれることは、自然環境に対する新しい、より洗練された見方である。絵のように美しい景色かどうかでも、手入れが行き届いているかどうかでもなく、生物学的な力強さに注目することである。そうすることで、世界はまったく違って見える。

 

 

人と人との関係でも、相手の立場に立ってみることは大事なことですが、人以外の視点というのも、また大切であると痛感します。




 

お読みいただきありがとうございます。