「カフタン仕立ての手仕事の描写に魅せられる。生地の艶やかな手触り、生き物のようにくねる刺繍(ししゅう)糸の輝き。その官能的な美がこの地の日常に根をおろしているのだ。」日経新聞2023.6.16日夕刊・アートレビュー中条省平(映画評論家)
ここだけ読んで、カフタンが何かもわからず、見に行ってしまいました。
いや~よかったですよ。
どこの国の話かも見終わってから調べたんですが、舞台はモロッコの古都サレ。
昔ながらの路地が残る海辺の街です。
カフタンとは結婚式やフォーマルな場に欠かせない華やかな伝統衣装で、母から娘へと受け継がれる大切なドレスです。
このドレスを手仕事で刺繍を施し、丁寧に仕立てる職人のハリム。
店を切り盛りする妻のミナは、仕事が遅いと文句を言う客には「夫は機械じゃないのよ」と言い返すしっかり者です。
しかし夫には、公衆浴場に通い、行きずりの男性と関係を結ぶという秘密がありました。
ミナが店の若い職人につらく当たるのも、夫の性嗜好を知ってのことでしょうか。
映画の画面を彩るのは、青いシルクのタフタと金の刺繡糸。
食卓にのるタジン鍋にも異国への憧憬がかきたてられます。
心を揺らす音楽と絵になる画面。
ラストは実にさわやかな感動です。
おつき合いありがとうございます。